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果てに待つ光景は――。

5.0
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 とても素敵な掌編に出会ってしまった……のですが、本作をネタバレなしで書くのは難しい。でも、この作品は事前情報は持たずに読むほうが絶対良いタイプの作品だと思います。なので、できるなら、まず本作を読んでから、こちらに戻ってくるのをお薦めします。


 ネタバレフィルタは付けましたが、今回はすべて明かすわけではなく、多少踏み込みつつも、できる限りネタバレには気を付けながら書きますが、たぶん勘の良いひとはちょっとの情報で構成、展開を察してしまうかもしれない。だから、もう一度言いますが、まず本作を読んでから、こちらに戻ってくるのを強くお薦めします。



 良いですね。後で絶対に文句は言わないでくださいね。



〈桐島蝶子(ルビ きりしまちょうこ)、僕の彼女だ。……と言っても最近付き合ったばかりなので、「画家の卵なんて」といつ愛想をつかされないか、毎日冷や冷やしている。彼女持ちであると胸を張れない僕は、蝶子さんが言う通りの心配性なのだろう。〉


 本作は〈現実〉という空虚さを嗤うように、あいまいさの上で成り立つ虚構の魅力に満ちた物語です。後書きにて、作者さん自身が〈泡沫〉という言葉に想を得たと書いていますが、いま見ている光景は本当に確かなものなんだろうか、と読者と語り手は物語の途中から不安な感覚を共有していく中で、まさしく泡沫の夢という情景が弾け、驚きとともに浮かび上がる〈確かに(見える)〉世界。でも……その〈確かに(見える)〉世界こそが泡沫の夢、あるいはそれまでと地続きにある世界の中……なのかもしれない、と世界は揺らいだまま、幕だけが閉じていく。素晴らしく好みの作品です。


 読後、ふと蝶子の名前のモデルについて考えてしまいました。確信犯なんだろうなぁ、と思いつつ、読後の余韻を楽しみながら、このレビューは終わらせることにします。

サトウ・レン

登録:2021/11/14 01:52

更新:2021/11/14 01:51

こちらはサトウ・レンさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

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EGGMAN

終わりに見る光景は

〈おれはとてもしあわせだった。〉  終わりに見る光景がどんなものがいいかって、たぶん、終わりも知らない人間が気軽に語っていいのだろうか、とは思うのですが、でももしも終わりを前に、しあわせ、を感じるとしたら、彼が終わりに見たような色彩なのではないか、と感じました。  日本で発症を確認されたのがおそらく二例目とされる奇病中の奇病、俗に〈エッグマン病〉を発症した〈俺〉は、体が縮みハンプティ・ダンプティのようになっていく病魔に蝕まれながら、入院先で孤独に過ごした。そして退院の日、身寄りのない状況に困っている〈俺〉を迎えにきてくれたのが、幼馴染のモモこと桃園陽一だった。モモは縮んでしまったりはせず、そしてふたりは旅に出ることになった。……というのが、導入です。ですが、奇病の妙なリアリティ、旅の中で見る景色、感情を交わしていくふたりの姿の魅力は、縷々とあらすじを綴ってみたところで伝わるものではないでしょう。ぜひとも私のレビューなんかよりも、本文を読んで欲しいところです。 〈モモがペダルを漕ぎ出すと、世界の感覚が一気に変わった。最初はかなり揺れて気分が悪かったが、しばらくするとおれは残された手足を使って、クッションを敷いたキャリーの中で居心地のいい姿勢をとれるようになった。〉  何故、会社をひと月休んでまでモモが、〈俺〉と一緒にいることを選んだのか、そこに関する一応モモの口から語られる部分はありますが、必要以上に、詳らかに明かされることはありません。でも分かりやすい言葉を当てはめるよりもそのほうがずっと、心を寄り添わせやすい。  進行の続く病のいまを写し取るような変わっていく文体に、彼らのいまを感じ取りながら、幕を閉じて、切なくも静かな余韻に包まれる感覚がありました。

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サトウ・レン