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和田島イサキ

みっちり書くのが好きです。 Twitter: https://twitter.com/wdzm 作品一覧: https://wdzm.hatenablog.com/entry/2021/02/02/043747

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シャイニングバスター高校の超常的日常 ~ハッピーエンド篇~

エンドするまでもなくハッピーな世界

 シャイニングバスター高校を舞台に繰り広げられる、キス魔の少女とその標的となった少女の、とある放課後のひと騒動の物語。  百合コメディ、それも嵐のようなテンションで一気に持っていくお話です。というか、テンションです。テンションそのもの。いやタイトルと紹介文(あらすじ)の時点でうっすら予感はしていたのですけれど、想像以上の暴風雨が目の前を突き抜けていきました。おおおおなんですのこのとてつもない勢いは……。  いや本当にただ「楽しかった」とか「笑いながら読みました」とか、そういう主観的な感想でしか言い表せません。というのもこの作品、たぶん相当に説明が難しいタイプのお話で、きっと何を言っても野暮になってしまうところがある。基本的にコメディ作品って、真面目に説明しようとすればするほど、いわゆる「ボケ殺し」か「ハードル上げ」になってしまう面があるので……。  というわけで、ここから先はあくまで軽い気持ちで読み流して欲しいのですけれど、とにかくすごい熱量でした。いわゆる不条理コメディ、あるいはスラップスティックと呼ばれる種類のお話。一見、とにかくはちゃめちゃなお話のように見えるのですけれど、実はその荒唐無稽さはほとんど設定面に起因していて、お話の筋それ自体はそこまでめちゃくちゃでもない……とは言い切れないのですけれど(結局設定の面が強すぎて行動に波及してくる)、でも軸そのものはきっちり百合してるんです。  主人公を追いかけ回すキス魔の少女、フニャニャペさん。文化や習慣の違い、ある種のディスコミューケーションが産んだ悲しきモンスター。ハリケーン級の大災害として描かれる彼女は、でも実際にはなんの変哲もないひとりの純粋な恋する少女でしかないと、そう言い切ってしまうにはやっぱり被害が大きすぎるのですが、でも感動しました。  終盤のクライマックス、謎の感動と言ったら失礼なんですけど(謎ではないので)、でもあまりにも素直で真っ直ぐな愛の告白! そしてその後の展開も含めて、結構しっかり恋の物語している。それも見事なハッピーエンドで、全体的に明るく前向きな作品だということもあって、読後はもう大変な爽快感がありました。  と、ここまで書いてきてやっぱり「余計なこと言わなきゃよかった」と思うのは、こう書いてしまうとどうしても違うんです。そこを期待して読んで欲しいわけじゃない。ただ流れに身を任せるように読んで、ただ結果として残るのはとても前向きなものなはずですよと、そのくらいに受け取って欲しい感じ。この作品の主軸はやっぱりコメディで、勢いと不条理感、弾けるような強さが魅力の作品です。とても楽しい物語でした。最後の二行が大好きです。そんな終わりかたって!

