ユーザー登録・ログイン

新規登録

ログイン

作品

レビュー

登録/ログイン

その他

オノログについてFAQ利用規約プライバシーポリシー問い合わせユーザー管理者Twitter
レビューを投稿
書籍化
コミカライズ原作
ジャンル別
サイト別
サイト関連
運営している人

@オノログ

死と飴玉をめぐる幻想譚

5.0
0

 細い路地の突き当たりの雑居ビルの階段を地下へとくだっていくと、そこには木製の扉に金属プレートで『飴屋』と彫られた店がある。そこには店番と思わしき小学生くらいの年頃の三つ編みの女がいて、と、なんとなく怪しい雰囲気ですが、それだけではなく、店内にはずらりと試験管が並んでいて、底には眼球……ではなく眼球にしか見えないような飴玉が入っている。それを口に入れた時、映し出される光景は死者の最期の記憶、そしてそれを追体験させられた者たちは、それぞれその死の真実に対して様々な感情を抱く……。


 ということで本作は、生者が本来なら絶対に体験することのできないリアルな〈死〉を追体験させる飴玉をめぐるファンタジックな連作ホラーなのですが、その不思議なヴィジョンによって展開されていく人間ドラマの要素も印象的な作品でした。死者の記憶を見せる飴玉、という設定は同じにしながらも、それぞれの短編の趣きはばらばらで、怪談的な話もあれば、人間心理の嫌な感じを煮詰めた作品もあるし、切ない想いが喚起されるような作品もあって、そのヴァリエーションの多さにも驚いてしまいますが、設定の使い方で秀逸だな、と感じたのが最終話の「ムシノネ」で、今回はネタバレはしないつもりなので、詳細については言及しませんが、それまでのこの世界に対する思い込みもひっくり返すような内容になっていて素晴らしかったです。


 もちろん個々が独立した短編としても、とても面白いのですが、物語同士の繋がりを楽しめるのも、連作ならでは、という感じで、エピソードの中に別のエピソードが混じっていくことに気付かされる読み心地はミステリやサスペンスを読む愉しみにも似ていて、それらのジャンルが好きな方にもぜひおすすめしたい、と思うような作品になっています。素晴らしい作品に出会えた、と読後、感嘆の息が出ました……。

サトウ・レン

登録:2021/11/14 01:39

更新:2021/11/14 01:39

こちらはサトウ・レンさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

同じレビュアーの他レビュー!!

EGGMAN

終わりに見る光景は

〈おれはとてもしあわせだった。〉  終わりに見る光景がどんなものがいいかって、たぶん、終わりも知らない人間が気軽に語っていいのだろうか、とは思うのですが、でももしも終わりを前に、しあわせ、を感じるとしたら、彼が終わりに見たような色彩なのではないか、と感じました。  日本で発症を確認されたのがおそらく二例目とされる奇病中の奇病、俗に〈エッグマン病〉を発症した〈俺〉は、体が縮みハンプティ・ダンプティのようになっていく病魔に蝕まれながら、入院先で孤独に過ごした。そして退院の日、身寄りのない状況に困っている〈俺〉を迎えにきてくれたのが、幼馴染のモモこと桃園陽一だった。モモは縮んでしまったりはせず、そしてふたりは旅に出ることになった。……というのが、導入です。ですが、奇病の妙なリアリティ、旅の中で見る景色、感情を交わしていくふたりの姿の魅力は、縷々とあらすじを綴ってみたところで伝わるものではないでしょう。ぜひとも私のレビューなんかよりも、本文を読んで欲しいところです。 〈モモがペダルを漕ぎ出すと、世界の感覚が一気に変わった。最初はかなり揺れて気分が悪かったが、しばらくするとおれは残された手足を使って、クッションを敷いたキャリーの中で居心地のいい姿勢をとれるようになった。〉  何故、会社をひと月休んでまでモモが、〈俺〉と一緒にいることを選んだのか、そこに関する一応モモの口から語られる部分はありますが、必要以上に、詳らかに明かされることはありません。でも分かりやすい言葉を当てはめるよりもそのほうがずっと、心を寄り添わせやすい。  進行の続く病のいまを写し取るような変わっていく文体に、彼らのいまを感じ取りながら、幕を閉じて、切なくも静かな余韻に包まれる感覚がありました。

5.0
0
サトウ・レン