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カクヨムその他短編完結

真・擬・態

 いろいろ行き詰まったり後悔したりと、なんだか大変な毎日を過ごす人の独白。  いや独白というよりはほとんど愚痴というか、もっと直接的な何かです。メタというのか、文章を書いている主体が直接読み手に問いかけてくるようなところがあって(紹介文からも明らかですけど)、つまりなかなか風変わりな形式の作品ではないかと思います。捻っているというか搦手っぽいというか。  内容はもう、だいぶどろっとしてます。ひたすら後ろ向きでただただ鬱々としていて、読んでいてじわじわ胃に来る威力があるのに、書きっぷりがいいおかげでぐいぐい読まされてしまう。おかげさまでだいぶダメージが来たというか、ギブアップさせてくれないという意味ではとても意地悪な作品だと思います。  瓶がゆらゆらと確かに流れていったところが好きです。そこまでの文章は言ってみれば回想、これまでの来し方を振り返ったものに過ぎなくて、だからようやく時制が今に辿り着いた上での、要はやっと前に進んだ最初の一歩。といっても主人公の踏み出した歩みではなく、また勝手に流れて視界から消えただけなんですけど、それでも。どぶのくせにずいぶんスムーズに流れていくところも好きです。やるじゃんどぶ。  読みやすく、また節回しの美しい文章が光る作品でした。

5.0
  • 作品更新日:2020/7/25
  • 投稿日:2021/11/4
カクヨムファンタジー短編完結

お前らは鬼龍院じゃない

 見知らぬ他人になりすます行為を趣味とする主人公が、たまたまカフェで見つけた鬼龍院さんになりすました結果、鬼龍院さんが三人になってしまったお話。  面白かったです。本当に前の一行にまとめた通りの導入で、この時点でもうこんなの面白くないわけがないという予感でいっぱいだったのですが、その通り開幕から終幕まできっちり面白い作品でした。すごい。勢いっていうか流れるような本文の流麗さ、その醸す魔力がすんごい。気づけばすっかり幻惑されていて、一万字が一瞬の如しでした。魔法かな?  好きなところやいいところはそれこそ数え切れないくらいあるのですが、とりあえず冒頭がすごいです。内容的にはどう考えても布石、直接本筋そのものではない要は話の枕そのものなんですが、にもかかわらずものすごく惹きつける力がある。文章が走っているのもあるのですけれど、でも興味の誘導の仕方というか、読み手に「はてなんの話だろう?」と思わせる自然な話の組み立てがすごい。きっちり「主人公の趣味はなりすましである」というところに繋がるその流れというか。いや話の枕ってそのためのものでしょと言われたらそりゃそうなんですけど、この話ってその直後に鬼龍院さんが三人になるんですよ。そんなロケットエンジンみたいな話を書いているのにこの自然な助走から入って、しかも十分加速がついてるって、並大抵のことではない気がするんです。  あとはまあ、もう言うまでもないというかどうせ実際読んだ時点で嫌でもわかるんですが、文章の技巧。文体というか語り口というか、主人公の内面にぴったり寄り添った口語体の、きっちり一万文字ノーカットの長回し。一切つっかえるところがなく、スムーズかつハイペースに流れながらも(これだけでもう相当気持ちいい)、しっかり起承転結してくれる物語。なにより惚れ惚れするのが周囲の異常な状況に対する主人公の指摘、いわゆるツッコミ的な言葉や独白に、一切の余計な力みがないところ。どこまでも自然で、本当に作者の意図した通りに笑わされているとわかる、この作品にすべてを委ねる感覚の心地よさ!  最高でした。明るくテンポのいいコメディで、肩の力を抜いて楽しめます。とても面白い作品でした。

