細い路地の突き当たりの雑居ビルの階段を地下へとくだっていくと、そこには木製の扉に金属プレートで『飴屋』と彫られた店がある。そこには店番と思わしき小学生くらいの年頃の三つ編みの女がいて、と、なんとなく怪しい雰囲気ですが、それだけではなく、店内にはずらりと試験管が並んでいて、底には眼球……ではなく眼球にしか見えないような飴玉が入っている。それを口に入れた時、映し出される光景は死者の最期の記憶、そしてそれを追体験させられた者たちは、それぞれその死の真実に対して様々な感情を抱く……。
ということで本作は、生者が本来なら絶対に体験することのできないリアルな〈死〉を追体験させる飴玉をめぐるファンタジックな連作ホラーなのですが、その不思議なヴィジョンによって展開されていく人間ドラマの要素も印象的な作品でした。死者の記憶を見せる飴玉、という設定は同じにしながらも、それぞれの短編の趣きはばらばらで、怪談的な話もあれば、人間心理の嫌な感じを煮詰めた作品もあるし、切ない想いが喚起されるような作品もあって、そのヴァリエーションの多さにも驚いてしまいますが、設定の使い方で秀逸だな、と感じたのが最終話の「ムシノネ」で、今回はネタバレはしないつもりなので、詳細については言及しませんが、それまでのこの世界に対する思い込みもひっくり返すような内容になっていて素晴らしかったです。
もちろん個々が独立した短編としても、とても面白いのですが、物語同士の繋がりを楽しめるのも、連作ならでは、という感じで、エピソードの中に別のエピソードが混じっていくことに気付かされる読み心地はミステリやサスペンスを読む愉しみにも似ていて、それらのジャンルが好きな方にもぜひおすすめしたい、と思うような作品になっています。素晴らしい作品に出会えた、と読後、感嘆の息が出ました……。
登録:2021/11/14 01:39
更新:2021/11/14 01:39