5.0

恋の話

空想のような景色だからこそ浮き彫りにされる恋の実体

 天高く恋に浮かれる『私』と、はるか奈落の恋に落ちる『友人』の、恋のお話。  タイトルの通り恋のお話です。ジャンルは「現代ファンタジー」となっており、確かに間違いではないのですけれど、でもそう聞いてパッと思い浮かぶであろうものとはだいぶ手触りが違う作品。おそらくはタグの「言葉遊び」というのが発想の起点となっているというか、ある種の比喩的な心象風景の描写みたいなものが、そのまま物理法則として成り立ってしまう世界の物語です。  圧巻でした。それ以外に言葉が浮かんでこない……まずもって冒頭二行の言い切りがすでに強い。恋に浮かれるものと落ちるもの。さらにそこから意味段落全体(というか『だから私は〜〜』の行まで)を読めば、もうだいたい世界に取り込まれてしまう。この説得力。言葉遊びの巧みさや発想の美しさもあるのですけれど、単純に文章力がすごいんですよね。言い回しの妙に独特の節回し。一文一文に小さなフックがあって、ただ読んでいるだけでいちいち楽しくなってしまう文章。それが内容としっかり噛み合って(あるいはこの内容だからこの文章なのか)、引きつけられるみたいにグイグイ読まされてしまいました。なにこれすごい。  心象風景が物理法則を上書きするような、ある種不思議な世界を描き出しているのですけれど、でも書かれているもの/こと/人は、あくまで現実そのものであるところがとても好き。主人公である『私』やその『友人』は、別にわたしたちと全然違う世界に住む何者かではなく、むしろ常識や価値観をそのまま共有できる存在なんです。最初に言った「だいぶ手触りが」というのはこのことで、単純に現象だけ見ればファンタジーなのですけれど、でも読んで受け取ることのできる実感や味わいは完全に現代ドラマのそれ。この時点でもうだいぶやばいことになっているというか、これを成立させてしまっている時点でもう勝ちだと思います。こんなの面白くないわけがない。  内容、というかお話の筋というか、書かれているもの自体も最高でした。恋の話。ここまで主人公の主観に沿った形で描かれているのに、その熱情や感傷の上にしか成り立たないものであるのに、くっきり疑いようもない形で恋そのものを切り出している。  急におかしなことを言うというかこの先は完全な持論なんですけど、恋というのは元来その当事者にしか知覚できないもので、故に他者が(読者という立場であれ)それを物語を通じて実感するには、どうしても〝その人の恋〟という形にならざるを得ない部分があると思うのです。〝恋をしている誰か〟を通じて想像するもの。が、しかしこの作品は全然そんな感じがしないというか、なんだか手を伸ばせば掴めそうな形で『普遍的な恋そのもの』を描き出しているような感覚。いや自分でもなに言ってるかわからなくなってきたんですけど、でもこれ形が見えません? 単に『私』や『友人』への共感(同化)のさせ方がうまいってだけではない気がするんですよね。  満喫しました。最後のハッピーエンドなんかもう言葉が出ないくらい。本当にタイトル通り、まさに恋そのもののを目の前に削り出してみせた、心はずむ冒険のドラマでした。面白かったです。

