無一文の少女は金属バット片手にハードな世界を生きていく。
ダンジョンが発生した現代を舞台にしたダークファンタジー作品です。
全体的に明暗のメリハリが程よい雰囲気で、主人公が手に入れた『力』に慢心することなく、地に足をつけて少しずつ強く成長していきます。
ふとしたときに挟み込まれる小ネタは分かると面白いですし、日常シーンと戦闘シーンの切り替えがいい塩梅だと思います。
生死ギリギリの戦いをすることもあり、緩急のついたストーリー展開だと感じました。
また『ステータスがいくら向上しようとも、経験が伴わなければ強いとは言えない』と、そんなことを思う展開の戦いもありました。
これは強くなって少しは楽な人生になるかと思ったのに、よりハードな道を歩むことになった少女の成長物語です。
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現在200話(約49万字)を超えており、主人公を取り巻く環境に急速な変化が起こり始めました。
これからどうなっていくのかとても楽しみにしている作品です。
恋愛展開をする予定はないらしいので『女主人公』が苦手な方にもオススメしたいです。
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▼世界観
ダンジョンの設定や主人公の能力も含めて、物語のバランスが上手く調整されています。
序盤は軽やかに物語が進み、タグにある『ダーク』なところはあまり感じません。
しかし話が進むうちに暗く不穏なものが徐々に顔をのぞかせます。
なぜ、どうして、どうするのか。
読者としては少しずつ違和感を覚えるように、いろいろな疑問や気になることが増えていきました。
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▼戦闘面
探索者の上位レベルは現段階で『数十万』という驚きの数字が確認されています。
そのため、主人公に多少の反則じみた能力(驚きの経験値アップ倍率)があったとしても、上にはより強い存在がいるのでそう簡単に最強にはならず、無双もしないと分かります。
また彼女が手に入れた『力』には、はっきりとしたメリット・デメリットが描写されています。
強大な『力』は、それに伴う『器』がなければ『諸刃の剣』でしかありません。
下手をすれば自らの力で致命傷を負うことも予想できます。
彼女は身をもってそれを理解し、手に入れた力のさじ加減を覚えながら鍛錬して探索者稼業をこなしていきます。
もちろん時として危険なことに足を突っ込んでしまうこともありますが、彼女の性格を知っていくとそれは納得できる場面だと感じました。
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▼登場人物
基本的に主人公のフォリアの視点で進められるこの物語。
彼女はおバカかわいい少女で見ていて飽きません。
ちょっとした数字には強いものの、少し国語力が弱い。
たまに妙な覚え間違いをした『言葉』を口にすることがあり、食欲に従順なところと合わせてチャーミングです。
私はフォリアの学力に関して「私、勉強苦手なんだよね。と言いながらテストで高得点をとる子」みたいな感覚で見ています。
また対人関係にややトラウマを持ちながらも、少しずつ他者と良い関係を築いていく様子は微笑ましいです。
フォリアの性格面は良いところも悪いところも程よく描写されており、親しみやすい人間味がありました。
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主要な登場人物たちは、多少のクセはあるものの優しく魅力のある人々ばかりです。
当たり前にフォリアを心配することはあっても、無闇にチヤホヤすることはありません。
一人の少女として、一端の冒険者として、比較せず扱ってくれるのが好印象でした。
悪人があまり出てこないことも、個人的には気になりませんでした。
これはもしかするとこういう理由かな、と考えてしまう描写があったからです。
すでに個人的な悪人認定をしているヤツもいるので、この先どんなふうに関わってくるのかワクワクしています。
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▼気になるところ
個人的には登場人物の名前が覚えづらかったです。
フォリア視点で人物像を描写されますが、彼女は『他人に関心が薄い』ので、本名がなかなか出てきません。
長らくあだ名で語られるため、初期から出ている人物でも「名前は何だったかな……」と、少し悩むことがありました。
ただ名前付きの登場人物はそれほど多くないので、一気読みするときには気にならないかもしれません。
また一人称で語られますが、フォリアの語彙力でその難しい表現を使うのか、と少し違和感を覚えることもあります。
しかし彼女は日々成長しているので、深刻な状況で用いられる難しい表現でもこれはこれでアリかなと思っています。