”惰性的に生きる”男が学生時代の想い人のことを回顧し、自分とどんどん差が開いていった彼に対して青春の決算をつける行動をする話。よかったです。まず、文章から。文章は一文一文丹念に書かれていることが分かるものです。言ってしまえば人工の美なのですが、この作品の場合は鼻につくものではなく、書き手の若さを含めて味として読めるものでした。感動したのは、文章を凝っていてもなお失われないリズムのよさで、これから先も文章にこだわって書かれることと思いますが、リズムのよさは保ち続けてほしいと願わずにはいられません。
同性愛の位置づけは若干気にならないではありませんが、そもそも私がBLを書いていても男性同士であることをほぼ全くと言っていいほど障壁として書かないラディカルな原理主義者なので、私が過敏なのかもしれません。
ネクタイの使い方がうまいですね。学生時代の青春を回想させるきっかけ。仕事を辞めた自分にはもう結び方すら分からない、彼との違いを象徴するもの。そして無意識に買ったけれどデザインは彼が学生時代につけていたものと同じもの。つまり微かに残る繋がりの残滓。
最後の一文もとても素敵でした。どうしよう、べた褒めだな……。
自己嫌悪系主人公の話ってともすれば物語に起伏が無くなったり食傷してしまったりするのですけど、この小説の場合最後にアクションを取るので、そのあたりの問題を感じずに読み終わりました。一読者の思いを述べるならば、一種”硬い”ところが今のミヤシタさんのよさである一方で、より柔軟な作品も読んでみたいという欲張りな気持ちがあります。
ミヤシタさんの作品をもっと読みたくなる一作でした。
登録:2021/10/5 17:41
更新:2021/10/5 17:42