5.0

あなたのために

この「タグから溢れ出る嫌な予感」がすごい2020

 ウオオオオアアアアアーーーーーーーッ!  上記一行で「全部」です。以下は余談。あるいは説明を試みようとして迷走する様。  すごい。かなりの爆弾、相当な劇物ですよこの作品。読み進めるのがこう、あの、純粋な毒物をストレートでグイグイ飲まされているようなもので、だって読んでいる間は実際に、ずっと心臓がバクバクしてましたもん。なんでだろう……いや「なんで」かは明白なのですけれど。  幸運にも現実にはこういうもの(こういう人、こういう状況)に遭遇したことのないはずの自分ですらこうなのですから、これ人によってはフラッシュバック起こすのではないかしら……? いやもう、凄まじい筆致でした。筆致っていうのかな。なんかこう、徹底した仕事ぶりというか、しっかり〝それ〟を浮き彫りにするその書き表し方が。  正直、内容に触れられる気がしません。だってまだ全然鼓動がおさまってない。ざっくりいうなら悪意そのものというか、「一応ギリギリ人間の形をしている邪悪そのもの」の一人称小説、みたいな感じです。  とにかく「すごい」、そう評価するのに一切のためらいが要らないというか、とにかく「すごい」ことだけは保証できます。ここまで徹底的に邪悪に振り切ったものが書ける、それだけでまず尋常じゃない。ただ不思議というかどうしてというか、いくらすごい作品だと言っても、それがどうしてここまで効くのかわからないんです。  主人公の造形。殊更に、極端に、明らかに嫌悪を感じるようチューニングされているため、ここまでくると逆に安心できそうなものなんですよ。だって本作はあくまでも創作、架空のお話でしかないわけですから。もちろん共感能力を介してこっちにダメージが来るのはよくあることなんですけど(共感性羞恥とか、あと痛みの描写なんかよくありますよね)、でもそれにしたってここまで来るもん? という。いや本当、なんでしょう。いま本当に変な汗まで出ていて、だからこれはおそらく、もしかして、自分の中に原因があるのかも。  このお話を読んでいる最中、主人公に対してただ『悪』としか思えず、なにより自分自身を彼の側——100%純粋な『弱者』で『聖者』で『被害者』の側に置いていたこと。この行為。この〝踏み絵〟を前にして、一切なんの迷いも疑問も持たず、自然に自分がやってしまっていたこと。自らを正義の側に置いて、現実には存在しない『許せない悪』に向かって、ただ怒りのままに「自分はこんなに傷ついたんだぞ」と拳を振り上げる行為。  いやまあ、一応はさすがに考えすぎっていうか、作中のそれは明らかに「ホラー」の根源として書かれてはいるんです。だからきっと、読み方そのものは間違ってない。つまり問題はその振れ幅というか、さすがにここまで冷静さを欠いてしまうのは、きっといろいろ気をつけたほうがいいかもしれないな、なんてことを思いました。一歩間違えば、いやすでにこの時点で、自分も彼女の鏡写し——同じホラーになっているのだと、そう判断するには十分すぎるくらいのやられっぷり。胸が痛い……肉体にダメージが出てきている……。  凶悪でした。もはや感想も何もなく、ただ感情的に心の中をぶちまけるしかなくなるくらいには。ていうか実際ほとんど自分自身のこと書いてますね(すみません)(でもこんな作品をぶつけてくるほうが悪い)。堂々と胸を張って「この作品に出会えてよかった」と言える、でも〝二度と出会いたくない〟物語でした。ひとりの人間を創作物でここまで追い込んだ記録として。

5.0

重力、遺書、ハッピーエンド

分厚いドラマを幾重にも重ねてくる物語の迷宮

 図書館のような施設にひとり、レポートを書くためバッハについて調べる学生のお話。  ホラーです。読み終えてジャンルを確認してみたらホラーでした。読んでいる最中は正直ホラーだとまったく思わないのに、でも最後まで読み終えるとしっかりホラーしている、このお話にでっかい蓋をされる感覚がもうとんでもないというか、完膚なきまでにやられました。すごい。ボッコボコに打ちのめされてもう立ち上がれない。冒頭の一発ですでに膝に来てるのに、読み進めるたびに威力を増していく物語。中盤に差し掛かる頃にはすっかりめまいがしていたというか、完全に過剰摂取です。物語の量と圧がもう、一本の短編に込めていい上限を明らかに超えている。どうしてこんな物語が書ける?  いやもう、面白かったです。本当にただただ楽しんだという感覚。おかげで自分なんかが感想みたいなこと書くのがもったいないくらいなのですけれど、でもやっぱりいても立ってもいられないので何か書きます。正直、完全に物語に呑まれたという自覚があるので、とてもまともに言語化できる気はしないのですけれど。  まずもって冒頭からもううまいです。遺書という強いタイトルの通りの鮮烈な書き出しに、その流れを途中でバッサリぶった切ってのこの、こう、なんだろう。転調、どころか別の話が始まるような。視点というか視座そのものが一気に遠くに引いて、ほとんど端的な説明のような形で世界設定を投げ込んでくるのですけれど、そこに列挙された単語のパワーがもうすごい。あまりにも威力があってかつ想像もしやすく、これだけでうっすら世界の輪郭が見えてしまうのに、そのまま勢いが途切れずぐいぐい引き込んでくれる。なんだこれ!? もう完全な奇襲攻撃なんですけど、でも思いついたところで実力がなければ成功しないタイプの奇策。考えに考え抜かれた冒頭であるのはもとより、単純な文章力の高さまでもが窺えます。  お話の筋そのものは、まごうことなきディストピアSF。最初にホラーって言いましたけどそれはあくまで最後まで読めばの話で、八割がたは骨太なSFしてると言っていいと思います。それもディストピアもので、少なくとも現実の現代日本とは異なる(はず。そう言い切れないのが怖いっていうか本当に脱帽するしかない!)価値観の中に生きる人間の、その感覚の書き方の繊細さ。文章の理路自体をさらりと理解させてきたうえで、感情的な面できっちり不協和音を引き起こしてくる。わかるのにわかりたくないような感覚というか、なんかもうあまりに作者の手のひらの上すぎて笑うしかないです。すごい。  その上で、というか挙げ句の果てにはというか、登場人物が実質主人公ひとりだけという点。それでしっかりストーリーが成り立っているばかりか、彼自身の抱えた葛藤や確執、すなわち人間のドラマまで描き切っていて、いやもうこの感想大丈夫ですか? どうしてもただベタ褒めしたみたいになっちゃうんですけど、本当にこう言う以外にない。どうしようもない。本音を言えばもっと芯の部分に踏み込んで語りたいと思わせるくらいの内容があって、でも完全に打ちのめされているのでその辺が言葉にならないという、いやもう本当に自分でも何書いてるのか分からなくなってきました。興奮して早口になってるような状態。  凄かったです。もう本当化け物みたいなすんごい作品で、こんなの本当に初めてでした。とても面白かったです。読めてよかったー!

