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作:サトウ・レン

想い出の詩

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最終更新:2021/1/14

作品紹介

 記憶ほど信用できないものはない、と思うんだ。ひとは都合よく自分自身の記憶を捻じ曲げる。たとえば、昔は良かった、なんていう記憶の美化はその最たるものじゃないか。僕はいつだって怯えている。誰かが急に僕の目の前に現れて、身に覚えのない罪を糾弾するんだ。それを嘘だと思っているのは僕だけで、それこそが真実なんじゃないか、って

青春青春・ヒューマンドラマ天才アーカイブ部門

評価・レビュー

『身に覚えのない罪を糾弾するんだ』――それは本当ですか?

サトウ・レンさんの作品は「読み手の考える空白を与える」という素晴らしい表現の小説が印象的です。「これが正解だ」という書き方をされません。読む人により感じたものが「あなたにとっての正解」と思わせてくださいます。『悪』を表現されているようなあらすじから、非常に心惹かれます。 孤独に暮らす男の許に、「返して」と言う少女が現れる。そこから、男は懐かしい人に似た少女から、古い記憶を思い出す。 彼には昔、友人と呼ぶには奇妙な感情を思わせる、ある男と青春を共にしていた。友人以上の、その関係を口にするのは難しい距離感だった。 「彼」にも「俺」にも名は表記されていない。「俺」の視線で話が進みます。 作中に出る「アルチュール・ランボー」が、「彼」のモデルと言うか鏡に感じました。そして「俺」は、「アルチュール・ランボー」が影響を受けた革命思想の持ち主である、「ジョルジュ・イザンバール」がモデルである鏡だと思われます。(共にフランス人で、ランボーは詩人です)この2人の話を書くと長くなるので、興味があればご自身でお調べ下さると嬉しいです。 ※これは、私の思った事でありサトウ・レンさんの意図する設定とは違うかもしれません。 「彼」が「天才」である事に嫉妬にも似た思いと屈折した感情で、友人関係を続ける「俺」。サッカー推薦で入学し、成績もよく、多くの人の輪にいる「彼」。そんな「彼」と「俺」が出会ったのは学校の図書室。 詩に興味がある訳でもない「俺」が、「若き天才」と呼ばれたランボーの詩を読んでいたのは気取った姿を取りたかっただけです。小説が好きで、特別詩が好きだった訳ではなかった。 「俺」は、「彼」に嫉妬も羨望もない態度で接する。その態度が珍しくて、「彼」が「俺」に興味を抱いたのでしょう。 過大な期待を向けられて「天才」と呼ばれる自分にしか興味ない友人しかいない「彼」にとって、「俺」は「天才」として自分を見ない安らげる存在だったのでしょう。「彼」は「俺」の本当の心の中を知らないのですから。 『繊細で、脆く、とても傷付きやすかった』と、「俺」は「彼」を思い出します。詩に興味を持つ「彼」に反して、詩よりも好きだった小説に戻った「俺」 成績も良かったのに、大学には行かずにフリーターを経て営業の仕事に就いた「彼」、大学に通い「絶対に売れる作家になる」という謎の自信を抱え秘かに小説を書く「俺」。互いに地元に残っていたので、高校を卒業しても交流は途絶えなかった。 「誰かの言葉を味わうほうが僕は好きだから。特に、書きたい、と思ったことはないかな」という彼の言葉に、小説を書く事を黙っていた。それは多分、「俺」が彼に対するコンプレックスからなのでしょう。小説を書いてる自分を、「彼」は馬鹿にするかもしれない、と思ってしまったからでしょう。 しかし大学卒業後就職した先はブラック企業で、「三年は我慢しなさい」という母の言葉を守れず辞めてアルバイトをしながら、「俺」は再び小説を書き始める。 自分にはない彼が持っている「才能」に嫉妬した「俺」は「彼」を避けようとするが、「彼」は交流を続ける。 