旋風のプリマヴェーラ

　今、一頭の馬が競馬場へと現れた。名はプリマヴェーラ。三冠馬ジャストアヒーローを父に持つサラブレットだ。その記念すべきデビュー戦で彼女の人気は、十六頭中十五番人気。貧相な馬体に、小さな体。追切タイムも平凡。馬主も調教師もリーディングで下位の方に位置している。この馬に金を賭けるなんて、どぶに捨てるようなものだと誰もが思っていた。 　後に、人々はこの馬に旋風の異名を与えることになる。 　旋風とはすなわち、上昇気流から生じる渦巻き状の激しい風のことをいう。 　その風に煽られて、人々は右往左往したのだ。彼女は事あるごとに騒動を起こした。“馬災”と言われたこともある。これほど人騒がせな馬はいない。 　これは、混沌と喧騒にまみれているその物語である。