もし恐怖がひとを変える力を持つとしたら、
これは、恐怖、という体験を通してひとりの少女が勇敢さを得ていく物語です。
今回はネタバレは避けながらのレビューにはなりますが、それでも事前情報を得ることで作品に対する印象が変わる場合もあるとは思うので、未読の方はご注意ください。
転校初日、〈わたし〉こと瀬戸深月は変な夢を見る。彷徨った生垣の迷路の先に見つけた洋風の立派なお屋敷、その庭に小学生三、四年生くらいの幼い女の子がいて、メイズと名乗った女の子に友達になって欲しい、と言われる夢だ。そして新しい中学校生活がはじまる中で、〈わたし〉はクラスの中心的存在である宮島真珠からこの辺りで知られる変わった占いについて教えられる。質問に答えてくれるメイズさんの占い。夢に出てきた女の子と同じ名前だった。以降、〈わたし〉は道案内に、テストの答えに、とメイズさんの占いに頼るたびに、その占いは未来のことまで百発百中になりクラスから一目を置かれるようになり、不審に思った真珠から問い詰められて……、
と本作の導入はこんな感じで、「メイズさんの占い」という言葉だけを聞くととても可愛らしいですが、徐々に表していくメイズさんの本性は、とてつもなく怖い。
中盤以降、容赦のない恐怖が展開されていくので、あんまり怖いのは……、という向きには気軽に薦められませんが、その代わりホラーと聞くと涎が出る向きには、こんな文章を読んでいる暇があったら、さっさと作品へ行け、と言いたくなる内容になっています。途中から、深月とメイズさんとの意外な関わりやメイズさんの起源が明るみになっていくことで、ぼやけていた輪郭がくっきりしてきて怖さが増してくるような感覚があります。
そしてホラーの怖さを盛り上げる要素として、この作品には人間関係の魅力もあるのですが、登場人物同士の距離感やパワーバランスが事件や出来事によって歪に変化し、元ある形が崩れていく様が、胃がきりきりとしてきて、この嫌な感じが素晴らしい(褒め言葉です)。
ただそんな恐怖と嫌悪の果てに、ひとりの少女が友情を育みながら、成長していく姿があり、青春の物語として後味の良さが残るのもすごく心地良くて、怖いのが大丈夫なひとならば、ぜひとも読んで欲しい作品です。
登録:2021/11/14 01:43
更新:2021/11/14 01:49