結婚したことを報告して、妻を「俺」に紹介する。子供が出来た事を報告して、子供を交えて奇妙な四人での交流を続ける。 そんな中、「彼」は「俺」に誰にも黙って秘かに詩を書いていたことを告白する。そして、もう十分満足したから詩を書く事を止める、と。「彼」の書き留めた詩が綴られたノートを託される――「僕に詩と出会わせてくれたのは、きみだから。決別として詩を贈るなら、きみ以外には考えられなかった」という言葉と共に。 読んでいる方に、作家を目指している人は多いだろう。そして何かの賞に落ちるたび、誰かが作家になった時、「いつかは自分も必ず選ばれる」と心の奥で思っているだろう。「俺」の気持ちが、自分の心のどこかに刺さるだろう。「どうしてあの人に勝てないんだ」と思っているかもしれない。 サトウ・レンさんが本作を「俺」の一人称で書かれたのは正解だ、と、私は思いました。「俺」を自分に投影させて読み手に強い共感を抱かせる事に、成功していると思われるからです。そして、「彼」の本心が分からないからこそ、この物語は読み手に思案させて惹きつけるのです。 冒頭の少女は、「彼」の成長した「娘」だった。「彼」は「俺」が、『今まで抱えていた憎しみの感情のすべてを彼にぶつけて、もう二度と会う気がないことを告げた。』夜に死んでしまったからだ。 「彼の娘」は言う。『大切なひとを失ったから、俺は死を選ぶ』と父が言っていたのは、「俺」に拒絶されたからだと。だから、「お父さんを返してよ」と「俺」に迫ったのだ。 父である「彼」と「俺」が、友人以上の関係――恋愛関係にあったのではないかと。 私は、簡単にこの二人の関係が「BL」や「恋愛」だと言いたくありません。友人以上の何かであったことは、確実です。ですが、愛や恋なんて陳腐な言葉で終わらせるのは間違っていると、もっとその奥の何かではないかと思いたいのです。 繰り返し使われるフレーズがあります。その中の言葉です 『誰かが急に僕の目の前に現れて、身に覚えのない罪を糾弾するんだ。それを嘘だと思っているのは僕だけで、それこそが真実なんじゃないか』 それがまさに、「俺」が対峙している状況です。 「彼の娘」は昔自分を抱き上げてくれた「俺」を目の当たりにすると、『自分のことをしっかりと見てくれる安心感がある』と朧に思い出す。そうして父親似の自分が現れて、「娘」の顔を見た「俺」の様子を見て察したのでしょう。忘れようとしていた、父である「彼」を。 『自らにまで嘘をつき続けた哀れな男』の、自覚していなかった嫉妬と羨みの中に隠された、「彼」に抱いていた「想い」を「俺」が思いだした事に。 まるで、モーツアルトとサリエリです。 私はこの作品の中で、好きな文があります。 『今日は暑い。暑い夜におかしくなって、あいつは死んだんだ、なんてよく分からない理屈を付けて。』 そうです、カミュの『異邦人』を彷彿させる一文です。 繊細だと知っている「彼」に、罵倒して自分の心の醜いものをぶつけ死なせてしまった「俺」の憐れないい訳です。 作中の短い「彼」の言葉から、「彼」の想いを察するのは難しいです。 ですが、自分を変えた「詩」から「俺」の存在。「彼」が詩を書かなくなったのは、傍にこれからも「俺」が居てくれると思ったのかもしれない。それは、叶わなかったのですが。 9,686文字の作品の中に、「俺」や「彼」の心があちらこちらに隠れています。 私が気付かなかった「想い」を、是非見付けて下さい。 タイトルにある、『想い出の詩』 それは、「彼」が書いて世間から称賛された詩なのか。 出逢ったきっかけのランボーの詩集なのか。 タイトルすらも、読む人により受け取りが変わってくるでしょう。 とても素敵で、読み手に楽しみを与えてくれた作品でした。是非、この素晴らしい作品が皆様の目に留まりますように。

5.0

七海美桜@小説書いてます