侘しい仔竜と逃亡王子
最終更新:2022/4/5
作品紹介
僕は騎士を喪った。 私は母を喪った。 僕は母を殺された彼女に申し訳なく思った。 私は騎士を殺された彼を哀れに思った。 僕は構えた弓を投げ捨てた。 私は命を差し出した彼に寄り添った。 僕達はまだ幼過ぎた。 私達はまだ温もりから離れたくなかった。 僕達は助け合わなければ生きられなかった。 私達はそれぞれでは立ち直れなかった。 そんな生活も月日が経てば気慣れたものになっていった。 ぎこちない日常も季節が巡れば心安らぐものになっていった。 彼女の牙は大きな脅威も恐れ慄くものだった。 彼の弓は気付かれないままに獲物を仕留めてみせた。 何よりも気の知れた仲になった。 寝食を共にするのが当たり前になった。 寒い日に身を寄せ合って眠るのが心地良かった。 暑い日に水を浴びせ合うのは楽しかった。 でも。 けれど。 僕は王子であるという事実からは逃れられなかった。 私は人と共に生きる事への苦難を知らなかった。 ※ハーメルンにも投稿しています
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