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ジャンル:ファンタジー

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世界幸福保険営業員・立花アルマの輝かしい日々

いつまでも続く日々の途中、きっと最後に辿り着くであろう幸せな結末

 収拾のつけられなくなった物語に介入し、ハッピーエンドをもたらしてくれる不思議な存在、世界幸福保険営業員・立花アルマの活躍の物語。  メタを前提としたコメディ作品です。もうキャッチ・紹介文の時点でハートを撃ち抜かれたというか、ずるいぞ……こんなの面白くないわけないじゃない……。  ある意味では出オチ的な面もあるのですけれど、その初見のインパクトに負けない内容が素晴らしいです。こちらが期待した通りの面白みをしっかり提供してくれると同時に、最後にはそれ以上のものを叩きつけてくる。「それだー!」ってなりました。そうだよこれだけ人の話をハッピーに導いているんだから、彼女の物語自体がハッピーエンドでないと締まらない。  お話の筋としては最初一行の通りで、説明しようと思うと難しいのですけれど、でも内容(というか物語の構造)そのものは至って簡単です。いくつもの物語世界を渡り歩き、その内側から登場人物として干渉、半ば強引にでもハッピーエンドへと導く特殊なお仕事。その実例、というか作中で実際に二作ほど解決しているのですが、なるほど彼女に依頼するのも無理もない話で、それぞれの作中作(?)のめちゃくちゃっぷりがもう本当にすごい。笑える、というかもう涙が出そうなくらいで、気づけば自然と「頼むアルマさん、早く楽にしてあげて!」と祈っていました。いやすみません、だってこれ全然他人事じゃないから……。  いや半ば身を切るような痛みもありながらも、でもだからこそ本当に笑えるというか、生み出されてしまった鬼子を幸せな終わりへと導く、その主人公の活躍が本当に楽しい。というか、笑ってしまいます。あまりにも無責任に広げられた大風呂敷に対する(正直この風呂敷を思いつくだけでももうすごい)、彼女のツッコミ——というよりも、堪えきれず漏れ出る容赦のない悪態のような。「わかる」と「ごめん」と「たのむ」みたいな気持ちが湧いて、ついつい感情移入してしまいます。  以下はネタバレ、というほどバレでもないのですが、でもできれば未読の人には見てもらいたくない内容を含みます。  その上で、というか本当に大好きなのが最終話『休憩室にて・2』、すなわちこの作品自身の物語とその決着です。最後に叩きつけられる〝それ以上〟の部分。まさかここまで真っ当(失礼)かつ真っ直ぐなストーリーを喰らわされるとは、正直微塵も思っていませんでした。  なにしろ前提としてメタをかなり広く自由に使ってしまっているので、どうしても物語自体が〝なんでもあり〟になっちゃう部分がある。あるはずなのですけれど、でもその状態から主人公自身のドラマをゴリゴリやって、しかもハッピーエンドにできる手段があったなんて……(※キャッチの伏線回収)。  いや本当、この最後一話だけでそれをやって、しかもそれがものすごく自然なんです。納得できる。普通に沁みるものがあるうえに、散々『ハッピーエンド』をやってきたこのお話の、自身が迎えたハッピーエンドがこの形というのがたまらない。端的な状況そのものとしては明らかに『つづく』(=エンドではない)で、つまりふたりの道自体はまだまだ先があるのですけど、でもいつか辿り着く終着点だけが予告されていること。  幸せなゴールの予感、という形のハッピーエンド。最高でした。発想力と物量でこちらを魅了しながら、最後にはメタをきっちりストーリとして使い切ってみせる(ハッピーエンドをもたらす存在自身の迎えるハッピーエンド)、とても綺麗な物語でした。

5.0
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和田島イサキ

呪いの装備は外せません

どこからともなく鳴り響く例の不吉な音楽(トラウマ)

