溜めこんだ太陽の熱を光と熱に戻し、〈私〉たち吹雪の島(スネーストルム)の民が厳しい冬を乗り越えるための必需品となっている不思議な珠を、土地の人間は「白夜灯」と呼んでいた。その魔道具「白夜灯」を点けると、ときおり夏の記憶が蘇ることがあるのだが、理由は王都の魔導士にも分からないらしい。〈私〉はその描き出された夏の記憶の中で、大好きなアルヴァという鷲獅子(グリフォン)と再会する。長く厳しい冬が続く島の、短い夏の日の記憶、婚約者に逃げられた女性と鷲獅子(グリフォン)との想い出と邂逅を描いた本作は、そんな導入からはじまります。
必要以上のネタバレは避けつつも、勘の良い方のためにネタバレフィルタを付けましたが、感想を読むより作品を読んでください。
言葉選びのひとつひとつに読む側に訴えかけてくる情感があって、美しさの中に静謐な哀しみを湛えたようなファンタジーで、細やかに描かれた語り手の心情を表す描写もとても印象的でした。
例えば語り手のユーリアが自分の陰口に花を咲かせている若い娘ふたりの立ち話を耳にした時に、相手を睨みつけるシーンがあるのですが、そのやりとりひとつとっても、淡々としているのに、やり取りの中に嫌なものが感じ取れるようになっていて、そういった細かい部分の積み重ねが、未知なる景色に他人事ではない実感を与えてくれるのかもしれません。
〈不意に湧いてきた問いかけに、私は答えることができない。夏に働くのは、冬に備えるため。冬を生き延びるのは、次の夏を迎えるため。
終わらない繰り返しには、何の意味があるんだろう?〉
という文章が途中に差し込まれるように、本作は幻想性のある奥行きもさることながら、自身のアイデンティティに悩む若者の、青春、成長の物語としても、とても楽しめる作品になっています。必要以上に後半の展開については触れませんが、幻想性の中に混じる人間の営みが持つ普遍的な〈残酷さ〉、というひとつの体験を通して、自分なりの答え、これからどうするかを強く決意する場面には、成長物語として心打たれてしまいました。
登録:2021/11/14 02:00
更新:2021/11/14 01:58