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カクヨムその他連載:97話完結

半笑いの情熱

 この話は、光蟲冬茂という光が池原悦弥という影を浮き彫りにする作品である。主人公池原悦弥が小学生時代に受けたいじめは、光蟲という存在がいなければこれまでも、これからも決して語られることはなかったのだと思う。  話の構成としては最初に大学時代の池原の日常を描いている。人付き合いに無関心で自信の興味の範疇で生を満喫しようとする彼は、囲碁と茶道の二つ(あと光蟲)には興味を持っており、それらを軸に話が進む。  池原は過去の栄光に囚われるタイプの人間である。また、自分は優秀だ(った)という自負がある。第八話で高校時代は優秀な生徒だったという描写がある。“勉強は”という但し書きがついてはいるが、大学も上位私立に入り、社会人になった後も大きく道を外さないかぎりは、彼は賢いのでおおっぴらにはしないにしろ、死ぬまでエリート意識を持ち続けそうな人間性である。ただ、この性格も、後々の展開を読んでいけば、仕方のない癖のようなもののように思えてくる。  ちなみに、大学時代にはルノアールなどの喫茶店が出てくるが、私はこの小説を読んで初めてルノアールに足を運んだ。  そういった無気力ながらも淡々と過ぎていく大学時代から、話は小学生時代に移る。  小学生時代、彼は担任である首藤にイジメられる。理由は色々あるだろうが、要因の一つは他人とズレており、可愛くなかったからだと思われる。池原少年は周りよりも大人びており、首藤や取り巻きのクラスメイトたちを自分よりも精神年齢が幼いと思いこむことで自我が壊れないよう保っていたのではないかと思われる。  さらに、池原少年はただイジメられるばかりではなく、首藤の奸計を出し抜いて見せるという賢さも持っていた。  しかしどれだけ耐えても、池原少年に降りかかる理不尽はまだ幼い彼のキャパシティを超えていってしまう。そして限界を超えた時、彼の中で何かが壊れてしまう。  ――余談で、さらにネタバレになるので詳細は控えるが、この話が書籍化するとしたら、表紙は『葉巻を吸う池原母の絵』を一案に上げたいほど、そのシーンは名場面だと思う。  そうして、池原が小学生時代の思い出を光蟲に向けて述懐することでこの話は幕を閉じる。  池原が凄絶ないじめを受けてきて、また孤独の中にあっても生きてこれたのは、各環境で出現する孤独な彼に寄り添う同性の友達と、要所で起きる異性からの救いの手が彼を保ってきたのだと思う。  作者は光蟲を書きたかったと言っていたが、それは半分嘘だと思う。何故なら作者はナルシストであるし、光蟲よりかは池原の人生を見ている方が面白かったからだ。  私はこの話を四周した(2019年8月12日0時時点)。半笑いの情熱は、作者の生き方を描いた原点といってもいい小説だと私は思う。

