ユーザー登録・ログイン

新規登録

ログイン

作品

レビュー

登録/ログイン

その他

オノログについてFAQ利用規約プライバシーポリシー問い合わせユーザー管理者Twitter
レビューを投稿
書籍化
コミカライズ原作
ジャンル別
サイト別
サイト関連
運営している人

@オノログ

昭和の終わりの夏、無人駅にて。

5.0
0

 ネタバレはしないつもりですが、ぜひまずは作品のほうを触れていただくと、より切れ味の鋭い短編の面白さが味わえるのではないか、と思います。





 うるさいセミの声が聞こえる、ある八月の夏。

 

 最寄りの無人駅に足を運んだ〈私〉は、待合室にひとり座る〈おじさん〉と出会う。外見は三十代から四十代前半くらいだろう若白髪の彼は、役場の住民課に働く、村一番の美人と村では知られたユカリさんの婚約者として訪れていて、村では話題の人物になっている。そんな彼にユカリさんの話を聞くと、彼は話を変えるように、かつて悪いことをしたひとを落としていた〈底なし沼〉の話をはじめる……、


 というのが本作の導入で、昭和から平成へと移り変わる時代の、〈少女〉と〈おじさん〉のどこか郷愁もかいま見えるひと夏の邂逅はすこしずつ色を変えていきます。


 結末に立ち上がってくる残酷なヴィジョンに思わずぞっとしてしまう、奇妙な怖さのある作品なのですが、ただ序盤で感じていた違和感の正体が徐々に明かされていくミステリ的な面白さもあり、このふたつのジャンルが好きなひとには、ぜひおすすめしたい内容になっています。そして淡々とした語り手の視点を通して語られる、村の閉鎖的な雰囲気も、作中に漂う不穏な感じを盛り立てていて、さらに恐怖が増していくのが嬉しい。

サトウ・レン

登録:2021/11/14 01:47

更新:2021/11/14 01:46

こちらはサトウ・レンさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

同じレビュアーの他レビュー!!

EGGMAN

終わりに見る光景は

〈おれはとてもしあわせだった。〉  終わりに見る光景がどんなものがいいかって、たぶん、終わりも知らない人間が気軽に語っていいのだろうか、とは思うのですが、でももしも終わりを前に、しあわせ、を感じるとしたら、彼が終わりに見たような色彩なのではないか、と感じました。  日本で発症を確認されたのがおそらく二例目とされる奇病中の奇病、俗に〈エッグマン病〉を発症した〈俺〉は、体が縮みハンプティ・ダンプティのようになっていく病魔に蝕まれながら、入院先で孤独に過ごした。そして退院の日、身寄りのない状況に困っている〈俺〉を迎えにきてくれたのが、幼馴染のモモこと桃園陽一だった。モモは縮んでしまったりはせず、そしてふたりは旅に出ることになった。……というのが、導入です。ですが、奇病の妙なリアリティ、旅の中で見る景色、感情を交わしていくふたりの姿の魅力は、縷々とあらすじを綴ってみたところで伝わるものではないでしょう。ぜひとも私のレビューなんかよりも、本文を読んで欲しいところです。 〈モモがペダルを漕ぎ出すと、世界の感覚が一気に変わった。最初はかなり揺れて気分が悪かったが、しばらくするとおれは残された手足を使って、クッションを敷いたキャリーの中で居心地のいい姿勢をとれるようになった。〉  何故、会社をひと月休んでまでモモが、〈俺〉と一緒にいることを選んだのか、そこに関する一応モモの口から語られる部分はありますが、必要以上に、詳らかに明かされることはありません。でも分かりやすい言葉を当てはめるよりもそのほうがずっと、心を寄り添わせやすい。  進行の続く病のいまを写し取るような変わっていく文体に、彼らのいまを感じ取りながら、幕を閉じて、切なくも静かな余韻に包まれる感覚がありました。

5.0
0
サトウ・レン