 魔王や勇者のいるファンタジー世界、旅の途中でうっかり呪われた剣を装備してしまった勇者の、その後の奮闘と苦悩のお話。  コメディです。舞台設定としては異世界ファンタジー、それもかなりテンプレート的というか、まるで古典的なゲームの中に転生したかのような世界設定。加えて完全に「攻略」と意識しての冒険、さらに主人公が先の展開を知っているようなふしさえあって、つまりタイトルは本当に「そういう意味」です。  ゲームでおなじみ呪いの武具。一度装備したら外すことができず、教会での解呪が必要になる。タイトル見た瞬間、誰もがうっすら想像したであろうその設定を、そのまま下敷きにしたドタバタ劇。言い換えるならある種の予定調和の世界で、そういう意味で本当に肩の力を抜いて読めます。余計な重さや冗長な説明がないため、軽いコメディとしての軸だけに集中できる。  お話の筋、というか全体の流れとしては、なぜか解くことのできない呪いに勇者が振り回されるというもの。つまりはスラップスティックなのですけれど、面白いのが当の呪いの剣当人。おどろおどろしいナリのわりには可愛いというか、なんとこいつ喋るんです。なんだか邪悪なような、ただふてぶてしいだけのような、この彼(?)のキャラクターが妙に可愛らしく、つまり掛け合いの面白味のようなものもある……というか、むしろそっちがメインです。  対話劇、というか、登場人物のキャラクター性に魅力のあるお話。それもこのふたり(勇者と呪いの剣)だけでなく、終盤に登場するもうひとりの人物なんかは、もうその設定(来歴)からしていろいろ脱力感があります。  誰も彼もなんだか憎めない人物ばかりで、そんな彼らがわちゃわちゃするのを眺めるお話。クスッときたりほんわかしたりと、その読みやすさ(というか受け止めやすさ)がとても心地いい。リラックスしてのんびり読める、ふんわり優しい手触りの小品でした。なんだか四コマみたいな空気感。勇者さんも好きだけど、やっぱり呪いの剣さんが一番好きです。

5.0
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和田島イサキ

小さな夜の夜想曲

歌が切り拓いていく幻想の風景

 不思議ななんらかの病、その『夜を吐く』という症状に悩まされる少女の、成長と冒険の物語。  鮮烈な感性で世界を切り取ったような、独特の設定が美しい現代ファンタジーです。例えば「童話」「お伽話」という語のイメージほどには柔らかくはないものの、でも幻想的で繊細な画(風景)の放つ魅力が素敵です。なにより好きなのはその一番の魅力をしっかり冒頭に持ってきているところで、おかげでいきなり心を鷲掴みにされました。早い段階でこちらを惹きつけにくる、そういう物語は間違いなくいい物語です。  冒頭、『夜を吐く少女』という、とても幻想的であると同時にインパクトの強い場面。この時点でもう最高というか、これが好きにならないはずがない……なにがすごいって絵面が完全に詩や絵本の世界なのに、『吐く』という行為そのものはまったくファンタジーのかけらもないんです。  胃や食道は焼かれるように荒れてヒリヒリと痛み、さらに事後には重い自責と自己嫌悪の念に苛まれる。実際、これは悪夢(正確には悪魔)から逃れるために自ら意図的に行なっていることで、しかも本来は医者に止められている(らしい)行為。とどのつまりはある種の自傷であると、その手触りというか立て付けが本当に生々しいのがすごい。  実のところ、この世界の現象や物理法則は確かにファンタジーなのですが、でもそれ以外(という言い方もおかしいのですけれど)の部分はかなり現実しているんです。主人公の抱えた苦しみや、これまでに負ってきた様々な傷。例えば単純に「吐けば苦しい」という現実もそうですし、他にも学校での苦労や家族との不和なんかは、本当にそのまま現代に生きるわたしたちとぴったり同じものなんです。この感覚、現実の部分はかなり現代のそれを色濃く残したままに、でも強めの非現実が同時に共存しているところ。独特なだけでなく実に不思議で、なんだか癖になるような心地よさがあります。  ストーリーはある種の王道に近い、素直で真っ直ぐな冒険と成長の物語です。過去を受け止め乗り越えるお話であり、また大事な人との巡り合いの物語。マーニさんの存在自体も好きなのですが、ふたりの関係性というか結びつきが好きです。ただ与える/与えられるだけでなく、与え合う関係のような。  最後に一点、この作品を語る上で絶対に外せない特色として、『歌』の美しさというのがあるのですが、でもこれはもう言及を諦めます。だって「本文を見て」以外に説明のしようがない……総じて、幻想的な画と歌声の美しさが際立つ、でもその一方で現実の皮膚感覚も保った、独特な手触りのファンタジーでした。柔らかく包み込むような不思議の感覚が好きです。

