「信頼できない語り手」という小説・映画上の手法があるのですが、私はこの手法で書かれた物語が好きなんです。うまくいっていると、物語にいい意味で”揺れ”ができるというか複層的になるので。
”私”の思い出はクリアなままなのでしょうか、それとも夫の溶けていく記憶と彼の物語る過去をすくって、やはり幾分美しいものになっているのでしょうか。
本作は「信頼できない語り手」が美しい形で使われた物語だなと思いながら拝読いたしました。「どこまで本当なんだ」と読んでいる方はほんの少しだけ切なく、しかしその思い出の美しさと幸福に”溶ける”、現在進行形でハッピーエンドを迎えている物語。
「不能共」https://kakuyomu.jp/works/1177354054918366188を書かれた作者さんですし、キャッチコピーがあれなので、「どうせ今回も何かあるんだろ」と思いながらフォローしたとツイートをしたら、作者の草食ったさんはそんな、割と普通の恋愛掌編ですと仰っていたんですけど、「どこが普通の恋愛掌編だ」(でも仰ろうとしているところは何となく分かります)。一筋縄でいかない作家さんはいいですね。
登録:2021/10/5 16:51
更新:2021/10/5 16:51