5.0

不幸のみかた

幸せとは目に見えないもの

 不幸な目に遭ってばかりの少年が恋をして、でも不幸であるが故にそれを諦めようと奮闘するお話。  というか、その半生を綴った手記、という形式の作品。実際、この世に生を受けたところからお話が始まっていて、でもメインはあくまで彼の初恋の顛末。つまり初々しく甘酸っぱい恋物語ではあるのですけれど、でもそれ以上に青春と成長の物語であるような気がします。  といっても恋愛の比重が少ないとかそういうことはなく、むしろしっかり主軸になっていると思うのですけれど、でも実質的にはその恋によって何が起こったかこそが一番の要点というか、もうぶっちゃけてしまうのならこれは〝主人公が自分にかけられた呪いを解くお話〟ではないかと思います。  タグで示された対照的なふたつの要素、「不幸体質」と「ハッピーエンド」。つまり不幸を書くことで逆説的に幸せを描き出すお話で、となれば畢竟、〝不幸とは何か〟という点は避けて通れません。このお話の主人公はいわゆる不幸体質、やることなすことすべてうまくいかない特異体質の持ち主で、それが故に性格がすっかり後ろ向きになってしまった——と、少なくとも序盤ではそのように書かれているのですけれど。話が中盤に差し掛かり、恋模様が描かれる段になると、なんだかだんだん「どっちかというと因果が逆なのでは?」という疑念が頭をもたげてきます。  不幸が彼をネガティブに変えたのではなく、ネガティブが彼を不幸に誘っている。なにしろ目の前にあるとてつもない幸運、諦めたはずの恋の成就への入り口を、でもまったく信じようとしないわけで……こうなってくると前提であった「不幸体質」も怪しいというか、そこから逆じゃないかとも思えてきます。  自分のことをついていないと思い、その認識に合致する出来事ばかりに目を向けているから不幸になる。自分で不幸ばかりを見るようにして、それ以外を勝手に不可視化している。ある種の偏向、あるいはバイアスのようなもの。つまりありもしない不幸を自ら現実にしているのだとすれば、この「自分は不幸である」という認識は、まさに呪いそのものとしか言いようがありません(もっとも、本当に運がない側面も多々あるっぽいのですが)。  自ら作り上げた呪いの牢獄に囚われた主人公と、それを救い出す白馬の王子様。まあ伝統的・一般的なそれとは性別が逆ではあるのですけれど、でもそこがかえって魅力的でした。背が高くスポーツの得意な彼女と、それよりも小柄でしかも救いを必要としている彼。あべこべなはずなのに、でも絵面的にはむしろ似合うような気がするこの不思議。  主人公自身のいうところによれば「自伝」、つまり彼自身の書いたものという形式が好きです。中でも特に最高だったのが最後の結びの部分。手記であるからこそ書かれない(ぼかした)ものが際立つ、というのもあるのですけれど。でもそれ以上にこの最終盤、どこまでが手記なのかあやふやだと解釈できるところ。ずっと使われなかったカギカッコ、少なくとも単体の会話文としての用法は一切なかったそれが、でもここにきて急に(そしてやっと)使われていること。こういうところに仕込まれた想像の余地が、なんだかとても楽しい作品でした。

