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作:古川

ドリアンソーダにのぼる泡

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最終更新:2020/9/21

作品紹介

第一回神ひな川小説大賞参加作品。 テーマ「ハッピーエンド」

ハッピーエンド現代ドラマ第一回神ひな川小説大賞

評価・レビュー

受け止めきれない喪失と、それでも続いていくその先のお話

 三週間ほど前に姉を亡くした高校生の少女が、付き合っている男子と初めて「そういうこと」をしようとするお話。  面白かったです。きっと誰にでも訪れ得る喪失、身近な人の死を題材とした現代ドラマで、でもいわゆる「泣けるお話」とは違います。もちろん胸にこみ上げてくるものは山ほどあるのですけれど、でもこのお話を悲劇や感動の物語として括るのはさすがに無体というか、とどのつまりは正真の成長物語です。ビルドゥングスロマン。それだけ、というか、本当にそこにのみ軸を絞った物語。  文章が好きです。特に、というかはっきり印象に残るのは、やっぱり冒頭一行目の鮮やかさ。書かれた内容、「死」と「そういうこと」の強烈な印象以上に、それら(文の前後)がどう繋がるのかわからないところ。興味を引きつける力があって、またその先も滑らかに進むため、あっという間にのめり込んでしまいました。  総じて読みやすく、また情報の出し方並べ方も巧みで、本当にスイスイ読まされてしまう文章なのですけれど。でも真の魅力というか本当に恐ろしいのは、その語り口に宿る気配の切れ味、文体ひとつで一個の人間を表現しているところです。視点保持者の性格や人柄、またその時々の心情に沿った一人称体の、その精度なのか練度なのか、とにかくこんなの初めて見ました。なにこれすごい。  文の意味や内容でなく、その書き方自体に宿る情報の濃密さ。つまり〝読んでいる内容と同時にそれ以外のものをも読み取る〟ような感覚。これがもう最高に気持ちがよくて、いやそれ以上に脳への染み込み方がやばいというか、共感や感情移入を引き起こす力が凄まじい。  以下はネタバレを含みますが、でも物語の内容に関しては正直なところ、とても語りきれるものではありません。したがってどうしても語弊のある言い換えにしかならないのですが、どうかその点ご容赦ください。  ハッピーエンドというものの解釈というか、それをもっと大きく広げた「意味」というものの扱われ方が好きです。「意味を付け添えてしまわないように」という主人公の望み。そのための行動である「全部チャレンジ」や「そういうこと」。それは姉の死を受け止めるための——というよりは、姉の死と同じところに〝姉の死以外のすべて〟を持ってくるような行動。  きっと傍目には大丈夫じゃない彼女の、それは露骨な無茶というか、自棄にも似た行動なのでしょうけれど。でもそこ(彼女の中)にはしっかりとした理路があって、そしてそれはどうしても実践されなくてはならない、という、その焦燥がはっきり実感として(それも文字としては書かれていないにもかかわらず)伝わること。  そして最後、第三話でもたらされる解決がもう最高でした。主人公の、一見淡々と語るようでありながら、でもあちこち揺らぎっぱなしの心許ない文の歩み。でもその介添えとなる唯一の存在、笹山くんの付けてくれた筋道の明るさ。その結果として物語の最後に辿り着く答え、「この先も絶対になくなることはない」という結論、それ自体も素敵なのですけれど。しかしなにより重要なのは、それが彼女にとって「大事にとっときたい」言葉によって示されたことなのだと思います。  手繰り寄せるようにメモされた言葉は、姉を失って三週間、きっとようやく目の前に現れた〝縋れる何か〟。そこへ向けて必死に伸ばされる手の、いや実際にはスマホを操作している場面なのですけれど、でもだからこそなおのこと、その姿が本当に胸に刺さるというか、いやその、もう自分でも何を言っているのか分からなくなってきました。この物語から受け取ったものが多すぎて、そこに感じたものはあまりに鋭く、だからそのすべてがまったく言葉になりません。とにかく大好きなお話でした。好きすぎてとても言葉にできそうにない(できてない)。  笹山くんが好きです。笹山くん自身のことが好きな以上に、彼がこの物語にいてくれたこと自体がもうどうしようもなく好き。例えば、これは本当にただの想像としての『例えば』なのですけれど、もしそこに笹山くんがいなくて、いつか彼女がひとりでその答えを手に入れたとしたら。それは成長物語ではあったとしても、きっとハッピーエンドではなかったはずだと、ほとんど確信のようにそう思うので。とても面白い物語でした。大好き。

5.0

和田島イサキ