〈「何が多様性だよ。この国ってぶっ壊れてるね。人と違ったらすぐに叩かれる。それでいて、個性を大事にしろとか矛盾しているんだよ」〉
ネタバレには配慮しますが、内容を知らずに読むかそうでないかで物語の印象というのも大きく変わってくる場合があるので、先入観を持ちたくない方はご注意ください。というか、こんな文章よりも作品のほうを読んでください。
※一応、ネタバレフィルタは付けました。
良いですか?
もう一度、聞きますよ。
良いですね?
では……。
〈何か〉を追い求めた先で、繋がりの大切さを知っていく物語。読み終えた時、まず抱いたのはそんな感想でした。自分自身の個性を意識しながらも、その一方でその個性に空虚さを感じている語り手を主人公に、不思議な出会いを絡めて物語は進んでいきます。
〈結局、私は光になりたいだけだった。そして、真の神秘とは、快楽にまみれず、孤高を貫き、自らこそ光、と信じる人を指すことを知っている。〉
坂田陽奈の抱くこの感情は繊細さの表れであり、強烈な意思でもある。
誰にでも、と一般論にする気はないですが、自分は他とは違う、特別な何かになりたい、という想いを抱えて多感な時期を過ごしたひとは決してすくなくないと思います。それでもそのうちのほとんどはどこかで折り合いを付けながらその先を歩んでいくものなのかもしれません。だけど簡単に諦めを付けられるひとばかりではなく、主人公の陽奈も同様に自身の人生、その歩み方に深い悩みを抱えていました。
物語はそんな陽奈が二十歳の誕生日を迎えた日の不思議な出会いとともにはじまり、そしてその出会いの相手であり、自らを堕天使と名乗る柊は殺人事件の容疑者として現在逃走中だと知り……。
幻想的なタッチで紡がれる美しいヴィジョンはどこかほの暗くも、心地良い。〈何か〉を追い求めた先で不思議な体験があり、そして自身にとっての繋がりの大切さを知っていく。その心情の変化を成長と捉えるかどうかは読むひとによって違うとは思いますが、ただそこには確かに語り手の変わりゆく心があります。痛みを伴った、切なさが琴線に触れる作品でした。
登録:2021/11/14 02:04
更新:2021/11/14 02:03