5.0
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和田島イサキ

ゴリ美

簡単には割り切らせてくれない各個人の中の清濁

 見た目がどう見てもゴリラな心優しい女性リミちゃんと、その彼氏であるともくんの、日々の生活と夢のお話。  現代ファンタジーです。いやファンタジーなのか? いや作品のジャンル分けをいくら考えたところで詮無いことではあるのですけれど(それで中身が変わるわけでなし)、でも本作の場合はそこに謎の厚みがあるというか、「意外とどの枠でもいけるのでは?」みたいな感覚が面白いです。  主人公とリミちゃんの恋模様を見守る恋愛ものであり、でも最初から恋人同士なのでいちゃいちゃしたラブコメ的な楽しさがあり、そしてゴリラ要素を除けばそのまま現代ドラマでもある(ある意味ショートショート的?)。さらにはそのゴリラという非日常要素も、ただ単に理屈が書かれていないからファンタジーなのであって、アプローチとしてはむしろSFのようにも感じられるところ。総じて『ゴリラ』という要素のネタっぽさとコミカルさの割には、ものすごく真面目で読みごたえのあるお話なのが凄かったです。謎の手堅さに正体不明の厚み。なんなのだこれは……?  きっとその気になればいろいろな読み方ができそうな作品ですが、個人的に好き、というかどうしても惹きつけられてしまうのは、彼らの織りなす人間ドラマの部分。もっというなら個々のキャラクターがそれぞれに抱える、功罪や清濁のようなある種の〝割り切れなさ〟のような部分です。  率直に言って登場人物全員、「悪い人ではない」んですよ。悪い人じゃないけど、でもどうしても受け入られないし擁護すらできないような部分がある。部長の無神経さとその結果のハラスメント、清野さんの他者を傷つける役にしか立たない正義と、主人公にも(自覚はしているものの)微妙に偏見と敵味方で物事を見てしまいがちなところがあって、平時は一番まともに見えるリミちゃんでさえ、ひとりで溜めるだけ溜め込んでは勝手に爆発するという最低最悪の悪癖がある。  赤の他人と思えば全員そこそこにクズ、可能ならあんまり関わり合いになりたくないタイプの人間のはずで、なのにここが本当に不思議なのですけれど、どうやっても嫌いになれないんです。彼らの欠点は結局すべて我が身に跳ね返ってくる(人が誰しも持つ普遍的な邪悪さであるため、結局は同族嫌悪でしかない)、というのもあるのですけれど。でもそれ以上に彼らの愛すべき部分、いえ尊敬できるところをしっかり書いていたりするのが、いやもう本当に意地が悪い!(※褒め言葉です)  この座りの悪さ。架空の物語でしかないはずなのに、善玉悪玉を簡単には割り切らせてくれないところ。つまり読んでいてこいつらを好きになればいいのか嫌いになればいいのか、まったく判断がつけられない。この絶妙な人物の描き方に滲む、もう中毒起こしそうなくらいに生々しい〝人間〟の手触り。  やられた、というかもう、あてられました。見た目の軽妙さに比べてかなり複雑、というか癖の強い珍味みたいなところがあるお話だと思いますけど、そのぶん食べ応えはとてつもなくあります。きっと他ではなかなか食べられない、というのも強み。簡単に割り切らせてくれないという点において、間違いなく読者を〝問い〟の解答席に引きずり上げてみせる、ゴリラ並の腕力を感じる作品でした。