5.0
  • 作品更新日:2020/7/25
  • 投稿日:2021/11/4
カクヨム歴史・時代連載:6話完結

二人の医師

 16世紀と紀元前3、4世紀ごろの、それぞれ別のふたりのお医者さんの、少し似た内容の裁判のお話。  不勉強なものでわかりませんがおそらくは史実、例えば最終話『その後』に書かれた内容はどこかで小耳に挟んだ記憶があって、したがって主軸のふたりについてもそうではないかと思ったのですが、まあ仮に史実でなかったとしても「こういうの絶対あったよね」と思わせる時点でもう事実上の事実(ひどい表現)で、それだけに本当やりきれないお話です。  こういう過去は確かに存在して、それもそう簡単になにがいけない・誰が悪いと割り切れないあたりが実にしんどい。特に第五話「アグノディス医師 裁判(後)」でのアグノディスの強い覚悟のこもった台詞からの、最終話「その後」のあまりにもあんまりな現実。なんかもう「あ゛ぁ゛〜……」ってなりますね。人類は愚かだ……(突然の自意識の肥大化)。  いやふざけているみたいですけどむしろここが感想の肝というか、なによりやりきれないのはこの暴走する自意識、作中のあれやこれやにぶりばり腹立ててる自分そのものだと思うのです。それもよくよく考えたらその場その場でわかりやすい方について怒り散らしてるだけで、つまりほとんどワイドショーとかネットの炎上見て怒ってる人状態。実際、内容についてまともに言及するにはあまりに知識が足りなすぎて、なのに自分は『正しい』をやりたいし他人の振りかざす『正しい』は妨害したいという、昨今の人類にありがちな欲求をゴリゴリ煽られるこの感じ。うぅ、いやじゃ……わしはモンスターになんぞなりとうない……。  いやここで「知識が足りないから」とか言ってないで、頭が足りないなりに少しでも考えられるかどうかがいろんなものの分かれ目だと思うのですけれど(でないとあまりに浮かばれない)。それはそれとして、歴史や史実というものの強みを最大限に引き出した、読み手の感情を煽るのが巧みな作品でした。淡々としているようですごいエネルギー。完全にもっていかれました。

5.0
  • 作品更新日:2020/7/25
  • 投稿日:2021/11/4
カクヨムその他短編完結

本当に付き合っちゃおうか

 絵に描いたようなお嬢様学校に編入してきた主人公と、そこで高嶺の花やってる『菫の君』とが偽装恋人として過ごす日常のお話。  百合です。それも教科書に載っていそうな清く正しく甘い正統派百合。約3,000文字という非常にコンパクトな分量の中で、きっちり人物と環境とその文化と空気感とそれぞれの間に漂う微妙な機微のようなものを過不足なく書いて、その上で最後のとどめの一行をビシッと〝書かずに〟締めるという、技巧だけで精巧に組み上げられた飴細工のような作品でした。原材料が完全に砂糖のみなのにどうしてこんなに味わいに奥深さがあるの、みたいな。  なにがすごいってやっぱり最後の一撃(しかも致死性の空砲)なんですけど、普通に「書かれなかった一文」が結びの役割を果たすってだけでも十分技巧派なのに、それがタイトルの時点で思いっきりネタバレしてるというのはさすがに異常事態にも程があると思います。冒頭読んだ時点でこの終わり方するってほぼ百%予想できてしまうのに、そしてまんまとその通りになっているのに、この満足感はいったいどういうこと? 世の中には不思議な魔法を使う人がいるなあと思いました。いや本当に魔法ですよこれ。いわゆる「わかっているのに躱せない」タイプのオチってありますけど、これはもはやそんな次元ではない……(亜種というか、その一種ではあるにせよ)。  総じてテクニカルなものを多分に感じる、さりげない小憎さのようなものが嬉しい作品なわけですが、でもそういうの全然意識しなくても普通に甘いお話だと思いますので、肩の力を抜いてゆったり読むとよいと思います。個人的にはふたりのやり取りの、信頼感のある聡さ賢さの中に、ちらちら顔を出す初々しさやたどたどしさのようなものに悶えさせられました。ただ強いばかりでなくただ不器用なわけでもないこの絶妙なさじ加減な! 好き!

5.0
  • 作品更新日:2020/7/25
  • 投稿日:2021/11/4
カクヨム恋愛短編完結

【恋を知らない『わたし』と愚かで愛しい人間たち】

 人のふりをして巷間に紛れる『同期体』という生き物と、その観察したとあるひと組の男女のお話。  あるいは、男女それぞれ二名ずつの仲良し四人組の青春群像劇。ただそのうちの男女各一名ずつが『同期体』で、お互いに意識を共有する関係——というか実質『わたし』というひとつの意思の支配下にあるいわば端末みたいなもので、つまり個々の肉体を超越したところに個体としての自我があるため、世に言う『恋』を知ることがない、と、いまいち上手く要約できませんがだいたいそのような物語です。  お話はすべてこの『同期体』=『わたし』の視点を通じて描かれていて、つまりは四人組のうちの残り二名に関わりながらその様子を観察するような形でお話は進んでいくのですが、この『わたし』の独白というか思考というか、考えの変遷していく様がとても魅力的です。  この同期体さん、要はSFやファンタジー的なすごい生き物というか、少なくとも個体としての人間よりは優秀で、なおかつそれを自覚しながら人の世に紛れる立場にあるのですが。そのおかげかどこか神の視座にも似た冷徹な話しぶりの、その確かな説得力とはまるで裏腹のこの情操の芽生え。いや裏腹というのもおかしいのですけど、でも大雑把な言い方ではある種のギャップのような、もう少し丁寧に言うなら『人とは全く違う種の中に生まれた人らしい感情』であるからこその美しさというか、とにかくくっきりと浮き彫りにされた何かの、その厚みのようなものを感じました。  いや実際、序盤なんかはゾッとするところもあるというか、おそらくは人類と敵対的な関係にあるはずの存在なんですよ。人知れず人の世に紛れる異種の生命体。本来相入れないはずの存在が、でもまっすぐな青春の風景を通じて、我々と同じ何かを共有してしまう光景。どこか危うさのようなものを孕みながらも、それでもこの結末と同じ風景が続くことを信じさせてくれる、優しくも力強い作品でした。