5.0

ハッピーエンド

もし今日この日があなたの最終回だったら?

 ある朝、目覚めると同時に〝今日が自分の最終回である〟と認識した男性が、その最終回を幸せなものにするため奮闘するお話。  約3,000文字とコンパクトにまとめられた小品で、ショートショートのような味わいの現代ドラマです。短いからこそ光るワンアイデアというか、日常の中に不思議空間を作ってくる感じがとても鮮やか。展開の巧さかそれとも構成の妙か、なんだかまとまりの良さのようなものを感じさせる作品で、特にハッとさせられたのはやっぱり冒頭の流れです。  フックの効いた書き出しからの、滑らかな序盤。この辺り、何度読み返してもだいぶ大胆な展開してると思うのですが、でもなんの違和感もなくスルッと飲み込めてしまうこの感じ。  実際、『今日この日が自分の最終回』なんて状況は絶対ありえないわけで(ましてそれを急に直感するとなればなおのこと)、にもかかわらずそれをほとんど説明のないまま、冒頭三段だけであっさりわからせる。さらにはそのまま即「ハッピーエンドを目指す」という本題になだれ込んで、ここまで話の早い導入というのはなかなかありません。もちろんこのお話の特性ゆえの側面もあるというか、作劇的な意味でのメタ構造を利用しているからというのもあるのかも知れませんが、それにしてもこの飲み込みやすさはすごいです。文体、というよりはむしろ書き方の効力というか、開けっぴろげでてらいのない感じ。自問自答の語り口の、このストレートさが読んでいて心地よいというか、書かれている内容の受け取りやすさがすごい。難しかったり迷わされたりするところがないんですよね。  また、それは書き方に限らず、総じて堅牢さを感じるお話だと感じました。綺麗に四つに分かれた構成は、そのまま起承転結——というわけでもないのですが(たぶん最後が転と結を兼ねる形)、でも話の流れがものすごく綺麗です。最終目標であるところの「ハッピーエンド」を追いかけながらも、その道筋の中で主人公の情報をきっちり読み手に提供して(物事の考え方や価値観であったり、あるいは日々の生活の跡そのものであったり)、そしてその上で辿り着く終盤の展開。結構な飛距離の展開のはずが、でもきっちりやられてしまうというか、この決着の仕方に感じる満足感。  なんていうのでしょう、展開が読めたわけではないのですけれど、でも「期待通りのとこに来てくれた!」みたいな感覚というか。こういうのってなんか言葉なかったでしたっけ? 王道? だと少し大袈裟な気がしますけど、とにかく欲しいものをきっちり与えてくれる、丁寧かつ誠実なショートショートでした。