5.0
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和田島イサキ

ハッピーエンドなエピローグ

その救済は誰が為のもの

 とあるアパートに暮らす幼い姉妹そとその母親、そしてその生活をただ見守るように漂う、曖昧な霊体である『私』のお話。  現代ファンタジー、より詳細には『超常要素を含む現代ドラマ』といった趣の作品です。とある一家を襲った抗いようのない不幸と、そこに起こった小さな奇跡を描いた物語。いろいろと素敵なところ、引きつけられたところはあるのですけれど、どうしても印象が強いのはやはり序盤から中盤にかけての展開、描かれる不幸の生々しい手触りです。煽り方の巧みさというか、グイグイ身に迫る感じ。  アパートにひとり、まだ幼い娘ふたりを抱えて生活する母親。収入を得るための仕事も家事育児もすべてひとりでこなさねばならず、娘の前では元気に振る舞うものの、しかし無理をしているのはもう言うまでもない——というのがこのお話の導入で、こうしてあらすじ的に要約しちゃうと全然わからないんですけど、この辺どん詰まり感が伝わりすぎてもう凄まじいことになっていました。  不幸や不運の書き方・積み重ね方はもとより、読者へと投げつけられるタイミングの適切さも。特に効いたのが第一話の最後の方、いよいよ明らかにされる(=ここまであからさまに伏せられていた)父親の事情で、ここでサラリと出される「すでに六ヶ月経過してる」ことの絶望感が本当に凶悪でした。これはしんどい……母親の心の折れる音がはっきり聞こえるかのようで、というか導入だけでこんなに効いていたらその先が大変というか、実際ズタボロにされました。こちら(読者)の感情の追い込み方がえげつない。  特に好きなのはその手触りというか、不幸のありようがリアルなこと。確かに悲劇的な状況ではあるのですけれど、でもこういう『つらい現実』はきっと、この世のあちこちに存在しているはずなんです。現実に、普通にありうる範囲の地獄。であればこそ我が身に置き換えやすいというか、転げ落ちていく様にどうしても『もし』を考えてしまうんです。  例えば「周囲に頼れる人がいれば」とか、「この子たちがもう少し大きければ」とか。あと一歩で踏みとどまれたかもしれない、その可能性が十分に想像できてしまうところ。絶妙でした。状況の組み上げ方のうまさもあるのでしょうけれど、おそらく『私』の存在も効いている、というか、この物語の内容を考えたらむしろそちらが主軸なのですけれど。  ただそこにあって状況を見つめているだけで、何も介入する力を持たない主人公。あと少しで守れたはずの何かが、めちゃくちゃに壊されていくのをただ黙って見ているしかないという、この構造というか何というか。もう本当に効きました。そしてこの溜めがあればこそ、後半の展開にのめり込める。いわゆる感情移入なのですけれど、でもよくよく考えてもみればこの『私』、わりと読者そのまんまでもあるんですよね。その場に存在しないし一切介入もできない、ただ見ているだけの曖昧な何か。それがその立場のままに物語に介入するというのは(ましてこちらからそれを望まされるというのは)、なかなかに面白い読書体験でした。  最後がハッピーエンドなのがよかったです。もっというなら終盤手前の時点で結構ハッピーで、そこからさらに積み重ねてくれる感じであることも。可能性としていろいろな結末を想定してみたとして、でもこの話ほどこの終わり方をしてくれて良かったと思えるものはない、とても心温まる物語でした。凄かったです!

5.0
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和田島イサキ

暴走トラックが突っ込んだ少年の顛末

〝少年〟、そして〝暴走トラック〟といえば……?

 まったくぴったりタイトル通り、とある少年に暴走トラックが突っ込む顛末のお話。  ショートショート、というか小ネタというか、一撃の切れ味鋭い小品です。ただ困ったことに感想をどう書けばいいのか難しいというか、いいところや好きなところに触れようとすると、どう頑張ってもネタバレは避けられない。加えて、絶対に予備知識なしで読んだほうが面白い作品だというのもあって、もし未読の状態でこの文章を読んでいる人がいたら、今すぐ作品本編に向かってください。  以下はネタバレになります。  タグにある「脱力系」、まさにこの語の通りの作品です。最後の最後、結末までたどり着いた瞬間のこの落差。一見腰砕けのオチのように見えて、でもこれが結構すごいというか、腰砕けなのに爽快感があるんです。いわゆる勧善懲悪、スカッと胸のすく心地よさ。仮にただの脱力系の小ネタで終わっていたとしたら、まず物足りなく感じていたであろうところ、でもこの要素のおかげでしっかり物語している(正しくは因果が逆というか、ちゃんと物語しているので心地よい)。  加えてもう一点、この大オチのとんでもないところは、実質最初から丸見えだったところです。ある種の出オチ。タイトルの時点で見えていたはずのものが、でも完璧に迷彩されていたと、そう気づいた瞬間のこの「やられた」感。お見事というか気持ちいいというか、最初に言った「切れ味鋭い」とは本当に文字通りの意味で、もうスッパーンと首を落とされたような気分。  というわけで最後のオチ、そのワンアイデアがとにかく強い作品なのですが、でもそこに至るまでのドラマが地味にいい仕事してます。うまい、というか堅実というか、普通にシリアスなサスペンス(?)をやっていて、普通にのめり込んでしまう。いやここでの強い緊張があってこそ、最後の「脱力」にカタルシスが生まれるのですけれど。総じて見た目ほど単純じゃない、というか読んでいるときの印象以上に仕事が細やかな、でもその辺一切気にせず読める見事な作品でした。上品な感じ。