5.0
  • 作品更新日:2020/7/25
  • 投稿日:2021/11/4
カクヨム歴史・時代連載:2話完結

ミズチの嫁入り

 蛇の神様に生贄を差し出すことで成り立っている村の、とある若い新婚夫婦のお話。  いろいろしんどいお話です。全体を通じて重苦しいというかやるせないというか、そこかしこに形のない悪意のようなものが漂っているような感覚。いや誰も悪くないっちゃ悪くないんですけど、でも見ようによっては全員が全員それなりにふんわり嫌というか、もう「いやわかるけどさあ、でもさあ」みたいなところが少なからずあったりもして(ミツだけはそうでもないかも)、つまりどこにも肩入れしようのないなんだか宙ぶらりんの居心地の悪さを感じつつ読み進めた先、容赦なく襲い来るただただ強い結末。「いや嘘でしょちょっと」と「まあうっすらそんな気はしてたけど!」の中間のような、あるいはそのどちらも微妙にニュアンスが違うような、ただただ情操をガチャガチャに引っ掻き回されたかのような感覚。  やられました。なにがどう、と言われると非常に言葉に困るのですが、でもなんだか心を焼け野原にされたかのようなこの読後感。謎の納得感みたいなものまであったりして、とにかくエネルギーの濃度の高いお話でした。いや本当になにがどういう形で刺さっているんだろう……膝に来る一発をもらったのは間違いないのですが、でも見えないところからのパンチだったのでなにも言えないというか、ただ「すごいよ! 読めばわかる!」くらいのことしか言えないのが情けないです。  なんというか、いろいろ理不尽というか本当にどうにもならない感じの展開なのですが、でも現実って往々にしてこんな感じだったりするのがまた切ないです。ついついあれこれと理由を探してしまいたくなる、無常感溢れる作品でした。

5.0
  • 作品更新日:2020/7/25
  • 投稿日:2021/11/4
カクヨムホラー短編完結

カッコーの巣を食らえ

 壮絶ないじめに遭っていた幼馴染みの女の子を見捨ててしまった少年が、勇気を振り絞って己の過ちを取り返すお話。  オカルトもののホラーです。まつろわぬ〝あちら側〟の存在が出てきて、いろいろ人の世に仇なすそれを、どうにかしようと普通の人が頑張るお話。ただなにより印象深いのはそのハードコアさというか、彼らに立ちはだかる苦難のあまりの壮絶さです。  もちろん怪異の存在そのものやその引き起こす惨禍については言うまでもなく、それらに限らない日常の部分さえも、っていうかだってもう冒頭の意味段落からして「いじめに対する復讐のシーン」なんですからまったく容赦がないです。開始早々顔を切りつけられてのたうつ女生徒を、『床の上で虫みたいに手足を暴れさせている』とさらっと虫けらに例えてしまう、この文章の毛羽立つような重たい黒さ。総じてどこか暴力的というか、漂う不吉さや不気味さにいつも危険な雰囲気の伴う、この火力の高い恐怖感がたまらないお話でした。  普通の少年ひとりに負わせるにはあまりに強すぎる苦難、どう見ても玄人向けの難度設定を、でも臆することなく前へ前へと進んでいく主人公。その動機すら過去の過ちに対する贖罪だったりするので本当に筋金入りです。怪異の不気味さや恐怖感ももちろんあるのですが、それ以上に『そこに立ち向かう主人公』の姿が強く胸を打つ、ひとりの少年の青春と冒険の物語でした。

