二つの夜
最終更新:2010/4/16
作品紹介
月の呼吸の音さえ聞こえそうな程の、静かな夜。僕はリビングのテーブルに座り、コーヒーを飲んでいた。時計が針を進める音だけが、辺りに響いていた。僕は何を思うわけでもなく、瞳を閉じたり、手を見つめたりしていた。 人の気配がして後ろを振り返ると、七歳になる娘が立っていた。暗闇の中、薄紅色のパジャマだけが浮かび上がっていた。僕は何故か、娘は僕の命を奪いに来たのかもしれない、という錯覚に襲われた。冷たい汗が、背中を伝った。僕は娘を恐ろしく思ってしまった自分の思いを吹き飛ばすために、強い声で言った。 「どうしたんだ、眠れないのか」 「うん」娘は不安そうに言った。僕に怒られるんじゃないかと心配しているのだ。 幸いな事に、明日は日曜日で僕の仕事も休みなので、娘を横に座らせ、すこしお喋りをする事にした。それに、さっき僕が感じた不吉な思いは間違いで、僕は娘を愛しているんだという事を確認したかった。
評価・レビュー
まだレビューはありません。