ノベルアップ+で自主企画に参加された作品です。メインは百合要素があり、読む方にとっては「ハッピーエンド」とも「悲恋」とも感じる、まさに「読み手が選ぶ(感じる)終わり方」の物語です。
実際にある世界ではありませんが、ファンタジー要素は多く含まれていません。異世界感をあまり強調していないので、この世界のどこかにある国の様に、親しく感じる作品で違和感なく物語に浸れます。
お嬢様と料理番の少女の、人に隠れた幼いながらも心の繋がりが深い恋から始まります。
しかしお嬢様である主人公は父親と変わらない、離れた地の伯爵に嫁ぐことになっています。
お嬢様である主人公は「嫌だ」と口に出せますが、使用人であるルーチェは「嫌だ」とははっきりと言えません。ルーチェも勿論彼女を愛しているが、使用人の身である自分の身分では何もできないことを痛いほど分かっているからです。
彼女が嫁いだ先で幸せになるなら良し。しかし辛いのなら自分も彼女と共に、との思いが込められた瓶を嫁ぐ彼女に渡します。主人公の好きな料理に使うスパイスが入っているのです。その瓶には、愛という名の毒。
約束を守らなかった主人公は一人取り残されますが、魂だけになったルーチェは「伯爵はお嬢様を愛している」と教えます。
そう、彼女の夫である伯爵も彼女を深く愛し、しかし年も離れた言わば政略結婚のような形の自分は愛されていないと遠くから彼女を見守っていたのです。彼もルーチェと共に、素直に「自分の想いを口に出来なかった」のです。
そんな伯爵に勇気を出させるために、恋敵である彼にルーチェは自分の想いを伝える様にもうこの世の者でない体で伝えます。お嬢様が好きな「カジキの妖精」と名乗り。
愛の形は沢山あります。文字通り身も心も主人公に愛を貫いたルーチェ。ひっそりと彼女を愛し見守る伯爵。
主人公は、伯爵と歩む未来を選びます。ルーチェが最後に、彼の想いを教えてくれたからです。ルーチェへの想いを忘れることないまま、ですが夫である伯爵を愛そうと決心するのです。
この自主企画内での最高文字数でしたが、テンポよくすっきりと読めて「愛のカタチ」を教えてくれる素晴らしい作品でした。
確かにルーチェの犠牲で成り立った物語でしたが、ルーチェなら「お嬢様の為」と笑って天国で見守ってくれるでしょう。そんな無償の愛。ルーチェの愛は、きっとお嬢様が思っているよりも深く深く強い。
とても素敵な作品でした。百合だから、とかではなく愛の形の作品として、沢山の方に読んで貰いたいです。愛する人を大切にしたいと思える、そんな余韻も静かに深く残ります。
登録:2021/9/28 13:09
更新:2021/9/29 03:12