5.0
  • 作品更新日:2020/7/25
  • 投稿日:2021/11/4
カクヨムファンタジー連載:5話完結

炎の美女と湖の獣

おとぎ話風のお話。交流すると消滅してしまうふたつの国と、その住人たちの物語。 なんというか、技巧がすごいです。どの要素をとっても「なにこれすっごいうまい……」となってしまう。 先を気にさせる話運び、余計なものがなく読みやすい文章、情景を鮮やかに想起させる描写に、しっかり起承転結している物語。 スルスル読めてしまって逆にすごさに気づけないタイプです。すごい。すごいのはわかるのに、今このレビューに何を書くべきかわからない。書きたい気持ちだけか空回りして、とにかくすごさに打ちのめされた感覚。 物語そのものもよかったです。この話の筋に対するイファとアダンの役どころというか、彼らがこの物語の真にしっかり存在しているところと、そしてその動きというか振る舞いが本当に好き。 そして結末、ある種悲劇的な展開でありながらも、でも確かに「めでたしめでたし」であるところも。とても素敵な物語でした。

5.0
  • 作品更新日:2020/1/26
  • 投稿日:2021/10/5
カクヨムその他短編完結

空蝉

 アリの巣にサイダー流し込んだりセミの死体蹴ったりする少年と過ごした夏のお話。  面白かった、というかとてもよかったのですけれど、何がどう、と言われるとなかなか言葉にできません。なんで面白いんだろう? 正直、まったくレビューになってないのですが、なんだかいてもたってもいられないので書きました。  説明文に「こむら川2作目」とある通り、競作の企画に出すために書き下ろされた作品で、その企画の共通のお題として『擬態』というテーマがありました(したがって、この作品も『擬態』というテーマを意識して書かれた作品ということになります)。そのお題に対してものすごく誠実に書かれた回答というか、『擬態』という要素をこれ以上ないほど綺麗に消化した作品だと思いました。  実は個人的な読み方の姿勢として、こういう事前に指定されたテーマ等はあえてあまり意識しないようにして読む方なのですが、それでも無理矢理振り向かされたような感じです。ここまでされるとさすがに、的な。  あと文章が好きです。冒頭の一文からもう「うまい……」ってなりました。なんでこんなにいいのかわからなくて、なんだか「畜生、魅力を感じてなどやるものか」と無意味に抵抗しながら読んだりしました(すみません)。いやだって、本当にいいのになんでかわかんない……話の内容に至ってはもう何をどう言えば? 刺さった、というかなんか胸の真ん中を裏側から硬い棒かなんかでグリグリ押されたみたいになりました。  最終盤の「川から引き上げられた彼の」から始まる段がクライマックスで、ここのぐわんとせり上がってくる感じがやっぱり一番好きなのですが、さらにそのあとの結びまでの処理、シュッとしめやかに締めるのではなくて『擬態』でもう一発かまして拓けてくるところがとても気持ち良かったです。もうレビューというよりはただの感想でした。

5.0
  • 作品更新日:2020/7/21
  • 投稿日:2021/11/4
カクヨムその他短編完結

私は壁になりたい

 進路希望調査票に「壁」と書いてきた女子生徒との、一対一の進路相談に挑む女教師のお話。  テンポよく切れ味のあるコメディです。場面固定かつ一対一の掛け合いという形式で、特に語り口の起伏や言い回しの妙で引っ張っていく内容となっており、つまりはショートコントのような軽妙な掛け合いの妙味を、小説という形式の上に再現しているところが魅力的です。  普通にコメディとして楽しく読んでいたのですが、でもこれ真面目に読むと実はものすごい勢いで詰んでいるのでは、というところもなんだか愉快でした。真摯に生徒のことを思ういい教師ではあるのだけれど、でも生徒自身の自主性を尊重しすぎた結果明らかに悲劇を助長している先生。そして想像以上にどうしようもなかった『壁』の正体。一切の遠慮なく一方的に垂れ流される欲望のおぞましさに、自身に向けられた暴力性すら跳ね除けようとしない先生の健気さ(あるいはヘタレっぷり)。読み終える頃にはなんだかDVによる共依存にも似た関係性が成立しつつあるようにすら読めて、いやもしかしてこの人らある意味相性ぴったりなのではと、そうごまかしてはみたものの結構身につまされる部分もありました。人の振り見てなんとやら。  単純に個々の掛け合いそのものも面白いのですけど、でもこうして見ると「いやいや結構な惨事ですけど?」と、そんな状況をでもサラリと飲み込んでしまえる彼女らのタフさにも笑えてしまう、つまりはしっかりキャラクターの魅力をも見せてくれる素敵な作品でした。

5.0
  • 作品更新日:2020/7/25
  • 投稿日:2021/11/4