5.0

何色

まるで血の色みたいな恋

 同性の先輩に恋心を抱く後輩の男性が、いろいろ雑談しているうちにその先輩の片耳にピアス穴を開けてあげることになってしまうお話。  BLです。血がドクドク流れ出たままの生傷みたいな恋のありようを、これでもかとばかりにゴリゴリ叩きつけてくる恋愛劇。効いたというか刺さったというか、読み進めるごとに「オアアアアーーーーッ!」ってなりました。いーやーこれはつらい……どうにもならない強すぎる想いが、でもただの「片思いの切なさ」なんて概念では到底収まりきらず、湧き出るそばから全部自罰感情に変換されてゆく描写の痛々しさ。お、おい! 死ぬぞお前!? もういい休め!(休めません)(恋なので)  いやもう、ほんと凶悪でした。文章は一人称体で、それも主人公であるコーヨーくんの心情にかなり密着したもの、どこか歌の歌詞を思わせるウエットな美しさを感じる文体(節回し)なのですが、だからこそビリビリ伝わってくるこの擦り切れるような痛み! その根源は明らかで、「(思いを悟られることにより)好きな相手から強く拒絶されてしまうことへの恐怖」だと思うのですけれど、でもなによりすごいのが〝それが直接的に書かれていない〟ところ。  彼の意識はあくまで『平和な現状を壊さない』ことだけに向けられており、でもそこに過剰な怯えが付随しているという事実ひとつで、彼の真に恐れるものを描き出してしまう——というか、書かないことで彼の逃避(直接的に想像するのを避けていること)を著し、そこからその怯えと痛みの度合いを、ひいてはその想いの大きさを浮き彫りにしてしまう。この書き方、一人称体だからこそのアプローチが見事にはまって、一文一文の熱量が見た目の数倍に跳ね上がるような感覚。恐ろしい……もう劇物ですよこんなの……。  実はお話の筋そのものは結構シンプルというか、作中で起こった出来事だけを切り出すのなら、とても短くまとまってしまうように見えます。それこそこのレビュー最初の一文がほとんどすべてで、でもそう気づいて逆に驚きました。このシンプルな出来事の中に、こんなにも強いドラマを埋め込んでくること。キャラクターの関係性や距離感、その機微の作り方と動かし方でこちらの情動をギュインギュイン振り回してくる、その繊細さから生まれる巨大な波に惚れ惚れします。  ほぼ全編を通して感じる不穏さのような感覚、語弊を厭わず言ってしまうのであれば、主人公のコーヨーくんがわりと危うい惚れ方してるっぽいところが最高に好きです。想いが成就することへの期待が低すぎるのか、恐ろしくナーバスかつ不安定な状態になっていること。ふとしたきっかけで簡単によくない結末に転げ落ちて行きかねない、そんな苦しく細い道を歩き通してのこの結末。強烈でした。ただ一語で『恋』と呼ぶにはあまりにも苛烈な、なんだか『錆びた釘と剃刀で作った団子のような何らかの感情』みたいなものを飲み込ませにくるお話でした。美味しいよ!

