冬が訪れて間もない十二月のこと、美術部員の鳳優美は、同じ美術部員だがそれまで一度もしゃべったことのなかった沢野友梨奈から、絵が綺麗で繊細だと褒められ、その会話をきっかけに連絡先を交換し、徐々に友好を深めていく。対照的なふたりが関わり合うになっていく中で、小中高と友達と呼べる存在がおらず、過去に暗いものを抱える優美は、楽しさを覚えつつも、自身の暗い部分が負い目になり、罪悪感に耐え切れずに自身のその一面を明かした優美に対して、友梨奈は受け入れてくれて――、
というのが本作の導入。ネタバレありのフィルターは付けましたが、特に後半の展開については知らずに読んだほうが楽しめる内容になっている、と思うので、まだ作品を読んでいないかたは、まず作品のほうへ、ぜひとも。このレビューでも結末については明かしませんが、それでも事前の情報はすくないほうが良さそうです。
作品は読みましたか?
物語の中盤までは、濃密な文体で光と影のような友情が育まれていく様子が描かれていき、優美が友梨奈に静かに寄り添っていく姿はほほ笑ましくもあるのですが、すこしずつ物語は歪さを孕んでいきます。輝いて見えた新たな日常が、静かに崩れ去っていくように。これはとても怖い物語だ、と思います。そもそもこの作品のジャンルはホラーですからね。でもその恐怖、というのは、びっくり箱的な驚かしではなく(これも好きなんですけどね)、自分の人生、あるいは周囲の人生にあってもおかしくなさそうな、身近な思わず自分事にしてしまいそうな怖さなんです。
でも……、
客観的に見れば歪にしか見えない光景も、当事者たちにとってはまったく違って見えてくる。愛憎相半ばした感情が噴き出した先に残酷な景色と悲劇があり、でも恐怖とともに読後、私の胸に残ったのは切なさでした。どれだけ歪んで見えようとも、そのひとにとっては一途な想いの表れだ、とそれまでに綴られた物語の中で、読者はすでに知ってしまっているからなのかもしれません。
登録:2021/11/14 01:46
更新:2021/11/14 01:45