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少女の成長と友情を描く青春ホラー

5.0
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 もし恐怖がひとを変える力を持つとしたら、


 これは、恐怖、という体験を通してひとりの少女が勇敢さを得ていく物語です。


 今回はネタバレは避けながらのレビューにはなりますが、それでも事前情報を得ることで作品に対する印象が変わる場合もあるとは思うので、未読の方はご注意ください。


 転校初日、〈わたし〉こと瀬戸深月は変な夢を見る。彷徨った生垣の迷路の先に見つけた洋風の立派なお屋敷、その庭に小学生三、四年生くらいの幼い女の子がいて、メイズと名乗った女の子に友達になって欲しい、と言われる夢だ。そして新しい中学校生活がはじまる中で、〈わたし〉はクラスの中心的存在である宮島真珠からこの辺りで知られる変わった占いについて教えられる。質問に答えてくれるメイズさんの占い。夢に出てきた女の子と同じ名前だった。以降、〈わたし〉は道案内に、テストの答えに、とメイズさんの占いに頼るたびに、その占いは未来のことまで百発百中になりクラスから一目を置かれるようになり、不審に思った真珠から問い詰められて……、


 と本作の導入はこんな感じで、「メイズさんの占い」という言葉だけを聞くととても可愛らしいですが、徐々に表していくメイズさんの本性は、とてつもなく怖い。


 中盤以降、容赦のない恐怖が展開されていくので、あんまり怖いのは……、という向きには気軽に薦められませんが、その代わりホラーと聞くと涎が出る向きには、こんな文章を読んでいる暇があったら、さっさと作品へ行け、と言いたくなる内容になっています。途中から、深月とメイズさんとの意外な関わりやメイズさんの起源が明るみになっていくことで、ぼやけていた輪郭がくっきりしてきて怖さが増してくるような感覚があります。


 そしてホラーの怖さを盛り上げる要素として、この作品には人間関係の魅力もあるのですが、登場人物同士の距離感やパワーバランスが事件や出来事によって歪に変化し、元ある形が崩れていく様が、胃がきりきりとしてきて、この嫌な感じが素晴らしい(褒め言葉です)。


 ただそんな恐怖と嫌悪の果てに、ひとりの少女が友情を育みながら、成長していく姿があり、青春の物語として後味の良さが残るのもすごく心地良くて、怖いのが大丈夫なひとならば、ぜひとも読んで欲しい作品です。

サトウ・レン

登録:2021/11/14 01:43

更新:2021/11/14 01:49

こちらはサトウ・レンさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

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〈おれはとてもしあわせだった。〉  終わりに見る光景がどんなものがいいかって、たぶん、終わりも知らない人間が気軽に語っていいのだろうか、とは思うのですが、でももしも終わりを前に、しあわせ、を感じるとしたら、彼が終わりに見たような色彩なのではないか、と感じました。  日本で発症を確認されたのがおそらく二例目とされる奇病中の奇病、俗に〈エッグマン病〉を発症した〈俺〉は、体が縮みハンプティ・ダンプティのようになっていく病魔に蝕まれながら、入院先で孤独に過ごした。そして退院の日、身寄りのない状況に困っている〈俺〉を迎えにきてくれたのが、幼馴染のモモこと桃園陽一だった。モモは縮んでしまったりはせず、そしてふたりは旅に出ることになった。……というのが、導入です。ですが、奇病の妙なリアリティ、旅の中で見る景色、感情を交わしていくふたりの姿の魅力は、縷々とあらすじを綴ってみたところで伝わるものではないでしょう。ぜひとも私のレビューなんかよりも、本文を読んで欲しいところです。 〈モモがペダルを漕ぎ出すと、世界の感覚が一気に変わった。最初はかなり揺れて気分が悪かったが、しばらくするとおれは残された手足を使って、クッションを敷いたキャリーの中で居心地のいい姿勢をとれるようになった。〉  何故、会社をひと月休んでまでモモが、〈俺〉と一緒にいることを選んだのか、そこに関する一応モモの口から語られる部分はありますが、必要以上に、詳らかに明かされることはありません。でも分かりやすい言葉を当てはめるよりもそのほうがずっと、心を寄り添わせやすい。  進行の続く病のいまを写し取るような変わっていく文体に、彼らのいまを感じ取りながら、幕を閉じて、切なくも静かな余韻に包まれる感覚がありました。

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サトウ・レン