5.0
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和田島イサキ

トビラのくにのアリス

少女の冒険はいつだってウサギの穴から始まる

 白ウサギに招かれ、突然訪れた『トビラの国』で、不思議な冒険に繰り出す『アリス』のお話。  ファンタジーです。転生もの、と言っては語弊しかないのですけれど、でもおそらくはごく普通の少女が、急に異世界へといざなわれるところから始まる物語。タイトルからも明らかな通り、『不思議の国のアリス』をモチーフとしているようで、白ウサギに帽子屋、ハートの女王など、登場人物も共通しています。  ふわふわと優しく、どこまでも柔らかい世界がとても魅力的でした。なんだか童話か児童書のような雰囲気。上記の通り本作は「冒険」の物語で、危険を顧みず問題解決に挑む展開もあるのですけれど、それでもなお優しく暖かな世界。負担になるようなネガティブなものが一切なくて、なんだか可愛らしい不思議生物たちがわちゃわちゃやっているような、そんな空気に癒されます。  冒険というか、そこに至るまでの展開も含めて、主人公の心境の変遷も素敵でした。序盤はまったく状況が理解できず、ただ目の前の出来事に流されるばかりで、しかもそれらに対してどうしても消極的だった主人公。森を探検する段ではまだ不安の方が大きかったのが、しかし終盤、状況を解決できるのが自分以外にいないと知ると、勇気を持って自らそれに挑もうとする。まさに冒険のお話であり、だからこそのその後の幸せなパーティ、そのハッピーエンド感が浮き立つかのようでした。  不思議の国のアリスになぞらえた世界での、ひとりの少女の小さな冒険。夢の中のような雰囲気を優しい手触りで描いた、ふわふわした心地よさの漂う物語でした。

5.0
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和田島イサキ

ハピエン厨の異世界転生者~テンプレチートで全世界をハピエン!~

全世界同時極楽往生RTA

 いかにもなゲーム調ファンタジーの世界に、いかにもな手段で異世界転生した人が、いかにもな感じでメキメキ実力を身につけていく、のだけれど……? というお話。  異世界ファンタジー、ではあるのですけど、でもそれ以上にというかなんというか、実はショートショートのような構造をした作品であるように思います。ある程度予定調和のようなものを前提とした形で始まり、きれいに捻って落とすところに面白味がある物語。つまりは上記の「のだけれど……?」の部分が肝で、ここにどれだけの意外性や諧謔味を持たせられるかがそのまま物語の面白みに直結していると思うのですけれど、まあ見事にやられました。まさかの。いや本当に凄まじいのがきました。  というわけでこの先はどうあがいてもネタバレになりますのでご容赦ください。  実はこれ見た目よりはるかに深いお話というか、まったく異なる二種類の教養を必要とする作品であるように思います。ひとつは『物語のテンプレートとしての異世界転生もの』の知識。そしてもうひとつはおそらく仏教の知識です。実はその、自分はこのどちらも中途半端にしか知らなかったりするので、作者がこの物語に仕掛けた面白味をどこまで受け取れているか、ちょっと自信がない部分もあるのですけれど(すみません)。とりあえずそれでも最低限、物語がとんでもない捻りを見せたのはわかりました。前編のラスト、突然の「世界を滅ぼす」宣言。  まだこの時点だと急に悪堕ちしたようにも見えるのですが、さにあらず。幕間を読み終えると理解できるのですけれど、どうやら最初からそのつもりだったらしいということ。ここの機序というか動機というか、彼の考え方を形作るきっかけみたいなのが面白いです。  たぶんこの救済というのは弥勒菩薩(あるいはそれをモデルにした何か。神だし)のことだと思うのですが、まさかタイトルの「ハピエン」がそこにつながっていくの!? という衝撃。なるほどいくらハッピーエンドが約束されていると言っても、それが六十億年後じゃ遅すぎるわけで、結果生まれたのが〝ハピエン厨〟であるところのこの主人公。死を救済としているのはもうこの際仕方ないとして、六十億年というのがしっかり効いたか、こだわりがその達成スピードにあるところ。おかげで彼が転生するたびに繰り返される、世界滅亡RTA。なんてこった。これ実質魔王よりよっぽどヤバいブツがあちこちの世界をハシゴしまくっているのでは? お願い弥勒パイセン早く来て!  強烈でした。特に結び付近、彼のめっちゃ満足げな様子とかもう大変なことになっています。この落差と、そこに漂う皮肉な感じ。ブラックな結末が綺麗にショートショートしているというか、鋭く効いているお話でした。いつか彼に転生から解脱できる日の訪れんことを。