5.0

凍った海の底で

物語の異常な分厚さ、あるいは無闇矢鱈と重たいパンチ

 長い眠りから覚めた男性が、二十年ぶりに知人と会うお話。  SFです。それもゴリゴリのハードSF——という括りが正確かはわかりませんが(自分はそう断じることができるほどのSF者でもないので)、でも個人的にはそう呼びたい作品。作中、積み上げられた医療・科学技術関連の情報の、その密度や形そのものがお話の面白さを構築していて、読み終えた今とても頭が良くなった気がしています。  いや本当すごいですよこれ。めちゃめちゃ難しい(であろう)ことがいっぱい書いてあるのに、何も悩まず迷わず読めてしまう。科学技術に関する知識って本来それだけで面白いもので、でも本当にそれを面白いと感じるには相応の知識と学習が必要になるのですけれど、でもその手間抜きに面白さだけを寄越してくれる。綺麗な詐欺であり心地の良い嘘、個人的に「創作というものに求める娯楽性」の核みたいなものを、SFとしてのみ描き出せる形で提供してくれる。自分はこの物語を本格、あるいはハードと形容するのに、一切の躊躇を必要としません。  語弊を招きそうなのでもう少し詳しく述べますと、個々のSF的な要素そのものにガジェットやギミックとしての魅力があるタイプのお話ではありません。本作で描かれる世界は、現代よりも少し先の未来。この「少し」というのは時間的な遠近を指すのではなく、現代からそのまま地続きの未来という意味で、つまり『現実』から一手一手積み重ねるかのように、『可能性としていずれ起こりうるひとつの盤面』を描いています。ワクワクする空想としての未来ではなく、ただ現実より少し先なだけでしかない舞台。ある種のシミュレーションと捉えてもいいのですけれど、個人的には単純に「現実味のある仮定」として捉えました(未来予測的なもの、実験的な『if』であればもっと大胆な設定もあったはず、あるいはそこが軸になるはず)。  とどのつまり、この作品の中で真に描かれているのは、というかその土台として存在しているのは、やはり人間のありようや生き方そのもの。そしてそれを、この〝仮定(舞台設定)〟だからこそ生じうる事象の元に描いている。この設定、このお話だからこそ生じ得た状況、でもそこに悲哀やこちらの情動を揺さぶる何かが生じるのは、結局それが人間の物語であるから——特にこの物語の場合、人それ自体は現代の我々と同じものとして描かれているのもあります。  この先はネタバレを含みます。  個人的にこの物語、人はいかにして生きるか/いかにして生きたら人であるかというお話として読みました。身近な人の死、そして家族(親類縁者)というもの。ちょっと今からすごく雑な括り方・例え方をするのですが、よくファンタジー等で描かれる『異種間の寿命の差による別離』に近い部分の構造を含んでいて、しかしその特性上どうあがいても寓話的な悲劇としての形しか取れないそれを、でもSFという設定を使うことによって、現実の我々の手の届く場所まで引き摺り下ろしてくれたような感覚。こうして突きつけられてみると当たり前のことが、でも何ひとつ見えていなかったことの不思議と言いますか、とにかくいきなり頭を鈍器でぶん殴られたような凶悪さがありました。  これはただの切ない話や、ましてや悲劇なんかではないんです。私たちの〝根〟を掘り返し、白日の元に晒す試み。人として生きるということ、家族というもの、ふわっとして輪郭のなかった(ないままだからこそ生きてこられた)それを、「そこに線を引け」と迫ってくるお話。こちらを脅してくるような、あるいは生じる責任から逃してくれないような、もうそれだけで面白いとわかる作品でした。面白かったです。タイトルがとても好き。

