多種多様な指輪が人々の指を彩るこの世界。
貞節、契約、隷従……。指輪にはあらゆる祈りや願いが込められています。
特に貴族は人脈を誇示する意味合いで、指輪の数は多ければ多いほど良いとされる中、ここに風変わりな少女がひとり。
ごてごてとたくさんの指輪をつけた母を見ながら育った彼女は、ある指輪に焦がれているのです。
まっさらな指を飾る、愛するひとから贈られるたったひとつの「貞節」の指輪を──。
病弱で、少々おっとりした彼女と出会うのは、敏腕ながら凶相を持つ辺境伯。
彼は彼で、恐ろしい顔のお陰で何人もの女性に逃げられてきた過去を持ちます。
まっさらな指の持ち主どうしが、運命の夜に出会うことから、物語が始まります。
作者様の作品はほとんど読んでいますが、このお話も例に漏れずキャラクターの名前は出てきません。
それでも「推進力のある文章」というのでしょうか。ぐいぐい読ませる力のある文体に引き込まれます。
世間知らずゆえの主人公の感性も、実のところ策略家の辺境伯も、すっきりした文体ながら必要な背景が書かれているために、置いてけぼり感はないでしょう。
主人公たち以外の視点のお話も、こんな裏事情があったのかと物語の世界が広がります。
人間味のある魅力的なキャラクターたちが登場しますので、注目していただければ。
さいごに。
物語の主人公は実にしあわせそうに貞節の指輪を眺めますが、世界観は大変シビアです。というのもこの貞節の指輪、誓いをやぶれば砕けてしまいます。
果たして主人公の指に嵌るのは、たったひとつきりのよどみない愛の結晶か、それともあらゆる懇願の成れの果てか。それ以外か。
なんであれ、指輪はひととひとをつなぐ鎖に相違なく。
鎖に導かれた彼らの行く末を、ぜひ見届けてください。
登録:2021/7/14 19:07
更新:2021/7/23 17:15