【完結】シブヤのサンゾク
※「コンノウ坂中編最終話」まで読了 【残酷描写あり・暴力描写あり・性的表現あり】 シブヤ――それは渋谷と似て非なる存在、欲望と暴力と生と死が綯交ぜになった街。 そこで出逢ったチハヤとシカの物語り。 3つのレイティングはお飾りではなく、生半可な覚悟で読むとあっという間にシブヤの闇に飲み込まれてしまう。しかし一方で、痛みを渇望する者には福音として感じられるだろう。 緻密かつ暴力的に紡がれた文章と構成の心地よさ。 言葉も世界も残酷でありながら、引き寄せられるように次の話をクリックしている。 そうして戻れないところまできて、ぬかるむ足元の泥が毒であることに気づかされる。けれどもそれは、求める者によってはここでしか得られない薬でもある。 魅力的な物語りに、『渇望と赦し』を感じさせられました。 続きの再開を心待ちにしています。
- 作品更新日:2023/5/31
- 投稿日:2021/7/15
犬と老女と映画館
「やりきれない感情を抱いた上で生きていく複雑な想い」を、丁寧に掬い上げて描かれる作者様と感じています。 この作品も、ディストピア世界における理不尽や不自由なんてレベルをとうの昔に越えた先の、ある種の極限を描いています。世界設定がとてもとても緻密で、一文字読むごとに息苦しささえ感じるリアリティ。現代とはかけ離れた状況なのに、登場人物の深いところまで共感してしまう。 無駄のない言葉選び、確かな文章力、冷静な観察眼と対照的に熱い筆跡──。 終わることは哀しいことなのだろうか。 終わることは、赦しだろうか。 終わりは誰にでもいつか訪れるからこそ、深く考えさせられる作品。というか、作者様。 最後まで読み終えたとき、自分が息をしているのか分からなくなる。それほど惹き込まれてしまった素晴らしい作品です。というか、素晴らしい作者様。(大事なことなので2回書く) 夜明けがテーマの小説「フィフコン」参加作品の中でも、ずば抜けて強い衝撃を与えられた作品です。 ※ステキブンゲイ版で拝読
- 作品更新日:2020/10/11
- 投稿日:2021/7/18
日本三景デート旅(全三話)
※今回、極めて個人的な感想です タイトルの通り、日本三景をデートするという話です。 そんな贅沢なデートをエスコートしてくれる「おじさん」こと、鮎彦さん。 十歳年下の「ハイ・ツンデレーション」な彼女、稲子ちゃん。 まず、稲子ちゃんが可愛い(かわいい)。 私はツンデレ属性はさほど持ってないのですが、この稲子ちゃんは可愛いのです。ツンツンしてる姿もすてきなのですが、個人的には「デレ部分」が最高です。デレデレに甘いシュークリームにチョコソース掛けした極甘ではなく、程よいカラさのカレーに溶かした隠し味のミルクチョコレート、ひとかけら。大仰なパフォーマンスなんてしない。ほしいときにほしいものを、彼女が気づいたときに、無理のない範囲で見せてくれる──堪らないですね! もしもこんな可愛らしい恋人が自分にできたら、それはもう猫可愛いがりして即・嫌われること間違いなしです。 そして、それと同じだけ魅力的な鮎彦さん……。 大人な男性の包容力も、博識なところも、喩えや感性がちょっとオジサンなところも、ちょっと拗ねちゃうような子どもっぽさが残るところも全て、もう非の打ち所さえ非の打ち所にならない「最高の年上彼氏」でした。 3話とも鮎彦さんの語りで進んでいくのですが、最後まで読んだときに例の写真とか他の写真とかいろいろ見ながら、ふたり……あるいはもっと多くの人と語ってるのかなぁ、と勝手に想像しています。 一番好きな話は、第2話です。 安芸宮島へ行くのですが、鹿に驚く稲子ちゃんにときめき、ガンダムネタをスルーされる鮎彦さんにときめき、稲子ちゃんのさりげないフォローにときめき、満潮の宮島にときめきました。 このふたりには、「愛してる」なんて誰でも知ってる言葉なんて必要なくて。ただただ、ふたりのやりとりの細部から互いを思いやり慈しみあっているのが感じられて、何度読んでもじーんと心が温かくなるのを感じます。いつか、日本三景をこの目で見てみたくなる作品です。 初読はステキブンゲイ版でしたが、オノログさんがカバーされてるカクヨム版でレビューを書かせていただくにあたり、再読いたしました。大人すぎない大人の恋愛連短編、お勧めです。
- 作品更新日:2021/8/11
- 投稿日:2021/8/31
はんぺんチーズフライって、とってもエモーショナルな味がするんだね
高校受験は、現代では比較的多くの人が経験する人生の曲がり角だろう。 目的地へ向けてワープする人、堅実な一歩を踏み出す人、そしてそうではない人。出願倍率が1.0を切るような過疎の進む地域の学校じゃない限り、番号が見つからない人は必ずいる。 大人になれば、それだって1つの通過点や1つの評価でしかない、とわかるのだろうけど。やっぱり未成年にとって、受験で落ちるというのは将来に軽く絶望するに能うだけの破壊力を持っているんじゃないだろうか。 何かつらいことがあったとき、放置じゃなく、根掘り葉掘りするわけでもなく、こんなふうにそっとしておいてくれるお母さんがいてくれたら──そんな、「自分にはあり得なかったIF」を想ったら、はんぺんチーズフライの味がじわーっと胸に沁みました。 言葉じゃなくて、感情がそのまま流れこんでくるような……そんな「エモーショナル」な作品です。お勧めします。
- 作品更新日:2021/5/10
- 投稿日:2021/8/31