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輝いて見えた新たな日常は、静かに崩れ去っていく――。

5.0
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 冬が訪れて間もない十二月のこと、美術部員の鳳優美は、同じ美術部員だがそれまで一度もしゃべったことのなかった沢野友梨奈から、絵が綺麗で繊細だと褒められ、その会話をきっかけに連絡先を交換し、徐々に友好を深めていく。対照的なふたりが関わり合うになっていく中で、小中高と友達と呼べる存在がおらず、過去に暗いものを抱える優美は、楽しさを覚えつつも、自身の暗い部分が負い目になり、罪悪感に耐え切れずに自身のその一面を明かした優美に対して、友梨奈は受け入れてくれて――、


 というのが本作の導入。ネタバレありのフィルターは付けましたが、特に後半の展開については知らずに読んだほうが楽しめる内容になっている、と思うので、まだ作品を読んでいないかたは、まず作品のほうへ、ぜひとも。このレビューでも結末については明かしませんが、それでも事前の情報はすくないほうが良さそうです。


 作品は読みましたか?




 物語の中盤までは、濃密な文体で光と影のような友情が育まれていく様子が描かれていき、優美が友梨奈に静かに寄り添っていく姿はほほ笑ましくもあるのですが、すこしずつ物語は歪さを孕んでいきます。輝いて見えた新たな日常が、静かに崩れ去っていくように。これはとても怖い物語だ、と思います。そもそもこの作品のジャンルはホラーですからね。でもその恐怖、というのは、びっくり箱的な驚かしではなく(これも好きなんですけどね)、自分の人生、あるいは周囲の人生にあってもおかしくなさそうな、身近な思わず自分事にしてしまいそうな怖さなんです。


 でも……、


 客観的に見れば歪にしか見えない光景も、当事者たちにとってはまったく違って見えてくる。愛憎相半ばした感情が噴き出した先に残酷な景色と悲劇があり、でも恐怖とともに読後、私の胸に残ったのは切なさでした。どれだけ歪んで見えようとも、そのひとにとっては一途な想いの表れだ、とそれまでに綴られた物語の中で、読者はすでに知ってしまっているからなのかもしれません。

サトウ・レン

登録:2021/11/14 01:46

更新:2021/11/14 01:45

こちらはサトウ・レンさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

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EGGMAN

終わりに見る光景は

〈おれはとてもしあわせだった。〉  終わりに見る光景がどんなものがいいかって、たぶん、終わりも知らない人間が気軽に語っていいのだろうか、とは思うのですが、でももしも終わりを前に、しあわせ、を感じるとしたら、彼が終わりに見たような色彩なのではないか、と感じました。  日本で発症を確認されたのがおそらく二例目とされる奇病中の奇病、俗に〈エッグマン病〉を発症した〈俺〉は、体が縮みハンプティ・ダンプティのようになっていく病魔に蝕まれながら、入院先で孤独に過ごした。そして退院の日、身寄りのない状況に困っている〈俺〉を迎えにきてくれたのが、幼馴染のモモこと桃園陽一だった。モモは縮んでしまったりはせず、そしてふたりは旅に出ることになった。……というのが、導入です。ですが、奇病の妙なリアリティ、旅の中で見る景色、感情を交わしていくふたりの姿の魅力は、縷々とあらすじを綴ってみたところで伝わるものではないでしょう。ぜひとも私のレビューなんかよりも、本文を読んで欲しいところです。 〈モモがペダルを漕ぎ出すと、世界の感覚が一気に変わった。最初はかなり揺れて気分が悪かったが、しばらくするとおれは残された手足を使って、クッションを敷いたキャリーの中で居心地のいい姿勢をとれるようになった。〉  何故、会社をひと月休んでまでモモが、〈俺〉と一緒にいることを選んだのか、そこに関する一応モモの口から語られる部分はありますが、必要以上に、詳らかに明かされることはありません。でも分かりやすい言葉を当てはめるよりもそのほうがずっと、心を寄り添わせやすい。  進行の続く病のいまを写し取るような変わっていく文体に、彼らのいまを感じ取りながら、幕を閉じて、切なくも静かな余韻に包まれる感覚がありました。

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サトウ・レン