平成最後の夏を描いた、痛くて切ない、ちょっぴり歪んだ青春恋物語。 主人公はちょっぴりパッとしない高校生の小秋。そんな小秋と親友の美少女、真夏との青春の1ページを切り取ったような本作。 青春小説特有の複雑な心情やエネルギッシュな躍動感がこの作品からは感じられ、胸がギュッと締め付けられたり、ドキドキと高鳴ったりします。 大人になった今だからこそ感じられる、青春の懐かしさがなんとも心にしみます。 そして物語の構成も圧巻で、約2万文字で読者の気持ちを最高潮に高めてクライマックスを迎えさせてくれます。 素敵なイラストも必見! 田舎の駅から見える爽やかな海。 青い空。 白い雲。 二人の女子高生。 このイラストが読後、違うものに見えてくるんだから作者の演出は憎い。 レビューを書いている今もまだ胸がドキドキしています。 心を動かす作品。是非あなたにも読んでほしい。
昨今とあるソーシャルゲームの登場で、競馬熱が高まっている。 少女の愛らしさに魅せられ、レースに掛ける思いに熱を浮かされ、ついには現実の名馬の歴史に手を出す――そして、多くのプレイヤーは思うのである。「どうしてもっと早くに競馬に興味を持たなかったのだろう。手に汗握る戦いをリアルタイムで目撃しなかったのだろう」と。 この気持ちを満たすためにはどうすればいいのだろうか。当然、一つには現実の競馬で「推し」を見つけることが解決手段になるだろう。しかし、キミの愛馬は歴史的快挙を遂げてくれるのだろうか。勝つ馬が必ずしもいい馬ではないが、勝ち切れない馬もいる。悲劇的な最期を迎えない保証は? 誇り高き戦績を挙げるとして、あと何か月、何年ドキドキしなければならない…? ウェブ小説を読み漁る刹那的で消費的なオタク(暴言)にとっては、短時間で補給できる栄養ドリンクもまた重要なのである。それこそハーメルンで連載されているようなウマ娘二次創作を読んでもいいが…架空馬に抵抗がないのであれば、手軽にかつ興奮して読める金字塔が存在するじゃないか! それこそが、『12ハロンのチクショー道』であり、その続編でここでレビューする『12ハロンの閑話道』なのである。 前置きが長くなったが、レビューに入ろう。 この作品の中心に置かれるのは、サタンマルッコの名を受けた3度目の生を送らんとする競走馬である。1度目の人生では色に溺れ、2度目の馬生では稀代の競走馬としてフランスで戦うも夢半ばで斃れる――このようなバックボーンを持つために特異な性格を持つサラブレッドと触れ合い、驚かされ、魅了される周辺の人物の視点から話が進行する。転生ものではあるものの、主人公の語りは非常に少なく、群像劇の様相を成している。 サタンマルッコの見せるコミカルな描写とは対照的な、競馬に関わる人々の熱い人間ドラマ――それも小心者のオーナー、馬を愛する厩舎の人々、勝負にすべてを懸ける騎手、喧しくも無責任だけど憎めない某掲示板の住民たち――が展開され、田舎のダークホースが中央のエリートや世界の強豪と轡を並べそして勝つ、王道ならではの爽快感がそこにはある。 これらの要素が、臨場感のある実況によって疾走感を表現したレース展開と絡み合い、応援したくなるサタンマルッコが描かれているのである。 さて、ならば本編の『12ハロンのチクショー道』をレビューすればよいではないかという意見もあるだろう。そこには、「閑話」と銘打たれ、作者によって蛇足とまで言われたこの『12ハロンの閑話道』が、その実無駄話などではなく、正統な続編であり完結編であるという事情がある。 本編の12パートと番外編を経て、私たちはサタンマルッコとジョッキーの横田の執念とも言える走りに心を奪われる。しかし、競馬は一騎のみで行われるわけではない。そこには魅力的なライバルたちがおり、サタンマルッコだけでなく、彼らについてさらに知りたい、熱くなりたいと考えるタイミングこそが、本編『12ハロンのチクショー道』が66/66となって読み終わってしまう瞬間なのである。 そして「閑話道」は、その要望に応える、より多くの陣営にスポットを当てた戦いであると同時に、痛快な競争馬サタンマルッコの旅路を終えるまでの物語である。 その内容にはあえて詳しく踏み込まないが、最終章ニジイロは思わず涙を流してしまうレースであった。 当該作品には、小説家になろう側で私より簡潔にうまく魅力を伝えた先行レビューが複数存在している。すでに布教が進んでいる作品について、この感情的なレビューが果たして効果的であるかは疑問符が付く。しかし、オノログという素晴らしいサイトの創設により、より様々な層の人々が「チクショー道」を読み、それだけで終えず、「閑話道」までサタンマルッコを見届けてほしいという一心で、『12ハロンの閑話道』にレビューを書かせていただいた。 ぜひ皆様には彼の馬生を堪能していただき、私とサタンマルッコの喪失感を共有していただければと思う次第である。
『異本』と呼ばれる特別な本を集める物語。 現代世界が舞台ながら、その空気感はまるでファンタジーの様です。 こちらの作品は第6回カクヨムWeb小説コンテストの中間選考を通っていたり、 ノベリズム大賞では選考を通った上に主催側から言及を頂いているほど優れた作品です。 内容も実に美しく、キャラクター同士の掛け合いから始まるのが印象的でした。 話が進むにつれ世界観や目的が分かっていくという構成が実に素晴らしく、それだけで世界観にどっぷりと浸れます。 また本に関する知識も豊富で初版に関する出来事が話のキーになっていたり、フィクションながらベルリン崩壊といった実際の国の歴史や文化も作中に登場するなど、現実世界の出来事にも造形が深く描きたいものがしっかりと伝わる内容です。 シンプルかつ洗練されたタイトル、そして本を開けば仕掛け絵本のように溢れる魅力の数々。 是非貴方も一読してみては如何でしょうか。 私も陰ながら応援しております。
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