ユーザー登録・ログイン

新規登録

ログイン

作品

レビュー

登録/ログイン

その他

オノログについてFAQ利用規約プライバシーポリシー問い合わせユーザー管理者Twitter
レビューを投稿
書籍化
コミカライズ原作
ジャンル別
サイト別
サイト関連
運営している人

@オノログ

どうか、物語の語りかける囁きに耳を傾けて

5.0
1

ヴァニタス──寓意画。それは人生の虚しさや、世の儚さをキャンバスに落とし込んだ、静物画のジャンルの一種を言います。


物語の舞台は学問と芸術の都・ヴェレス。

裏通りでひっそりと文具店を営む主人公・ライルのもとを、生真面目な少年・ルドルフが客として訪ねてきます。

曰く、「贋作屋」としてのライルに仕事を依頼したいと。


実直なルドルフに対し、人気サロン「火曜会」嫌いを豪語するライルは少々ひねくれ者。さらにある大きな秘密を抱えています。

そんなライルに度々振り回されるルドルフですが、絵画への熱量が並々ならぬものであるのは彼も認めるところ。


読者はライルの解説を通じ、芸術にまつわる見識や理解を深め、ルドルフの目を通じて、ライルという謎深き人物と、「火曜会」という豪奢なヴェールに隠されたほの暗い真実を知ることになります。


作者様は複数の書籍化作品をお持ちですが、この作品はいつまでも忘れられません。


文章の巧みさもさることながら、魅力的な登場人物たちの軽妙な掛け合い、芸術にまつわるシーンの説得力、キャラクターがほんとうに「生きている」と思わせる力が素晴らしい。そんな中にヤンデレもひょっこりいたりする。


何より、最初から計算され尽くした物語の構成が素晴らしいの一言。最後の最後までたどり着いたとき、「ここに繋がるか!」と膝を打ちました。


幕引きも見事で、あまりに鮮やかな結末の描きっぷりに、私たち読者も物語という一つのうつくしい「絵画」を鑑賞していたかのような、そんな錯覚に陥ります。


無駄な描写は一切ありません。最初から最後まで物語が語りかけてくる囁きを聞きこぼさず、見落とさず、見逃さず、ぜひライルとルドルフのたどり着く結末をご覧ください。

バケタ

登録:2021/7/12 19:02

更新:2021/7/23 17:15

こちらはバケタさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

同じレビュアーの他レビュー!!

死霊術士の殺人鬼

ここにしか生まれ得ぬ物語

駆け出しの死霊術士であるミチカが蘇らせたのは、正しく「災厄」だった。 きわめて残酷で、悪辣。子どものように無邪気でいながら、本質は万年氷よりなお冷ややか。 愛知らぬ彼の名は、リパー・エンド。 死して数百年経過しようと人々から恐れられる、伝説の殺人鬼である。 彼を蘇らせたことで、ミチカのみならず、多くの人生が狂い出します。 リパー・エンドは一言でいうと「人でなし」。 殺人をこよなく愛し、どうにかリパー・エンドを死霊解放しようと奮闘するミチカの努力を鼻で笑い、その努力が実らず終わったときの絶望を愉しみに待つような男です。 『史実ではこんな風に語られるが、実は……』といったようなことは一切ありません。頭の先からつま先に至るまで、彼は最凶最悪の殺人鬼であり、彼の罪は彼だけのものです。 少し歩けば息をするように血の海を生むリパー・エンドは、当然のように恨みも多く買っています。 こんな非日常の証明のような男を前に、ミチカは振り回されながら、どうにか彼を打ち倒さんと旅に出ることになるのです。 けれど……。 平気で人を殺せるリパー・エンドと、真っ当な感覚を持つ少女・ミチカ。 ふたりの育む関係性は、ただのバディとは少し違います。 蘇らせた人間と、蘇った死者。 平凡な学生と、歴史に名を残す人殺し。 本来交わるはずのないふたりの道が、運命のいたずらで交差するのが本作です。 分かり合えないし交わらない。迎合しない。けれど彼らの間にしかない絆が確かにあり、つながりがあり、ここにしか生まれ得ない感情があります。 果たして、恋とは甘やかな感傷のみを呼ぶのでしょうか。 それに当てはめると、因果で結ばれた彼らの関係は恋ではないでしょう。 けれど、個人的には恋愛ジャンルで最も記憶に残っている作品は何かと聞かれたら、この作品を迷わず挙げます。 物語と読者が一期一会であるように、物語の登場人物と読者だって一期一会です。彼らの関係性も。 設定の秀逸さ、文章の読みやすさ、物語としての面白さは言うまでもありませんが、「契約」「互いに命を狙うもの同士」「他にない独自性」「キャラクターの成長譚」「名前のつけられない感情」これらのうちで一つでもピンときたら、ぜひ読んでみてください。 ここにしかない出会いが、きっとあなたを待っています。

5.0
1
バケタ

書簡

胸締め付けられるおとぎの恋

どんなちいさな命も尊び、愛することのできる少女・イリスと、ひょんなことから彼女と手紙のやり取りをすることになった騎士・フェリクスの物語です。 イリスは心優しく聡明で、茶会のみんなが嫌がるシャクトリムシだってへっちゃら。どころかそっと逃してやるのです。 物語の構成の隙のなさ、情景が浮かぶようなうつくしい文章、イリス視点のどこまでも優しい世界への眼差し、フェリクスの愛情深さ。その全てが水のように溶け合い、ふくらみ、まるでお伽話を読んでいるような心地になります。 どうして彼らが惹かれ合うのかを、不用意に愛や恋といった単語を用いず、嵐のような愛憎を挟むこともせず、おだやかな海のような物語全体で説得力を持たせている手腕は、実に見事です。 それでいて、間違いなくこのお話はふたりの「恋物語」なのです。せつなくなるほど。 きっと物語の結末にたどり着いたとき、登場人物たちとの別れが寂しくなるし、彼らみんなの幸せを願うほど、いとおしくなると思います。 フェリクスの過去は本作ではあまり書かれませんが、番外編もありますので、気になった方はどうぞ。

5.0
3
バケタ