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甘く、刺激的な世界の果てで、俺は。

5.0
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 物語後半の内容に触れるため、ネタバレフィルタを付けました。まだ読んでいない方は、まずはぜひ作品のほうを。



 良識のある清廉な男女ばかり集まったそこそこの進学校に通う、デブでオタク(本人評)な〈俺〉は、周囲の自分への要らぬお節介にも等しい視線を含んで迷惑なバレンタインデーを呪う気持ちから悪魔を呼び出す儀式の真似事をして自己嫌悪に陥ってしまうが、そんな冗談めいた遊びは、本当にソロモン72柱の魔神のひとりである、吟詠公爵ゴモリー、異国情緒あふれる妖艶な美女を召喚してしまう……というのが、物語の導入で、「チョコレート パニック!」なるタイトルに似合いの騒動を経て、その先にある少年のひとつの成長への共鳴が胸を打つような作品になっています。


 あれが嫌だ、これが嫌だ、と何かを憎んだり呪ったり、とする感情は多かれすくなかれ、ほとんどのひとに備わっているもので、今回の語り手にとって、それはバレンタインデーであり、類似するようなイベント事だったわけですが、すくなくとも私には他人事のようには感じられず、語り手の感情を卑屈だ、と笑うことはできませんでした。


 それがバレンタインデーになるかは別にしても、誰もがどこかに身に覚えのある普遍的なものなのかもしれません。だからこそ語り手が存在自体に憎しみを向けるのではなく、見方、心の持ちようを変えていくことで一歩前に進んでいく姿が、自分事のように嬉しく感じて、読者自身も語り手に自分を重ねて、いまの気持ちの在り方を再確認しながら先に進んでいけるような、そんな気持ちになれる小説でしたし、そういう読み方はしなくても、爽やかな印象が残る青春エンターテイメントとして楽しい作品なので、ぜひ幅広くお薦めしたいな、と思いました。

サトウ・レン

登録:2021/11/14 01:56

更新:2021/11/14 01:56

こちらはサトウ・レンさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

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EGGMAN

終わりに見る光景は

〈おれはとてもしあわせだった。〉  終わりに見る光景がどんなものがいいかって、たぶん、終わりも知らない人間が気軽に語っていいのだろうか、とは思うのですが、でももしも終わりを前に、しあわせ、を感じるとしたら、彼が終わりに見たような色彩なのではないか、と感じました。  日本で発症を確認されたのがおそらく二例目とされる奇病中の奇病、俗に〈エッグマン病〉を発症した〈俺〉は、体が縮みハンプティ・ダンプティのようになっていく病魔に蝕まれながら、入院先で孤独に過ごした。そして退院の日、身寄りのない状況に困っている〈俺〉を迎えにきてくれたのが、幼馴染のモモこと桃園陽一だった。モモは縮んでしまったりはせず、そしてふたりは旅に出ることになった。……というのが、導入です。ですが、奇病の妙なリアリティ、旅の中で見る景色、感情を交わしていくふたりの姿の魅力は、縷々とあらすじを綴ってみたところで伝わるものではないでしょう。ぜひとも私のレビューなんかよりも、本文を読んで欲しいところです。 〈モモがペダルを漕ぎ出すと、世界の感覚が一気に変わった。最初はかなり揺れて気分が悪かったが、しばらくするとおれは残された手足を使って、クッションを敷いたキャリーの中で居心地のいい姿勢をとれるようになった。〉  何故、会社をひと月休んでまでモモが、〈俺〉と一緒にいることを選んだのか、そこに関する一応モモの口から語られる部分はありますが、必要以上に、詳らかに明かされることはありません。でも分かりやすい言葉を当てはめるよりもそのほうがずっと、心を寄り添わせやすい。  進行の続く病のいまを写し取るような変わっていく文体に、彼らのいまを感じ取りながら、幕を閉じて、切なくも静かな余韻に包まれる感覚がありました。

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サトウ・レン