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栄光の裏に隠された、敗者なりの美学

5.0
1

 野球というスポーツに、どんなイメージを持ちますか?

 大抵の人は人気の高い花形のスポーツであると同時に、男性がプレーするもの、という印象を抱くことでしょう。

 もちろんそれ自体間違いではないのですが、近年は女子野球のリーグも存在していますし、小学生~中学生までの少年野球の世界においては、男の子に混ざってプレーする女の子がいるのも事実です。


 さて本作は、そういった少年野球の世界で、女性でありながらエースナンバーを背負っていた主人公ヒカリと、彼女のライバルであった少年──石崎の視点で描かれる青春物語です。

 もっとも、ライバルとは言っても対戦成績は石崎の全勝。

 どうやっても彼を打ち取ることが出来なかったヒカリでしたが、〝ある日〟起こった悲劇により、志半ばにして野球の道を諦めてしまうのでした。

 しかし影響は彼女のみならず、彼女を野球の道から引き摺り下ろす切っ掛けを作った石崎の側にも波及しており──。



 スポーツものの作品というと、才能溢れる主人公による無双劇とか、強力なライバルとの胸躍る対戦を軸に描かれることが多いのですが、本作は少々趣が異なります。

 地面スレスレからボールをリリースするアンダースローという独特の投法を身に付けているヒカリは、確かに才能のある選手ではあるのですが、そこは女性ということもあり男性ばかりの世界においては度々苦労を強いられます。

 そればかりではありません。

 彼女に野球をして欲しくない母親との確執。後にプロ野球選手にまで上り詰めた石崎との再会。彼にエールをおくりつつも、腹の底で抱える複雑な心境。

 数々の壁に当たり、挫折して一度は這いつくばって、それでも諦めずに彼女が立ち上がるまでを描いた、光と影の物語とでもいうべきでしょうか。


 高い壁を乗り越えて、再び草野球のマウンドに立ち因縁の相手と対峙したとき、ヒカリが抱えてきた未練の全てが払拭されていくのです。

 

『麗しのサブマリン』というタイトルの回収と、泥臭くも立ち上がる彼女の姿が印象的な本作。再び相まみえたライバルたちの対決の行方を見届けてみませんか?



 上体に捻りが生まれる。右腕が鞭のようにしなる。


 地面スレスレから放たれたボールが、ど真ん中目掛けて突き進む。


 青空をバックに、白いボールが弧線を描いた──。

木立花音(こだちかのん)

登録:2021/10/8 22:52

更新:2021/10/8 22:51

こちらは木立花音(こだちかのん)さんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

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木立花音(こだちかのん)