5.0
  • 作品更新日:2019/6/7
  • 投稿日:2021/7/15
カクヨムその他連載:14話完結

ケタオチ

 人は光り輝くものをありがたがり、道端に落ちている石ころには目もくれない。  キャリアやブランドをありがたがり、それに群がる人間たち同士が馴れ合い、媚び合い、輝かしい将来のため、上へと登っていく。  資本主義において、上に立つ人間が放つ正論はあまりにも辛辣だ。何故なら、綺羅びやかで人が集まり賛美するものが正義であるから。正論は、弱者を簡単に切り捨てる。  一方で、そういった世界では人が目を背け、侮蔑の対象とする落ちこぼれたちに居場所はない。  出世街道から外れた主人公がこの町で多くの今を生きる人たちに会い、関わりの中で、人情に浸っていく。この空気感が僕は好きだ。  最後の、広中が西成を認めている描写で救われた。広岡は悪いやつではないのだろう。そもそも、悪いやつなんていないのだろう。ただ、皆立場があり、それぞれの生き方があるだけだ。僕も、欲望を叶えることが悪いことだとは思わない。  それでもやはり、上へ上へと背伸びをする社会は少し辛い。  向上を求められる世界の中で、停滞を許してくれるこの町の優しさは、今の時代、あまりにも尊い。 人は光り輝くものをありがたがり、道端に落ちている石ころには目もくれない。  キャリアやブランドをありがたがり、それに群がる人間たち同士が馴れ合い、媚び合い、輝かしい将来のため、上へと登っていく。  資本主義において、上に立つ人間が放つ正論はあまりにも辛辣だ。何故なら、綺羅びやかで人が集まり賛美するものが正義であるから。正論は、弱者を簡単に切り捨てる。  一方で、そういった世界では人が目を背け、侮蔑の対象とする落ちこぼれたちに居場所はない。  出世街道から外れた主人公がこの町で多くの今を生きる人たちに会い、関わりの中で、人情に浸っていく。この空気感が僕は好きだ。  最後の、広中が西成を認めている描写で救われた。広岡は悪いやつではないのだろう。そもそも、悪いやつなんていないのだろう。ただ、皆立場があり、それぞれの生き方があるだけだ。僕も、欲望を叶えることが悪いことだとは思わない。  それでもやはり、上へ上へと背伸びをする社会は少し辛い。  向上を求められる世界の中で、停滞を許してくれるこの町の優しさは、今の時代、あまりにも尊い。

5.0
  • 作品更新日:2019/4/14
  • 投稿日:2021/7/15
カクヨムその他連載:96話完結

ひび割れ鏡

いい話を読むと疲れる。 今、サンマルクカフェの椅子の上で、脱力しています。 この話の登場人物は、皆、自分の幸福の追求(凄い宗教的ですが)よりも、他人の不幸がそのまま自分の幸福になるような底意地の悪いタイプ。 高度経済成長期という、モノや生活が豊かになっていく過程を体験していながら、精神的な部分では発展のない環境。いわば、逆三丁目の夕日。 この作品は徹底して不幸を書いていて、胸糞悪い描写が続きます。平坦な日常。 キャッチコピーで“誰も読まない、いや、読まない方がいいかもしれない…。”とした理由も頷けます。 しかし、なぜか僕は、彼女たちを嫌いになれなかった。なぜなら、彼女たちの生活があったから。彼女たちの人生に呑まれてしまったから。 そして、僕の潔癖ともいえる善人主義を変えてしまった。こうあってもいいのかと思えた。面白かった。

5.0
  • 作品更新日:2022/2/21
  • 投稿日:2021/7/15
カクヨムその他連載:76話

写真家・ササキの存在意義

 まだ連載中だが、完結まで書ききってほしいのでその一助になればと思いレビューを書いた。  カメラというのは魔性だ。カメラに魂を抜き取られると言われた時代があったが、現実から時間という概念を捨て、ただ一瞬を切り取るという行為に意味を見出した先人たちは偉大だ。何にせよ、思い出を保存して置けるのだから。  この作品がシリアスな展開でありながら、それでもスラスラと読めてしまうのは、作者のユーモアが僕たちが物語に没入する手助けをしてくれているからだろう。まるで漫才を見ているようだ。  ギャグを挟みながら小気味よく、時に人間の確信に触れる物語のリードは、今の僕には真似できない。口惜しいことに僕も創作を嗜んでいるのだが、こればっかりは実際に読んでもらわないと空気感が伝わらないだろう。特にテロリスティック。  また、家族の根深い問題に切り込みながらも、解決できることと出来ないことを分けて、最後まで依頼者の願いを叶えようとするササキのプロ意識には敬服する。  そして彼の言った、写真家ほど無責任な職業はない。写真を切り取るのは、一瞬。そして、どんな写真ができるかは撮ってからでないとわからない。  確かに、無責任とも取れる。しかし僕は、写真家ほど真摯な職業はないと思う。何故なら、不確実であるという結果を知っていたとしても、あえて依頼主が求めているであろう最高の一瞬を切り撮ろうとするからだ。  誰でもスマホで写真が取れる時代。女子高生でも画質だけならプロのカメラマンにも劣らないかもしれない。そんな時代で、カメラマンの役割とは一体何なのだろう。僕にはまだ答えが出せていない。