5.0

頭のてっぺんから足のつま先まで

タグに偽りなし、威風堂々たる『砂糖盛々激甘物語』

 幼なじみの男子に密かな恋心を抱く女子高校生、佐伯さんが己の過剰すぎる身の丈にいろいろ悩んだり振り回されたりする物語。  恋のお話です。ていうかもう、恋です。なんか甘酸っぱい恋心の濃縮液みたいな。ただのベタ甘というよりはほろ苦い甘酸っぱさ、そしてそこからの激甘大団円、といった趣の作品です。単に恋する人の脳内を活写したものではなく、明確なドラマを通じて語られる恋。要は(というか紹介文にある通り)身体に関するコンプレックスのお話で、すなわち成長期の少年少女ならではの懊悩を描いている、この点がもう問答無用に素晴らしいです。読み応えがあり、またこの溜めがあればこその説得力、というか糖分。  登場人物の造形が好きです。みんな自然というか、わざとらしさや無駄な尖り具合のない感じ。特に好きなのは主人公で、自分の高身長を気にしていろいろ気後れする人なのですれど、でもそのわりにはそこまで後ろ向きなわけじゃない。むしろ冷静、というか実はだいぶ男前なところがあって、なんと自分で自分に呪いをかけていることを理解している。中盤あたり、「宏ちゃんとの関係を勝手にぎくしゃくさせているのは、私だ。」の一文。  この辺ものすごく好感持てるというか、なるほどゴリラだと思いました。強い。誰にも負わせることのできない責任ならば、自分で乗り越えるしかないのだと理解してしまえる人。ことが恋愛絡みであれば、まして十代の少女のそれなら、多少のわがままや無茶は通ってしまうはずなのに。いや単に「でかいから」という理由からの振る舞いかもしれませんけれど、でも格好いい人だと思います。普通に尊敬や憧れの方向で好きになれる人。  以下はネタバレを含みますのでご注意ください。  終盤の盛り上がりがもう最高でした。ここまで溜めに溜めたドラマが全部、余さず糖分に変換されていくところ。ここ本当にうまいというかずるいというか、要は「満を辞しての告白のシーン」であるのに、成功が完全に確約されているんです。そこのハラハラは少し前、小林さんとのシーンでもう済んでいるので。つまりこの先何が来るのか完全にわかっているというか、恋愛感情に含まれる期待と不安、そのうちの前者だけの津波が押し寄せてくるのを、何もできずただ受け止めるしかないような状態。思った以上に凶悪でした。なんですかこの糖分のシャワー。死ぬのでは?  大きくなったら、の意味。最後に逆転、といっていいのか、呪いのとけ方もおしゃれなのにデコボコで好きです。実は宏ちゃん側のひとことが発端だったという真相。あれっ自家中毒かと思ってたけどこれ責任の一旦どころか結構な割合でこいつのせいでは? と、理屈の上ではそのはずなのだけれど、でも全然責める気にはなれない。本当に心の底から「まあそういうことならいいや」と思える。なんだか魔法のような満足感。なるほどハッピーエンドってこういうこと? と思わされる、とても素敵な恋物語でした。面白かったです。

5.0

終わりのその先に

ど直球の異世界転生、その〝裏面〟

 異世界に転生した高校生四人組が、魔王を倒し大団円を迎えた瞬間、案内役の精霊に意外な真実を告白されるところから始まる物語。  異世界転生もののファンタジーです。あるいはその雛形なり構文なりを使ったショートショート、と、ストーリーだけを見るならそのようにも読めるお話。でもやっぱり本筋としてはゴリゴリの異世界転生というか、まんまファンタジーだと思います。現実の現代社会ではない、空想上の『ここではないどこか』を組み上げるための作品。  微に入り細を穿つ設定の数々。分量のうちの大半が細かな設定の描写に終始しており、おかげでディティールはすぐに掴めます。平たくいうなら古典的なゲームのような世界。剣と魔法と魔王はいいとして、スキルやステータスというものが普通に存在しており、なにより「こちらの世界」と「元の世界」がはっきり認識されていること。第一話、仔細に並べられた四人のプロフィールは、そのまま物語舞台の説明でもあって、とにかく設定がてんこ盛りでした。  この先はネタバレを含みます。わりと大事なところに触れてしまっているので、未読の方はご注意ください。  お話の筋そのものは至ってシンプル、というか実質的にかなり簡潔なもので、主人公の高校生四人と、もうひとりの友情の物語です。もともとあちら側の存在である案内役の精霊。主人公らを元の世界に帰すための狂言を、でも主人公らは嘘であると看破し、そして再び〝裏面〟の冒険の旅へ、というストーリー。つまりタイトルに偽りなし、終幕の先を描いたお話です。  精霊のついた嘘と、そしてその意図を察しながらも助けに戻ってきた主人公たち。彼らの勇気と友情の大きさが伝わる、堂々とした冒険の物語でした。

5.0

和田島イサキさんの読んだ分布

読んだ文字数:183万58文字

サイト割合

280 (100%)
■カクヨム

ジャンル

ファンタジー

92

ヒューマンドラマ

45

恋愛

45

SF

37

ホラー

27

詩・童話・絵本

12

歴史・時代

11

ミステリー

7

ノンフィクション

3

青春・ヒューマンドラマ

1

和田島イサキさんの評価

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