5.0
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和田島イサキ

穴のあるその町で

ショートショート風の世界に、でもしっとりとした日々の生活の手触り

 巨大な蛆虫が這い出てくる謎の大穴のある町、平凡な日々を過ごすひとりの男性が、ちょっと不思議な来訪者に遭遇するお話。  現代ファンタジー、というか、どこかショートショートのような味わいの掌編です。自分が暮らす街の真ん中に、なんかぽっかり開いた不思議な穴。中からはでっかい蛆虫みたいな生き物が湧いて出て、でもそれを餌にする(っぽい)巨大な鳥もいるのでとりあえず生活に支障はない、という、この鮮烈でありながらも不思議な舞台設定。この『穴』についてもそうなのですけれど、他にも作中の登場人物として『神様』(あくまで自称ではあるものの)が出てきたりもして、この辺りの道具立てがとてもショートショートらしいと感じました。  ただ、お話そのものはどうもショートショートっぽくないというか、それにしては妙に生々しい手触りがあって、その感覚が非常に面白い。主人公個人の実感というか、現実味、と言ってはおかしいのですけれど、でも彼の人生のドラマを追っているような手触りの文章。  出てくる神様も同様というか、『超常的な力で願いを叶えにきた(らしい)』という点においてはいかにも『神様らしい役柄』であると言えるのに、でも個人としてのキャラクターがしっかり立っている。彼らの掛け合いにはときにコメディのような軽妙ささえあったりして、なかなかに独特の味わいを感じました。なんだか『道具立て』の部分が放置プレイされているような、でも強烈なインパクトの後味だけはしっかり残っているような感じ。  急に趣味の話をしますけど神様が好きです。彼のキャラクターあるいは性格や性分。実は勝手に少年のつもりで読んでいたのですけれど(一人称が『僕』なので)、よくよく見直してみると性別がわからないんですよねこの子。いや神様ですからそもそも性別なんかないのかもしれませんけれど、とにかく小悪魔っぽいところが単純にストライクでした。いや神なのに悪魔呼ばわりも失礼かもですけれど。  以下は結末について触れるのでたぶんネタバレになります。  結末が良いです。物語の帰着点、その「え、そういう話だったっけ?」みたいなぶっちぎり感。まさかそこに落とすとは! なんだか裏切られたような衝撃すらあるのに、なぜか満足感しかないという……なんでしょうかこの気持ち。見事に幸せに終わっていて、どこか腑に落ちないような気がするのに、でも全然悔いがない。というか、実質望んでいた部分でもある。なんとも不思議なラストでした。  総じて、ちょっとグロテスクな雰囲気の圧が不思議な、でもキャラクターの魅力的な物語でした。やっぱり神様が好きです。あと「美秘書」というのも。

