めぐりの星の迷い子たち
たくさんの人が関わり続けることで、どんなに行き詰まった環境であろうとも、新たな道が見えてくるということを、この作品は教えてくれます。 様々な登場人物の行動は、見当違いだったり空回りしたりすることもありますが、途中で触れ合った人々に何らかの影響を与えずにはいられません。そしてどんなにか遠回りしながら、やがて自らに還ってくる。 全ては巡り巡って繋がっているのだという、そんな訴えが伝わってくるようです。 文章も丁寧で読みやすい上に、そこに描かれるイメージがふわっと頭のなかに浮かび上がって、あっという間に読み進めることが出来ました。 こんな素敵なお話に出会わせてくれた作者に感謝すると共に、是非いろんな方に読んでもらいたい。そう思える作品です。
- 作品更新日:2019/1/21
- 投稿日:2021/7/12
疾走する玉座
タイトルに偽りなし。文字通り逃げ惑う玉座を、四人とその仲間たちが世界の果てまで追い求めます。 最初はコミカルなレース的な展開を期待しましたが、追跡者たちが立ち寄る先には反乱者や神のごとき存在や古代の叡知など、想像を絶する世界が繰り広げられます。果ては世界の在り方まで問う羽目になる始末。物語が進むにつれてスケールは果てしなく広がっていきます。 しかも追跡者だけでなく、その仲間や道々で出会う人々にまで焦点を当てて、作者の頭はよくもまあ沸騰しなかったもんだと感心します。 回を追うごとに広がっていく世界に登場人物たちが織り成す、アクション満載の壮大なスチームパンク・ファンタジー。とにかく一言では言い表せない、満漢全席のような追跡劇を、とくとご覧あれ。
- 作品更新日:2019/8/13
- 投稿日:2021/7/12
セカンドバベルの下で
微に入り細に入った世界観の中を、所狭しと駆けずり回る登場人物たち。 ハリウッド映画化されてもおかしくない雰囲気に満ち満ちた、息もつかせぬバトルアクション。 随所に差し挟まれる未来的な設定も流れをとどめず、むしろ絶妙なスパイスになって楽しませてくれます。 こんな凄い作品を読ませてもらえて、作者にはただただ感謝です。 サイバーアクションが読みたければ、存分に楽しめること、請け合いです。
- 作品更新日:2020/4/26
- 投稿日:2021/7/13
プレ・ドライブ
木星近辺に突如現れた異星船を、人類が知恵と勇気とかなりの無謀さをつぎ込んで追いかけまわす。 こう書くと荒唐無稽に思えますが、膨大な宇宙技術の知識に裏づけられたその筆致は、とことんリアル。専門用語が羅列されても、物語の疾走感を損なうどころか、圧倒的な臨場感に呑み込まれていきます。 そして主人公のひとりは不愛想だけど繊細な、脛に傷持つ天才エンジニア&宙航士。もうひとりは破天荒だが乙女心を失わない、コンピューターとの親和性抜群な美少女。このふたりが心を通わせていく過程が物語のもう一つの軸となって、やがて異星船追跡にも決定的な意味を持っていきます。 宇宙人を相手取った太陽系規模の鬼ごっこの行き着く先を、是非見届けてほしい。SF好きなら是非一読してほしい作品です。
- 作品更新日:2019/5/28
- 投稿日:2021/7/13
蛍光
ちょうど梅雨時に目にしましたこちらの作品は、このところずっしりとしてたり起伏の激しい物語ばかり読んでいた私には、久しぶりに出会ったすっと心に染み入るお話です。 幼い頃に見た蛍の光の記憶から綴られる名もなき女性の一生は、彼女なりに悲喜こもごもだったのでしょう。変化に変化を重ねて積み重なっていく思いが、でも子や孫に受け継がれていく様は、そこに変わらないものもあることを匂わせます。 蛍の光に包まれながら迎えるラストまで読み終えて、思いがけず暖かい気持ちになれたこと、このお話に出会えたことに感謝したい。 色々と慌ただしい昨今、こういうお話こそ多くの人に読んで欲しいと思い、久々にレビューを書きたくなった物語です。短いお話ですので、ちょっとした合間にも是非お目通し下さい。
