夜を吐いてしまう女の子の解呪の物語。複数の物語軸が並行して進行し、それがばらけることなく一つの物語を編み上げていくさまに圧倒されました。和田島さんも書いていらっしゃいましたが、ます#1で掴みこまれます。童話的・幻想的光景が広がるものの、それへうっとりと耽溺することを許さない“吐く”という行為。魔術的美しさに感嘆しきることもできず、小夜のやりきれなさをこちらも感じざるを得ません(だからこそ終盤の展開が光るのですけど)。物語の基層となる要素が#1で提示されている構造はとても好きです。
物語軸の一つは小夜と妖精イリシオンの出会いと再会。二人は最初から一方的にどちらかが与えられる関係ではなく、互いに与え合う関係です。“カウンセラー”マーニの治療中は小夜が呪いによって一種“封印”された状態にあるのでマーニから救われる状態になりますが、最後は小夜がイリシオンとの記憶を思い出すと共にイリシオンを救う側になるという展開。これに個人的にぐっと来てしまって。あなたに救われるだけでなくて、あなたが苦しんでいる時に私も手を差し出せるようになりたいんだ、と密かに思っている相手がいるものですから、そう来なくてはと思いました。
もう一つの物語軸は小夜の過去・現在との対峙と解呪。過去や現在に何がしかの心理的な傷を負って、それが(必ずしも魔術的な意味でなく)“呪い” として自己を蝕んでしまう、そして(他者の助けなどもありながら)その呪いを解いて本来の自分の力を発揮するというのは、青春もの女性神話の王道である気がします。すごいのはこの軸と、前段で挙げた軸のクライマックスポイントが同じところにある点で、だから互いがばらけずに強固な一つの物語を編み上げているのだと思います。なんてよくできているんだと。
とても楽しみながら読ませていただきました。
登録:2021/10/5 17:21
更新:2021/10/5 17:21