まるで文字で創られたVRゴーグル。
それがこの作品を読み進めた感想です。
文字を追い、イメージを膨らませ、どんな世界かを頭で想像しながら、我々読み手は物語を「読む」
普通は、そんな感じ。
でも、この作品は違いました。作品を読ませるのでもなく、見せるのでもない。
街並みが、石畳に敷かれた軌道が、そこで往来する人々が、緻密に描かれた世界が、全くストレスなく脳に直接的に流れ込む事にただただ驚きました。
映像化された場面が勝手に頭に描かれる感覚は、マジかよ、と笑ってしまうほどです。
一話目を読み終える頃、私は【作品を読む】のではなく、この世界にあっという間に招致されていた錯覚に陥りました。
街の構造、規模、人口数、交通インフラから、屋台や市場の様子や、その世界の人々の暮らしといったマクロな観点から、ランプの中で立ち上る青白い光、登場人物たちの揺れ動く感情の機微といったミクロな観点まで、実に多彩な視点で余すところなく、精細に映像化され伝わってきます。
作中で眼に見えるそうした僅かな一片の裏には、膨大で精密に設計されたバックボーンの存在をありありと感じながらも、それを読み手に負荷をかけることなく伝えてくる表現力は、眼に見えざる作者がそっと手を引いて世界を案内してくれている気分になります。
主人公と専属メイドである二人が織り成す、テンポの良い会話と痛快で心地よい関係性は「この作品最大の見どころ」です。その内容は、笑いあり、涙ありですが、詳細は是非ご自身で読み進めて確かめて欲しいと願うばかりです。
本当に素晴らしい作品です。一人でも多く読まれることを願い、稚拙ながらレビューさせて頂きました。
登録:2021/12/27 01:33
更新:2021/12/27 01:52