- 作品更新日:2020/7/19
- 投稿日:2021/7/12
デルギ・ハンの大叛乱―皇孫アリンの復讐―ᡩᡝᡵᡤᡳ ᡥᠠᠨᡳ ᠠᠮᠪᠠ ᡶᠠᠴᡠᡥᡡᠨ ᠈ ᡥᡡᠸᠠᠩᡩᡳ ᠣᠮᠣᠯᠣ ᠠᠯᡳᠨᡳ ᡴᠠᡵᡠ ᡤᠠᡳᡵᡝ
カクヨムでは既にたくさんのレビューがついている本作ですが、それでもレビューを書かずにはいられないという作品はあるものでして、本作は私にとってまさにそんな作品です。 中国清朝をモデルにしたという架空の歴史物語である本作は、そこに登場する人物は主役をはじめとしてそのいずれもが濃い!生き生きとしてる!簡潔過ぎるようにも思える筆致によって、各々の人生が余すところなく描き出されています。見慣れない単語のオンパレードだとしても、そんなこと全く気にならない。その過不足ない筆運びのお陰で読者は十万字超を読み終えるのもあっという間でしょうし、物書きを志す者にも大いに参考になるでしょう。 私自身が史実架空を問わず、こういう歴史を描くことに憧れてきた身としては、かなり打ちのめされました。壮大さと疾走感の両方を併せ持った作品とはそうそうお目にかかれるものではないと思います。 年の瀬にこの作品を読むことが出来たのは幸運でした。この幸運を是非皆様にお裾分けせずにはいられず、レビューを書きました。このレビューを目にされた方には、是非一度でも本作を読むことを強くおススメします。
- 作品更新日:2023/4/29
- 投稿日:2021/7/12
黴
ただのカビ、されどカビ。異常な繁殖力を得たカビが世界を覆い尽くす恐怖と、その困難に敢然と立ち向かう人々を描いた傑作です。時折差し挟まれる専門用語やらはスパイス程度。むしろこの作品の凄さは、次々と登場するキャラクターの簡潔かつ緻密な描写にあります。 オーストラリア、ケニア、アイスランド、アラスカ、日本という世界中を舞台に、そこにいる様々な人々の不安や恐怖、焦り、希望、解決に向けた強い意志、それらを事細かに、なおかつ飽きさせることのない筆致でグイグイと読ませる。パニックを描いた群像劇として、そうはお目にかかれない面白さ。 そして登場人物が決してへこたれないどころか、危機に向かって立ち上がるのが良い!終盤の「チーム筧」の活躍ぶりとか、手に汗握りながらも最後は喝采を叫びたくなること請け合い! 息もつかせぬ映画鑑賞体験に似た味わいが間違いなく約束された本作、是非ご一読ください!
- 作品更新日:2021/4/12
- 投稿日:2021/7/21
フロンタル・メティスの幸福
管理された幸福に染まりきった社会で、人々に嗜虐性の高い快感を与える、非道な道化を演じることで生き永らえてきた主人公。己の余計な罪悪感や感情を余計とすら感じる彼は、だが社会を震撼させる犯罪に巻き込まれてその謎に迫るうちに、自己のあり方を見つめ直し変貌していく。 こう書くと滅法お堅く思えるかもしれませんが、万事にシニカルで自分自身も突き放した主人公のキャラは徹底してて、いっそ爽やかなほど。そんな彼が様々な人との出会いを通じて変化していく様がまた、清々しいほど痛快です。 ディストピア管理社会に抗う物語は数ありますが、テンポの良い一人称で進められる文章で、次の頁をめくる手が止まらない。味わいあるハードボイルドSFです。欲を言えば五割増しぐらいの文章量で読みたかったというのはワガママかな! スカした男のイカした生きざま、是非ご一読下さい!
- 作品更新日:2022/3/5
- 投稿日:2021/7/27