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絶唱

5.0
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 感情を込め、夢中になって歌うことを、絶唱、と言います。もちろん私は作者ではないので、作者の実際の感情を、本心を、知ることはできないわけですが、この作品を読むたびに、絶唱するように言葉を紡ぐ作者の姿は明瞭になっていきます。作者の本心は知りません。ただ私がそう感じただけの話なのですが、すくなくとも強烈な感情を見出してしまった私には、この作品は時に劇薬にもなります。


 読むたび、と書きましたが作者とは別のサイトで知り合った私(※これはカクヨムに寄せたレビューです)は、三つのサイトにおいてこの作品に触れる機会があり、多分通読で五回は読んでいると思います。これは別に回数を誇りたいわけではなく、一回でも私よりも丁寧に読み解いてしまえるひとは多いでしょう。数はどうでもよくて、私にとって大事なのは、この作品を読むごとに変化する私の作品に対する感情で、読むのを繰り返すごとに、この作品に言葉を費やすことへのためらいが生まれるのです。私にとってこの作品はどこまでも愛おしい、でもこの作品への愛を語れば語るほど、私の拙い愛情表現によって色褪せていくのではないか、という恐怖にも似た、そんなためらいです。


 それでもやっぱりこの作品は素晴らしい、ということでレビューを書こう、と。


 塾講師のバイトのかたわらウェブ小説を牧伸太郎というペンネームで書いている〈俺〉の自宅に、その〈牧伸太郎〉の名を口にする青年が訪れる。出版社の人間が来たのかもしれない、と一瞬の甘い希望も打ち砕かれ、そしてその人物が黒崎啓一であることを知る。黒崎啓一は〈俺〉の創った半自伝的小説に登場する〈俺〉の生き写しであり、美化された〈きれいな〉面も持ち合わせていた……。そんなメタフィクション的な要素を取り入れた本作には、生き写しであるからこその、強い共感と、そんな相手にだからこそ抱く葛藤があります。鏡と対話するように本音をさらけ出せる相手の存在って、ちょっとした憧れかもしれません。


 もちろんネタバレはできないので細かくは書きませんが、前編の終盤以降、〈俺〉は、人間の死生、救い、そして作家の業と対峙していき、その中で自分なりの答えを出し、物語は決して読者にその答えの〈正しさ〉を強いようとはせず、私なんかはそんなところにすごく魅力を感じてしまいます。


 この物語は〈なぜ人は生きるのか〉という問いへの安易な解答の空虚さを知っているし、生や救いへの違和感にもがいている。だからその絶唱の果てに待つ余韻が、刺さる、のかもしれない。好きだな……、本当に。

サトウ・レン

登録:2021/11/14 01:22

更新:2021/11/14 01:21

こちらはサトウ・レンさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

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EGGMAN

終わりに見る光景は

〈おれはとてもしあわせだった。〉  終わりに見る光景がどんなものがいいかって、たぶん、終わりも知らない人間が気軽に語っていいのだろうか、とは思うのですが、でももしも終わりを前に、しあわせ、を感じるとしたら、彼が終わりに見たような色彩なのではないか、と感じました。  日本で発症を確認されたのがおそらく二例目とされる奇病中の奇病、俗に〈エッグマン病〉を発症した〈俺〉は、体が縮みハンプティ・ダンプティのようになっていく病魔に蝕まれながら、入院先で孤独に過ごした。そして退院の日、身寄りのない状況に困っている〈俺〉を迎えにきてくれたのが、幼馴染のモモこと桃園陽一だった。モモは縮んでしまったりはせず、そしてふたりは旅に出ることになった。……というのが、導入です。ですが、奇病の妙なリアリティ、旅の中で見る景色、感情を交わしていくふたりの姿の魅力は、縷々とあらすじを綴ってみたところで伝わるものではないでしょう。ぜひとも私のレビューなんかよりも、本文を読んで欲しいところです。 〈モモがペダルを漕ぎ出すと、世界の感覚が一気に変わった。最初はかなり揺れて気分が悪かったが、しばらくするとおれは残された手足を使って、クッションを敷いたキャリーの中で居心地のいい姿勢をとれるようになった。〉  何故、会社をひと月休んでまでモモが、〈俺〉と一緒にいることを選んだのか、そこに関する一応モモの口から語られる部分はありますが、必要以上に、詳らかに明かされることはありません。でも分かりやすい言葉を当てはめるよりもそのほうがずっと、心を寄り添わせやすい。  進行の続く病のいまを写し取るような変わっていく文体に、彼らのいまを感じ取りながら、幕を閉じて、切なくも静かな余韻に包まれる感覚がありました。

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サトウ・レン