ノベルアップ+の『悪』をテーマにした、自主企画に参加された作品です。
この作品は、日本だけでなく世界をも震撼させた某事件の施設があり、現在は市町村合併でなくなってしまった村に、当時珍しい名前の施設が作られた団体をベースに書かれた作品です。
主人公は不幸な人生だと思っていますが、『自分の不幸』は自分の中で『世界で一番自分が一番不幸』と考える事が多いです。タクシーの運転手(正体はそうではないかもしれませんが、便宜上ここではそう表現させて頂きます)はそれは違うと主人公に分からせます。主人公の思い出の地にタクシーを走らせて、彼の人生を思い出さそうとするのです。
特別な事がなくても、家族に囲まれ最愛の妻がいて、生きてきた人生が不幸な訳ではないと。自分の暖かな記憶を忘れてしまったのが、主人公にとって『不幸』だったのです。
この作品は、『悪』が何か明確には書かれていません。
普通に読むと、死のうと考えていた主人公にタクシーの運転手がもう一度生きる意思を見出した、どちらかというと『希望』の物語です。
タクシーの運転手は、何者なのでしょう。主人公の『心のふるさと』を見えさせる、催眠術や心理操作を使ったのでしょうか。それとも、本当に主人公の『心のふるさと』に連れて行ってくれたのでしょうか。
もしそうなら、これは魔法です。主人公がタクシーの運転手の言葉を信じても仕方ありません。
そして、この作品が表したい『悪』は何なのでしょうか。
もし例の某団体を模した団体の『光と命の国』に勧誘したのなら、この団体の未来は『悪』です。つまり、タクシーの運転手は主人公を悪に落とすだろう『悪の使い』になります。
ヒトコワ(ホラー)のジャンルになりますね。
古い事件の為、例の某団体が起こしたこと、施設、思考を知らない人には分かりにくいものかもしれない事です。ですが、私は個人的に好きな作風です。
苦しい時に助けてくれたものは、自分にとっては『善』です。たとえ全世界が『悪』だと非難しても、自分にとっては『善』なのです。
価値観の違いは、冷静になって見つめ直さなくてはいけない。
自分の幸せを大事にするのか、周りの人の幸せにするのが大事なのか。
人間は、弱い生き物です。弱っている時に囁かれれば、それに縋ってしまいます。
悲しくもあり、その後が気になるとても興味深い作品でした。
ぜひ、お読みになって『悪』とは何か考えてみてください。
登録:2021/9/29 16:05
更新:2021/9/29 16:05