彼女には、消し去りたい過ちと、失いたくない宝物があった。
DV被害者の女性がタイムリープして物語は始まる。眼前には魅力的な恋人だった頃の若い夫の姿。
物語を彩るのは、鮮烈な描写の生々しさだ。
指先から乳房の張りまでの容赦ない内省。刻印された恐怖への心情描写のリアリティ。
作者の瞳の解像度の高さには賞賛を惜しまない。
まず、夫の卑劣さを描き出すに筆致に圧倒され、視野狭窄していく女性の懊悩に対する解像度の高さに唸らされる。
抑圧に晒された人間の諦観を学習性無力感と呼ぶが、可能性を得た希望と無力感の綱引き。
人間の相反する価値観の鬩ぎ合いを見事な筆致で描き出している。
パンドラの匣の底には、希望が残されていた。厄災の匣になぜ希望が入っていたのか? 一説では、希望こそ最大の厄災だからだという。
主人公も、希望に縋って二度目の人生を繰り返す。その終着点を見届けて頂きたい。
登録:2021/7/10 00:59
更新:2021/7/23 17:15