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和田島イサキ

ヨキの火

祈りと祝福、あとすっごい頼もしいイケメンの物語

 火の神の祀られる辺境の街、大聖堂に暮らす孤児の少女のお話。  異世界ファンタジーです。特筆すべきはやはり設定面というか、文化や因習に地理歴史宗教などなど、広範に渡りながらも仔細に掘り下げられた世界そのものが大変魅力的でした。安定感というか安心感というか、緻密な設定が物語全体を下支えする感じ。  特に好きなのはその手の広げ方と的の絞り方で、広い世界全体の存在を感じさせるのに、あくまで直接の舞台となる街(および大聖堂)を中心に描かれている点。火の神に対して隣の平原に雷神〝も〟いることや、帝国の存在があくまで平原や入り江の向こうのものであることなど。主客の感覚をしっかり定めた上で、詳細ではあっても饒舌になりすぎない程度に描写される〝モノ〟たち。この辺りの積み重ねかたが非常に自然で、世界のありように想いを馳せること自体に面白味がありました。主人公には手の届かないところにも、世界が地続きで存在している実感。その広さが感じられるからこそ、逆に主人公の住む世界の狭さが読み取れる、というような。  その上で語られる物語の優しさというか、王道にも似た手堅さのようなものが好きです。筋そのものはものすごくシンプルで、お伽話……という語ではちょっと柔らかすぎるのですけれど、でもある種の神話のような趣があります。祈りと祝福のお話、あるいは人と神との間に交わされる約束(契約)の物語。  以下はネタバレを含みます。  ヨキさんが最高でした。すみません急に頭の悪い感想で申し訳ないんですけど、でもヨキさんが最高の男してるのが悪いので知りません。めちゃめちゃ強くて頼りになる美形の男。いやそれ自体はともかく(こうまとめちゃうとただの設定でしかないので)、その姿や振る舞いからひしひし魅力が伝わってくるところ。なんでしょう、読んでて「ああ〜これは良いものだ……」ってじわじわ惹かれていくというか、なんか「この人なら全部任せても大丈夫!」みたいな安心感があるんですよね。  本当になんだろう? ちょっとこの魅力がどこからくるのか説明できそうになくて、おかげで「強くて美形の男は最高だぜ!」みたいな急に知能の下がった感想になっちゃうんですけど、たぶんどこかにあるはずです。コツコツ積み上げてきた設定の溜めが効いているのか、それとも主人公のフィフラさんの描かれ方がうまいのか(彼女に感情移入した立場から見ているからこその火力というのはあるはず)。いずれにせよヨキさんが最高でした。ずるいよこれは……。  個人的に強く惹きつけられたのが、最終話、視点が変わってヨキの側からの独白。ここの情報量が好きです。いろいろ解釈の余地が増えるというか、その気になればある種の残酷さのような、なにか人と神との違いのようなものまで読み取れる。総じて、優しく幸せなお話、神による救いの物語でありながら、人ならざるものの強さを描いた神話でもありました。ヨキさん好き!

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和田島イサキ

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小説家になろうファンタジー短編完結

魔法少女になるからわたしと契約してよ

法律ヤクザな魔法少女

オチにニヤッとするが、私もこんな魔法少女はイヤだ。 短編小説に定評のある燦々SUN氏の作品で、安定した文章と構成は安心して読める。 「わたし、魔法少女コントラクターまりん! 父は弁護士母は詐欺師。愛読書は六法全書! 今日も、無法地帯出身の蛮族達に契約の恐ろしさを教えちゃうゾ☆」(本文より引用)

小説家になろうファンタジー連載:53話

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ファンタジー×現代×配信で希望を見出すお話!

ネタ全振りのタイトルから想像のできない王道と熱さと恋のお話。あと13万文字とかなり見やすい。 なんやかんや王国から無実の罪で不毛の地へ旅へ出された勇者的な聖女が、不思議な鏡を見つけたら現代(コロナ下)の料理屋に繋がって……? さらに想われるほど強くなる能力は現代の配信稼業とぴったりで……? 鏡を挟んだ現代×ファンタジー異世界交流に、きっと希望が見つかるはず。 あとタイトルから想像つくことはだいたい回収してくれます。

小説家になろう恋愛連載:119話完結

美醜あべこべ世界で異形の王子と結婚したい!

男性のみ美醜逆転の異世界に美少女イケメンハンター出陣します!

前世で喪女だった後悔からイケメンにガツガツの肉食系女子となった美少女主人公。前世含めて一目ぼれした異形と言われるほどの美少年(前世観)にアプローチをしてさっさと婚約者候補に収まり、誰も寄せ付けないいちゃらぶカップルになります。 外面もよく美少年に目がないですが、自分主観で醜いからと嫌うことはありません。恋愛対象ではなくてもちゃんと人として接する、人として優しい女の子だからこそ素直にその恋路を応援することができます。美少年と付き合うためにしていた善人の外面がよすぎてまわりからは誤解されてもいますが、そこも美醜逆転独特の笑いポイントとして楽しめます。 義理の弟を可愛がったり、不遇なイケメンも多数出てきて、乙女げー系小説っぽい世界観な感じですのでさくさく読めて最後まで一気に楽しめます。 ヒーローにも秘密がありちゃんと後々秘密を打ち明け合って、主人公が面食いなのも全部わかってもらって思いあうラブラブ小説です。 最後までぶっとんだ美醜観によるドタバタギャグが楽しいですし、完結済みなので一気に最後まで楽しめます。 世界観も楽しくもたくさんのキャラクターもそれぞれ個性がありいい人が多く、美醜逆転好きだけではなく乙女ゲー系の愛され主人公恋愛物が好きな人にもおすすめです。