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不明瞭な世界の向かう先

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〈今頭がいくつも有り得た分岐を辿っている。もし――だったなら、という今となっては自分の心を痛めつける以外に何の意味もない思考を繰り返している。〉


 久し振りに海外でも、と日本からスペインへ旅行するつもりだった〈私〉は、乗り継ぎのドーハ発バルセロナ行きの飛行機に乗っていた。もうじき墜落する飛行機。右隣の男は神に祈っている。神か。〈私〉には祈れるような神がいない。


 世界は不明瞭です。曖昧です。私が勝手にそう思っているだけなので、みんなが実際のところ、どう思っているかなんて分かりません。他者の心も世界と同じく、不明瞭で、曖昧です。でも明確なものが存在するかのように、時に、世界は、物語は、明快な答えを求めようとします。それをひどく窮屈に感じてしまう時があります。きっと、だから、なのかさえも実のところ分かってはいないのですが、この「不在」という一篇に惹かれてしまうのかもしれません。でもそんな理由を付けることさえ、本当に意味があるのだろうか、とふと心に萌してしまうような感覚があります。


〈私〉がクルアーンの読誦を聴いて美しいと思ったから聖典を読んだように、ただ「不在」を形作る言葉が美しいと思ったから、結局それでいいのかもしれない。語られた言葉を味わい、語られなかった言葉に想いを馳せたいな、と思いました。いや、まとまりのないレビューだな、とは思うのですが、そもそもまとまりのない世界が悪いのだと言い訳させてください。


 とても楽しく読ませていただきました。

サトウ・レン

登録:2021/11/14 01:30

更新:2021/11/14 01:29

こちらはサトウ・レンさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

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EGGMAN

終わりに見る光景は

〈おれはとてもしあわせだった。〉  終わりに見る光景がどんなものがいいかって、たぶん、終わりも知らない人間が気軽に語っていいのだろうか、とは思うのですが、でももしも終わりを前に、しあわせ、を感じるとしたら、彼が終わりに見たような色彩なのではないか、と感じました。  日本で発症を確認されたのがおそらく二例目とされる奇病中の奇病、俗に〈エッグマン病〉を発症した〈俺〉は、体が縮みハンプティ・ダンプティのようになっていく病魔に蝕まれながら、入院先で孤独に過ごした。そして退院の日、身寄りのない状況に困っている〈俺〉を迎えにきてくれたのが、幼馴染のモモこと桃園陽一だった。モモは縮んでしまったりはせず、そしてふたりは旅に出ることになった。……というのが、導入です。ですが、奇病の妙なリアリティ、旅の中で見る景色、感情を交わしていくふたりの姿の魅力は、縷々とあらすじを綴ってみたところで伝わるものではないでしょう。ぜひとも私のレビューなんかよりも、本文を読んで欲しいところです。 〈モモがペダルを漕ぎ出すと、世界の感覚が一気に変わった。最初はかなり揺れて気分が悪かったが、しばらくするとおれは残された手足を使って、クッションを敷いたキャリーの中で居心地のいい姿勢をとれるようになった。〉  何故、会社をひと月休んでまでモモが、〈俺〉と一緒にいることを選んだのか、そこに関する一応モモの口から語られる部分はありますが、必要以上に、詳らかに明かされることはありません。でも分かりやすい言葉を当てはめるよりもそのほうがずっと、心を寄り添わせやすい。  進行の続く病のいまを写し取るような変わっていく文体に、彼らのいまを感じ取りながら、幕を閉じて、切なくも静かな余韻に包まれる感覚がありました。

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サトウ・レン