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しずかに違和

5.0
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先に申し上げておきますが白旗をあげます。つまり褒めしか書きません。


 私、草さんの作品を読むのはこれで4作目なんですが、どれも背後に殺伐……というのは正確じゃないな、ほのかな、或いは明らかな死の雰囲気を感じます。今回はなんでだったんでしょうね。藤宮という女の人の静かなやばみからでしょうか、それとも蛹になってしまったからでしょうか。


“好きな子に芋虫を渡された男の話です”というキャプションを読んで一瞬微笑ましいものを想像したんですが、そんな話ではなかったという……。草さんの書く小説は毎回「なんでそんな話思い付くの泣」という感じで今回も悲鳴を上げました。


 まず“理解したので受け取った”のところで理解するな! と叫び、直後芋虫が喋る辺りで目を疑い……。けれどどうもこの世界では虫は普通しゃべらないらしい、犬とかライオンとかはしゃべるけれど。なぜ藤宮が彼に芋虫を預けたのかは結局のところ謎なんですが、一晩置いて考えるとしゃべってしまう虫だったからか? と思えなくもないです。“いいこにして待っててね”なんて優しい声で言うけれど、藤宮は内心どうあろうが必要であればそういうことをやってしまいそうなので。でも、最後の芋虫のセリフを見てもっと違った理由かもなと思ったり。うーん。


 ここから上手いところをピックアップしようと思ったんですが文章を眺めればことごとく上手いので飛ばします。最初のひとかたまりのお気に入りは、芋虫のプリティーさが伝わってくる“おなかがすいたらよびます”とカーテンが揺れるという、それはそうだとは思いつつ思い付く人にしか思い付かない情景描写です。


 次も上手い。“それは藤宮がキリンかアサヒかでエビスを選び、唐揚げかフライドポテトかでオクラ納豆を選び、猫か犬かで芋虫を選ぶような女だったからだと思われた”。見事です。特異な人をこうもしずかに、けれど鮮やかに書くかと。しずかに。静かにではなくしずかに。思いましたけど、この短編は全体にしずかなんですよね。起こっていることはそれこそ「なんでそんなこと思い付くの」なんですけど、勢いでぶん回して異次元に連れて行く感じではない。私達とはズレている人達がしずかに実在感を持って不可思議なことをしている。


 それで蝶々の話。儚いいきものです。それをかわいがっていたあたり、暮野さんこと“俺”のパーソナリティが伺われるなというか、あなたは本来その女に惚れてしまってはいけない人だよというのが分かってしまいます。そしてそれを聞いた藤宮が蝶々の話を聞くでもなく、「なんの花を摘んで帰ったんですか?」。もうこの人の意図が分からない、ということが分かる。見事でした。


 で、芋虫がかわいい。ひたすらかわいい。後から見れば振りですけど。あのまま直で動物園に行って藤宮パートが続くと死んでしまうので、ここに芋虫が挟まれるのは本当にありがたいです。


 そして動物園。喋る動物は沢山いるのに、というか動物園に行きたいって言ったのに、藤宮はその中でも静寂に包まれる昆虫類のコーナーに行ってしまう。もう、手の出しようがないというか、ここで藤宮が喋る動物のコーナーに行くような女であればまだつけ入る余地もあろうものを、こちらからのアプローチはかけようがない。そして静かな虫を愛でる藤宮を見て、その一方でしゃべる芋虫のことを考える。


 ここで「ああ、安定してきたな」と思っちゃったんですよ。ああこの世界観に慣れてきたと。でもその後いきなり宙吊りにされるというか、本当に「……あ?」だし“なにもわからない”んです。でもそれは説明が不足しているからじゃなくて、そして芋虫にも藤宮みたいな口調で返されて途方に暮れる、読者であるこっちも途方に暮れる、そんな終わり方。でも、もうなんだか心地いいんです。もう藤宮にも芋虫にも恋しているので。そしてタイトルを見て、『飛んで火にいる』か……単純に考えたら“俺”のことだけど、もうちょっと何かありそうだぞと思いました。


 そんな風に読みました。あの、本当に「待ってくれ」という感じでとても楽しい時間を過ごしました。ありがとうございました。

辰井圭斗

登録:2021/10/5 17:20

更新:2021/10/5 17:19

こちらは辰井圭斗さんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

同じレビュアーの他レビュー!!