5.0
  • 作品更新日:2021/1/26
  • 投稿日:2021/7/16
カクヨム恋愛連載:16話

年上の彼女が僕に言う「君とおやつを」

 どうでもいいことばっかり言う孝代さん。そんな彼女に呆れるのもほんの一瞬だけ。好きな人と他愛もない話をしながらただご飯を食べる。そんなラブコメ。  僕が一番好きな話は手作りのプリンの回。風邪の孝代さんのためにプリンを手作りするんですけど、ネットを見ても出てくるのは手間暇のかかるレシピばっか。料理ができない主人公は妥協案でプリンの素でプリンを作る。でもその味は、どんなレストランで出されるプリンよりも美味しい。そりゃそうだよな、どれだけ不器用でも自分のために作ってくれたんだもんな。  どうでもいいことを話せる相手、好きな人と食べる料理。それだけでいい。ほんわかして心が温かくなる。  好きな人と一緒に笑いながら食べるものは、たとえどんな料理でも美味しいよ。

5.0
  • 作品更新日:2024/3/12
  • 投稿日:2021/7/16
カクヨムファンタジー連載:86話完結非公開

スペルドキャッスルの雪宴《ゆきうたげ》

本の中に綴られる文字は時を重ねて人々に読みつがれてゆくうちに不思議な力を持つようになる。 作中で語られるこの言葉は、この物語の設定と相まって読者を惹きつける説得力を持っている。 主人公の弟、京志郎が作ったジオラマの世界を、自信のない魔法使いシーディと、百合香は冒険する。その中で出てくる魔法や、ナイチンゲールの物語などといった現実世界とのつながりなど、謎がたくさん散りばめられた本作は、物語が進むごとに耽美で箱庭的な世界観と相まって、どんどん深化していく。 中でも特筆すべきはキャラの魅力だろう。主人公の百合香は、恋多き乙女で、ジオラマの雪だるまや弟の京志郎にすら心臓を高鳴らせてしまうほどの女の子である。 物語の全体的に、少女漫画や童話的な成分を含む一方、実家に隣接した図書館に作られた精緻なジオラマ部屋や流星刀などの男心をくすぐる要素が入っているのも本当ににくいなと思う。 総評して、仕掛け絵本にしたら面白い物語だろうなと思いました。 現実世界から干渉できる世界、っていうのも設定としてはめちゃくちゃ面白いです。そして、ジオラマの登場人物が、現実から干渉できない世界を作ろうとして、ジオラマ世界を拡張しようとしたことも。 製作者の手から離れて、作られた物語の世界が拡張していく。これは、作者にとっては嬉しいことのように思います。

5.0
  • 作品更新日:2023/8/11
  • 投稿日:2021/7/15
カクヨムその他連載:47話完結

ノラネコのピアニスト

僕は、博士の愛した数式みたいな、天才が何気ない日常を送る話が好きです。好きなところに赤線を引いて読んでいるのですが、赤線で埋め尽くされています。 正直、この話はまだ始まったばかりなので、レビューを書こうか悩んだのですが、僕のレビューがモチベーションになって完結させてくれることを願い、書きます。 タイトルから惚れました。ノラネコというのは、過酷でもあり、自由でもある。その言葉と、話の軸を表すピアニストというある意味きれいな職業を合わせることで、掴まれるものがありました。 仲間がガラスの瓶を作ってきてくれたりだとか、開店時間になると、ピアノの演奏が聴ける酒場に常連が集まってくる。この空間で飲むと、絶対ビールが美味しいと思います。ていうか、こんな場所でちまちまウイスキー呑むのはもったいないと思います。 そんなほのかな温かさの中に、悲しみはどのように溶けていくのか。そして、リアンはどんな成長を見せるのか。楽しみです。 2019年2月6日追記 ありがとう、リアン。 ーーリアン.フィレンチ最後のコンクールの観客より

