スチームパンクというか、ドールパンクな世界観な作品。けっこうダークで、残酷気味な描写もあったりする。
舞台となるのはペープサートという街。鉱山の街だった昔に、見つけられた謎の白い鉱石の研究から始まり、開発された、「神秘の箱」とも称されるエニグマレル。そのエニグマレルを利用して造られる自律人形たちがあちこちに馴染んでいる『世界一の人形の街』。
作中で発生する恐ろしい事件。人形と人形師たちの街に漂う、何か特異な感じなど、ミステリー的な雰囲気もわりとあると思う。
メインとなる人形が2体いて、結構アクション描写とかも多いので、わりとバディもの的な感じもあるかも。
自律人形の設定は興味深くよい。あの生物が苦手とか。
あと個人的には、この作品にはサイバーパンク的要素も(しかも強く)感じる。別にこの物語には電脳世界とか、ハイテクコンピューターのネットワークとかは多分出てこない(少なくともこれを書いてる時点までは出てきてない)。しかし、大なり小なり人間らしさを与えられた自律人形たちの描写には、脳科学(神経学)的に、あるいは意識や認識の哲学的に興味深いものがとても多い。
作中で、人形は結局しっかり人工的原理があり、つまり人形はあくまでも造られた存在とされる一方で、そうと言いきれるのか疑問なくらいに、まさに生きているかと思わせるような示唆もたくさんある訳である。
アナログサイバーパンクとでも言えようか。
涙を流す機能が付いていたら泣きじゃくってる。空腹という概念はない。味覚を持たせる技術はまだない。制作に金と時間をかけるほどに人形は人間に近づいていく。
エニグマレルの発明も、まさに生きた人形を造ろうとする人形師たちがたどり着いた究極形というような説明も作中にある。無機質なはずの人形に命を吹き込み心を与えてしまうものと。
そしてそうした情報の他、精度が低い、同じ言葉を繰り返したりするだけみたいな人形的人形の存在などが、現実のAIとかの発展に対して、我々が抱くような不安に近いもの(ようするに、人間は人間を作れるのかという疑問)も感じさせてくれる。
とにかく、生物の認識する現実、造られた生物の心などに関連している謎をいくつも問いかけられてる印象は強い。
他、細かな演出がまたいいです。
人形の会社グラン・ギニョール(一般的にこの名称は、20世紀前半くらいにフランスに実在した芝居、見世物小屋。さらにギニョールの由来は、指人形芝居の主人公人形のようです)。そのカタカナ名称が出てきた時点では出てこない、そのカタカナが当てられる印象深い漢字名称が、実際に会社か出てくる場面でようやく、という流れとか、とてもいい感じと思った。
登録:2021/7/24 10:48
更新:2021/7/24 10:48