とても面白い。
読んで最初に感じた感想です。物語は、『ぼく』が『二番』さんと呼ばれる『きみ』に語りかける、もしくは過去を思い出しながら手紙を書いているようなスタイルで構成されています。
ノベルアップ+で、『悪』をテーマにした個人企画に参加された作品です。『悪』をテーマにしているという事で『善悪』を問う作品が多い中、とても切り口がイレギュラーな作品でした。
『ぼく』は淡々とした感情のない言葉で、『きみ』との出逢いから今までを思い返すように話します。『ぼく』の淡々とした口調が、最後――自分の過去になってしまった恋心を匂わせた時に一瞬だけ崩れるのが、また素晴らしい。
そうして、『きみ』が檻から出るのを待つ『ぼく』の話は終わります。
読んで、『悪』は何かを考えましょう。
人を殺めた『二番』さんが悪、だと思われる方が多いのではないでしょうか?
『二番』さんは、どうして罪を犯してしまったのでしょう。『二番』さんが羨んだ存在は誰もが羨む光るステージからもう降りて、またステージにいた時は『二番』さんは『彼女』に精神的に頼られていたのに。
有名に、なりたいですか?
タイトルにもなっているフレーズに、『二番』さんは頷きます。
ですが、よく読んで下さい。
『そんな言葉に頷くきみと、首を横に振る彼女がいた……。』
僕が形容している『彼女』とは、『リナ』さんです。『きみ』とは、『二番』さんです。
そして、ふたつの檻、とあります。二番さんは現在(血縁者以外が面会できるので)精神鑑別所に投獄されているのだと分かります。
では、もう一つの檻とは?
もうひとつの檻には、きっと――『精神が崩壊した』『二番』さんの本当の人格が閉じ込められている、のでしょう。
そして、頷いた『きみ』と首を横に振る『彼女』とは。
ここには、『ぼく』と『二番さん(きみ)』しかいないのです。
一見すると『リナ』と『二番さん』が同一人物ではないかと、勘違いしてしまいます。ですが、二人は別の人物として存在している箇所がいくつもあります。間違いなく『二番』さんは『彼女』を殺害してしまったのです。
『ぼく』が問うたのは、記憶に居る『リナ』と刑務所に居る『二番さん』に、なのでしょう。
『彼女(リナ)』さんは、ステージを下りて幸せを感じていた。ステージにいた時より輝いた笑顔をしている姿を見た『ぼく』は、ステージを下りた『彼女』とこの時に会えば好きになっていたと述べています。それほど、『普通の生活』を過ごす彼女の顔は、輝いていたのです。だから、『彼女』は有名になりたくなかった――記憶に残る『彼女(リナ)』は首を横に振ったのです。
二番さんは、『みんなの』一番になりたかったのでしょうか?『誰かの』一番になりたかったのでしょうか?
嫉妬というのは、人間に元々備わっている『悪』だと言われます(性悪説)。理性でどうにかしようとしても、制御できる人はほとんどいないでしょう。
『ぼく』の視点ですので、二番さんの心の中は分かりません。『ぼく』も推測は出来るとありますが、問うた言葉の真意を深く考えるのは辞めました。
そうです、答えは彼女の中にしかないのですから、『ぼく』がどんなに考えても『二番さんの考え』は分からないのです。
『悪』は、二番さんなのでしょうか。
『二番』さんが憧れた『彼女(リナ)』なのでしょうか。
有名になりたいと思ってしまった『二番さんの感情』なのでしょうか。
二番さんの執念めいた思いに気付かなかった、『リナ』なのでしょうか。
それとも、何もせず成り行きを見終えた『ぼく』なのでしょうか。
読む人の数だけ、色んな感想があると思います。『二番』さんが檻から出る事を待つ『ぼく』ですが、『心の檻』から『二番』さんが出る事が出来るのでしょうか?
非常に切ない余韻が残る、素敵な作品です。
登録:2021/9/29 16:34
更新:2021/9/29 17:47