5.0
  • 作品更新日:2019/2/5
  • 投稿日:2021/7/15
カクヨムその他連載:219話完結

氷上のシヴァ

私は、この物語の最初から、最後まで、芝浦刀麻に関わる登場人物から語られる彼自身を追っていた、はずだった。 物語の終盤、まるで最初からいなかったかのように、彼は氷上のシヴァという世界から姿を消す。いや、確かにいたのだ。私も、この世界の住人も、彼の放つ金色の光を追っていたのだから。 楽しかった。その一言に尽きる。作者は空間を描くのがうまいと思った。空間の描写は、演目の曲だったり、スケートのブレードが描く軌道だったり、ジャンプという肉体の躍動が複雑に絡み合って表現されている。 そして、偶像めいた描写というか、確かに芝浦刀麻という存在はいたはずなのに、読み終えたあとに、その影を探してしまう、世界と切り離された読後感が素晴らしかった。 作中で語られる「俺は生まれ変わらなきゃいけないんだ。旧い世界なんか足下で叩き割って新しい世界を創る」という言葉が特に印象的でした。 インド神話の神、シヴァの破壊と創造がうまく組み込まれており、作中の登場人物の多くが、破壊(喪失)と、創造(成長だったり進歩)を経験し、青春ものの作品として、読み応えのある内容でした。 芝浦刀麻という存在を、多様な切り口で見せ、繊細な人間関係を描写してくれた作品。大変、満足です。 最後に、私が生きてこなかった人生を見せてくださりありがとうございました。

5.0
  • 作品更新日:2021/11/22
  • 投稿日:2021/7/15
カクヨム恋愛連載:36話完結

あの海に落ちた月に触れる

「じゃあ、エッチしたいって思ったことある?」 男にとって、この言葉は不登校の幼馴染に言われたいセリフナンバーワンだと思う。 一方、一番好きな人に言いたい言葉ナンバーワンは何かというと、「僕を肯定してください」だと思う。 大人になっても素直に言えない言葉ってあると思うんですが、青春時代って気持ち的に言えなかったり、そもそも言葉に出なかったりして言えない言葉がたくさんある。 僕も子どもの頃は(今でも)答えを急かされているように感じて、時間に流されて取り残されるのがめちゃくちゃ怖かった。 子どもの潔白さで世界を見ると、一番好きなものを神格化、特別視しすぎちゃって、手が出せなくなったり言葉が出なくなったりする。こうして時間がどんどん過ぎて、できなかった後悔が残ったまま大人になる。 めちゃくちゃ甘酸っぱいし、すごく辛い。いずれ忘れるのかもしれないし、死ぬ間際まで覚えているのかもしれない。 彼女が十人いる男が最初に連絡するのは十番目の女だと話の最初に出てきますが、男って、濁しちゃうんでしょうね。照れくさくて。 作中で、行人の周りに、女の子が数名出てきますが、一番どうでもいい女ほどセックスがしたいと言いやすい。 常に一番を選べるほど人は強くないし、一番を選べない後悔の痛みをやわらげるために、少しずつ現実を知って諦めながら大人になって行くんだなあと思いました。 そういう意味で、ちゃんと一番を選べた行人くんは男らしいし羨ましいですね。 ともあれ、何が言いたいかというと、行人を見ていると、悪友と語り合っている感じがします。 そして、煙草を吸う未成年の女の子は大変えっちだということです。

5.0
  • 作品更新日:2018/10/1
  • 投稿日:2021/7/16