一見、悪徳に見えて、ただ小説を勧めているだけの男

エッセイ部分も面白いよ

この作品に関してはレビューなんて求めていないのかもしれませんけどね。なんか書きたくなったので書かせてください。 姫乃さんには敵わないなというのが正直な感想です。類似の(?)作品を僕も書いているのですが、こんな面白く書けないなと思います。僕ももっと頑張らないと。作品のおすすめも面白いんですけど、エッセイもとても好きです。更新を心待ちにしております。 こんな感じでいつも通り集客力の無いレビューでした。ごめんなさいね! 2020/12/13追記: 最近よく読み返すので何か書こうかなと思った。この作品には誇張でなく泣きながらコメントを書いたことがある。それに、通し読みしてなおかつ応援コメントと返信まで見るような人は御存知のことと思うけれど、この作品は少なくとも一人の人間のリアルな生き死にをめぐる戦いが展開された”戦記”なのだ。作品全体を覚えているとは言わないけれど(大体覚えている自信はあるが)、”戦記”部分に関しては本文で何が書かれて、私が何を書いて、それに対して姫乃さんが何を返信したのかことごとく覚えている。だから記憶にはあるわけだけど、読み返して改めて凄まじいやり取りをしているなと思った。 私は先日Twitter上にある文章を上げた。実際のpvや評価なんかいらないのだという文章だった。割とすぐにフィクションだと断ったけれど、応援してくれている人の気持ちを削ぐものだったと、書いたことを後悔している。実際のところどうなのか。実際のところは、私は気が付くと指が動いてカクヨムを開いてpvや評価を目に入れてしまう人間であり、そのことに少し疲れていた。この、自分が気になって仕方がないものの先には何があるのだろうかと、ほとんど何も無いんじゃないかと、気になる分却ってそういうことを思った。 でも、それはやはり想像力が欠如しているというか、そのpvや評価の”数字”の裏側には私の作品に対して読んだり評価しようと思ってくれた一人一人がいるわけで、そのことはとてもありがたく思う。今付き合いのある人も私の作品から入って来てくれた人が多い。付け加えればレビューをいらないと思ったことはただの一度も無い。だからTwitterに上げた文章に関しては本当に後悔しているし、姫乃さんの気持ちを削いだのではないかと心配している。 姫乃さんに自分のやっていることの意味を考えさせてはしまわなかったかと。私一人がどうこう言っていても、別に姫乃さんは変わらないのかもしれないけれど。 そういう文脈で言うので、これから書くことは取り越し苦労で独り相撲なのかもしれないけれど、姫乃さんに自分のやっていることを意味が無いと思って欲しくはない。ジョブチェンジしたところこんなことを言って申し訳ないが、姫乃さんの書く文章は”魔法”であり、”末始終優れた物書きたちのやる気着火剤でありたい”だなんて願いはとっくに叶っているのだから。他の人の反応を見るに、別にこれは私に限った話ではないはずで。自分で書いていて余計なお世話感がひしひしとするのだけど、それでも、姫乃さんの書く文章で救われたし、救われている人間はいるよと、もう一度言いたくなった。 正直、”戦記”やレビューでなくても、姫乃さんの文章を読むだけで、その日は体調がいいのだなんてことを言うのは、やはりコスパが良すぎるようで恥ずかしいけれども。

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辰井圭斗

鵺 (第五稿)

異質。しかし本物の文学がここカクヨムにあるならばそれは異質なのです。

例えば芥川の小説がカクヨムにあったとして、それにレビューをつけて宣伝することが彼の作品にふさわしいかどうか。その答はもしかしたら「否」なのではないかと思っています。 僕はこれまで良い作品があればレビューを書くのを最大の賛辞とし愛情表現としてきました。それに疑いがなかった。しかし本作を読んで、そうしたレビューと宣伝がこの作品に果たしてふさわしいのだろうかと考えざるを得ませんでした。読者が増え、星も増え、ランキングに載る。そういった幸福が、果たしてこの作品と作者のそせじ番長さん(中田さん)の望むものなのか。その答はもしかしたら「否」なのかもしれません。 とはいえ他にしようが無いのでレビューを書いてしまうのですが。でも、もうここまで書いたことだけで、僕の言いたいことはお分かりでしょう。僕のレビューは放っておいて、早く本作を読むべきです。 さて、本作は次第に狂気にとらわれていく芸術家の話です。ほんの些細な感覚からその狂気は始まります。僕は作者の中田さんとしばしばツイッター上でやり取りをさせていただいているので、その部分は多分普通の人とは違った感慨をもって読みました。読みながら思い出したのは、いつか僕が死にかけていた時に頂いた言葉です。一字一句正確には覚えておりません。しかし大意としては「私達は人には見えないものを見ることが許されたのです」ということだったかと思います。僕は本作を読みながら快哉を叫びました。「そうですよね、中田さん」。 僕はかつてこういうものを書きたくて筆を執ったのではなかったか、そう思わされる作品でした。

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辰井圭斗