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19世紀末、謎、友情。

5.0
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 ネタバレはしないつもりですが、未読の方はご注意を。


 まだ電信機器が未発達だった19世紀末ロンドンの夜、ローラースケートで街中を縦横無尽に走り回る少年たちの姿があった。彼らは情報伝達の役目を果たすメッセンジャーボーイズ、その職に就いて半年の新参者である14歳のエドガー・タッカーには憧れ尊敬するメッセンジャーボーイがいた。ヒュー・バード。きょうもロンドンの夜を疾走していたふたりが、在野の宗教・聖書研究家であり、変わり者と言われているルパート・シーモア氏の宅を訪ねると、どうも様子がおかしい。鍵の掛かっていないその家に入ると、仰向けになった全裸のシーモア氏が死んでいた。ナイフが胸に突き刺さった状態で。机の上には紙片が一枚あり、シーモア氏が力尽きる寸前に書き残したと思わしき、


〈 宝 盗まれた だがニセモノ ニセモノを持つ者が 殺人者――〉


 という文章が――。


 というのが導入の、本作は19世紀末ロンドンを舞台にした青春ミステリです。深い知識に裏打ちされた謎解きと、物語の中でさらに深まっていく友情と、最後まで爽やかで心地の良い余韻が残ります。作者のsanpoさんのミステリをいままでにいくつか読ませて頂いたのですが、それらに共通して抱いたのが、物語、あるいはミステリに出会った頃の原体験に立ち戻っていくような懐かしさ、でした。


 物語を通して、いままで知らなかった世界を知っていく、視野が広がっていくような感覚、と言ったらいいのでしょうか。物語の入り口にどんな作品が良いか、っていうのは、ひとそれぞれで、一概には言えない、とは思いますが、私にとってはこういう物語だったら嬉しかっただろうなぁ、と思ってしまうタイプの作品です。二転三転する先の読めない展開、丁寧に張られた伏線と、秀逸なミステリ作品なので、ミステリ好きにはまずお薦めしたいですし、19世紀末のロンドンの街を疾走する(読者がかつての都市を冒険しているような)冒険譚的な面白さや探偵行を続けるふたりの少年の友情と軽快な会話を楽しむ青春小説としても、とても印象的なので、ぜひ幅広い方に読んで欲しいな、と思う作品でした。

サトウ・レン

登録:2021/11/14 01:44

更新:2021/11/14 01:44

こちらはサトウ・レンさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

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EGGMAN

終わりに見る光景は

〈おれはとてもしあわせだった。〉  終わりに見る光景がどんなものがいいかって、たぶん、終わりも知らない人間が気軽に語っていいのだろうか、とは思うのですが、でももしも終わりを前に、しあわせ、を感じるとしたら、彼が終わりに見たような色彩なのではないか、と感じました。  日本で発症を確認されたのがおそらく二例目とされる奇病中の奇病、俗に〈エッグマン病〉を発症した〈俺〉は、体が縮みハンプティ・ダンプティのようになっていく病魔に蝕まれながら、入院先で孤独に過ごした。そして退院の日、身寄りのない状況に困っている〈俺〉を迎えにきてくれたのが、幼馴染のモモこと桃園陽一だった。モモは縮んでしまったりはせず、そしてふたりは旅に出ることになった。……というのが、導入です。ですが、奇病の妙なリアリティ、旅の中で見る景色、感情を交わしていくふたりの姿の魅力は、縷々とあらすじを綴ってみたところで伝わるものではないでしょう。ぜひとも私のレビューなんかよりも、本文を読んで欲しいところです。 〈モモがペダルを漕ぎ出すと、世界の感覚が一気に変わった。最初はかなり揺れて気分が悪かったが、しばらくするとおれは残された手足を使って、クッションを敷いたキャリーの中で居心地のいい姿勢をとれるようになった。〉  何故、会社をひと月休んでまでモモが、〈俺〉と一緒にいることを選んだのか、そこに関する一応モモの口から語られる部分はありますが、必要以上に、詳らかに明かされることはありません。でも分かりやすい言葉を当てはめるよりもそのほうがずっと、心を寄り添わせやすい。  進行の続く病のいまを写し取るような変わっていく文体に、彼らのいまを感じ取りながら、幕を閉じて、切なくも静かな余韻に包まれる感覚がありました。

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サトウ・レン