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静かな罪の記憶の物語。

5.0
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 ネタバレには配慮した感想になりますが、真っ新な気持ちで読んだほうが受ける印象が鮮やかになる気がします。未読の方はぜひ感想よりも、作品のほうを。




 三十歳を前にして札幌での仕事を退職した〈私〉こと滝本奈緒は、地元に戻った際に、町内の子供たちから「神社公園」と呼ばれていた公園を二十年ぶりに訪れる。人も寄り付かなくなって久しく、いまでは多くの遊具がなくなり、すっかり寂れた様子の町外れの公園で、〈私〉が思い出すのは、小学四年生の春に姿を消した舞のこと……というのが、導入。


 誰にとっても偏愛を注いでしまうジャンルや作風がある、と思います。趣味嗜好が大きく関わり、どんな作品がそれに当たるのかは十人十色で、どれだけ似ていても、同じになることはほとんどないでしょう。私にとってのそのひとつが、過去の記憶と向き合う物語、ふいに訪れる過去からの罪と対峙する瞬間を描いた物語で、本作はまさにそんな作品でした。出会うだけで、特別な喜びに満たされ、それが私にとって面白いものならば嬉しくなる。


 幼い日から続く罪の記憶、そして新たに知る秘密の共有によって、とめどなく溜まっていく心の澱が淡々と丁寧に描写されて、その静かなトーンは変わることなく、苦い余韻を残して幕は閉じていく。


 あぁ、好きだなぁ、と喜び嬉しくなった作品を、今回は紹介させていただきました。

サトウ・レン

登録:2021/11/14 01:57

更新:2021/11/14 01:57

こちらはサトウ・レンさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

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EGGMAN

終わりに見る光景は

〈おれはとてもしあわせだった。〉  終わりに見る光景がどんなものがいいかって、たぶん、終わりも知らない人間が気軽に語っていいのだろうか、とは思うのですが、でももしも終わりを前に、しあわせ、を感じるとしたら、彼が終わりに見たような色彩なのではないか、と感じました。  日本で発症を確認されたのがおそらく二例目とされる奇病中の奇病、俗に〈エッグマン病〉を発症した〈俺〉は、体が縮みハンプティ・ダンプティのようになっていく病魔に蝕まれながら、入院先で孤独に過ごした。そして退院の日、身寄りのない状況に困っている〈俺〉を迎えにきてくれたのが、幼馴染のモモこと桃園陽一だった。モモは縮んでしまったりはせず、そしてふたりは旅に出ることになった。……というのが、導入です。ですが、奇病の妙なリアリティ、旅の中で見る景色、感情を交わしていくふたりの姿の魅力は、縷々とあらすじを綴ってみたところで伝わるものではないでしょう。ぜひとも私のレビューなんかよりも、本文を読んで欲しいところです。 〈モモがペダルを漕ぎ出すと、世界の感覚が一気に変わった。最初はかなり揺れて気分が悪かったが、しばらくするとおれは残された手足を使って、クッションを敷いたキャリーの中で居心地のいい姿勢をとれるようになった。〉  何故、会社をひと月休んでまでモモが、〈俺〉と一緒にいることを選んだのか、そこに関する一応モモの口から語られる部分はありますが、必要以上に、詳らかに明かされることはありません。でも分かりやすい言葉を当てはめるよりもそのほうがずっと、心を寄り添わせやすい。  進行の続く病のいまを写し取るような変わっていく文体に、彼らのいまを感じ取りながら、幕を閉じて、切なくも静かな余韻に包まれる感覚がありました。

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サトウ・レン