廃墟となった世界に住まう少年アンドロイドと幻像の物語。途中引用されるイェーツの詩がこの小説を読み解くヒントを与えてくれたように思いました(この詩から発想したのかなと思うくらいに)。とはいえ、本作を読めている自信はあまり無いので、これから延々と妄想を語るかもしれません。
最初の方で見事だなと思いました。風が吹いて崩れ去ったビルからガラスの破片が落ちるところ。これでもう人類が滅びていることが十二分に描写されています。全体的にいい意味で色彩の薄い世界で、それが美しいです。
少年が好きなものは滅びを感じさせるもので、今回の戦利品の玩具はビー玉で、これは壊れやすいガラス玉。そして塒を移す時は集めた玩具を持って行かない。熊も、好きになったそもそものきっかけはエイン博士の言葉だったけれども、恋をして逢瀬に出かけているのはホログラムの熊で、しかものどかなそれではなく三毛別羆事件の、人間の団欒を滅ぼした熊。少年が動く先には透き通るような滅びが見えます。
少年が行く場所には人類がまだ生き残っていた時から残していた幻像があります。九龍城のレプリカたる集合住宅も過去の再現というその試みからして一種の幻像ですし、それこそホログラムも幻像。エイン博士も人類も今となっては全て幻像。というより、人類は生きていた時から(一応実体はあるわけですけど)幻像だった気がします。でも幻像を愛し、(たとえそれが既に滅びていたとしても)その先を愛することもできて。
滅びた世界を書くと、自然とそれとは対照的に思える生きていた頃の人間の営みであったり、痕跡であったりを書いてしまうものですが、本作の場合生きていた人間の名残が温度を伴うものではなく幻像として立ち現れています。それが本作の独特の雰囲気を作ってもいて、引き込まれました。
言葉遣いだとかデティールに踏み込んでいるときりがありません。素晴らしかったです。読ませてくださりありがとうございました。
登録:2021/10/5 17:31
更新:2021/10/5 17:30