炭鉱夫が主人公の小説、と聞いて「わあ面白そう!」という人はあまりいないと思います。ましてや、エネルギーが石炭から石油へ移り変わる時代が舞台、なんて聞いたら「なんか暗そう」と敬遠してしまう人も多いのではないでしょうか。
どうかその気持ちのまま、ページを開いてみて下さい。決して明るく楽しいお話ではありませんが、ウィットに富んだ丁寧な文章によって、炭鉱町での暮らしやそこで生きる人々の苦悩が目の前に迫ってきて、気がつけば物語に没入していると思います。
小説の後半部分を占める坑道内での大事故については、作者様と浅からぬ縁のある町で実際にあった出来事のようです。非常にリアルで、ラストの展開には涙を堪えられないと思います。読み終わった後も物語のことが頭から離れなくなってしまうかもしれません。それでも、戦後の復興や高度経済成長を支え、私たちの日常の礎となった人々のドキュメンタリーをぜひ読んでいただきたいと思います。
(蛇足ですが、炭鉱や炭鉱町に関する描写がとても興味深いです。たとえば昭和なのにある程度キャッシュレスで生活できたとか。炭鉱会社指定の店を利用し代金をツケにして、後日給与から天引きされるシステムがあったらしいです。そういった小ネタや歴史が大好きな私はめちゃくちゃ前のめりになってしまいました。同志におすすめしたいです)
登録:2021/7/22 12:46
更新:2021/7/23 17:15