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偽札騒動の意外な顛末は……?

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 高校入学前の春休みにアルバイトとして、隣り街に住む老婦人の家で引っ越しの手伝いをしていた〈ぼく〉は、手伝いの謝礼としておばあさんから受け取った一万円を貯金しようと、銀行のATMの入金を試みるが、何度やってもはじかれて戻ってきてしまう……。その時に、ようやく〈ぼく〉はそのお札が本物と違っていることに気付く。



 ということで、ここからがネタバレ込みの感想ですが、まだ読んでいない方は、ぜひ作品のページに進んでくださいね。







 本作は親切そうなおばあさんに騙されたと思い込んで、もやもやとした気持ちを抱えた少年が、世の中の昏さ、現実の厳しさを知る……という物語ではもちろんなくて、隣人のおじさんと出会ったことによって、それが現在の一万円ではなく、〈旧札〉だったと〈ぼく〉は知ることになります。明記されている時代背景を考えると、福沢諭吉の旧札を〈ぼく〉は眺めていたのでしょう。


 そう、ここで読者は本作がほっこりとした、日常の謎系統の作品だった、と知る、


 ……というわけでもなく、


 実はこの作品、ここからはもうひとつ新たな展開が用意されています。一万円札を新札と交換してくれたおじさんに感謝しながら家まで帰った〈ぼく〉には知る由のないことですが、実はおじさんは骨董品収集が趣味でそのお札がプレミア価値の付くものだと気付いて、親切ではなく下心からお札を交換していたわけです。自身の儲けのために少年に嘘を吐いたおじさんは天下の大悪人ではないですが、小悪党というか、小狡い印象を抱いてしまう人物で、そんなおじさんに天罰が下るように意外な事件の存在が浮かび上がってきます。


 そんな本作はユニークで、穏やかな読み心地の中に、甘さだけではない、苦味を混ぜたような良質さがあります。

サトウ・レン

登録:2021/11/14 01:38

更新:2021/11/14 01:37

こちらはサトウ・レンさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

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終わりに見る光景は

〈おれはとてもしあわせだった。〉  終わりに見る光景がどんなものがいいかって、たぶん、終わりも知らない人間が気軽に語っていいのだろうか、とは思うのですが、でももしも終わりを前に、しあわせ、を感じるとしたら、彼が終わりに見たような色彩なのではないか、と感じました。  日本で発症を確認されたのがおそらく二例目とされる奇病中の奇病、俗に〈エッグマン病〉を発症した〈俺〉は、体が縮みハンプティ・ダンプティのようになっていく病魔に蝕まれながら、入院先で孤独に過ごした。そして退院の日、身寄りのない状況に困っている〈俺〉を迎えにきてくれたのが、幼馴染のモモこと桃園陽一だった。モモは縮んでしまったりはせず、そしてふたりは旅に出ることになった。……というのが、導入です。ですが、奇病の妙なリアリティ、旅の中で見る景色、感情を交わしていくふたりの姿の魅力は、縷々とあらすじを綴ってみたところで伝わるものではないでしょう。ぜひとも私のレビューなんかよりも、本文を読んで欲しいところです。 〈モモがペダルを漕ぎ出すと、世界の感覚が一気に変わった。最初はかなり揺れて気分が悪かったが、しばらくするとおれは残された手足を使って、クッションを敷いたキャリーの中で居心地のいい姿勢をとれるようになった。〉  何故、会社をひと月休んでまでモモが、〈俺〉と一緒にいることを選んだのか、そこに関する一応モモの口から語られる部分はありますが、必要以上に、詳らかに明かされることはありません。でも分かりやすい言葉を当てはめるよりもそのほうがずっと、心を寄り添わせやすい。  進行の続く病のいまを写し取るような変わっていく文体に、彼らのいまを感じ取りながら、幕を閉じて、切なくも静かな余韻に包まれる感覚がありました。

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