遺形の承継者
旅の途中、賊に捕らわれてしまった謎の少年ヴィーと、そこで出会った孤児のディル。ヴィーはディルが一人で生きていけるようになるまで手助けすることを持ち掛け行動を共にすることになるが、実はディルはもっと大きな別の権力に命を狙われていた。 「約束を、絶対に忘れないで」 その言葉を胸に、分かれた二人の運命は――? しっかりとした落ち着いた雰囲気ながら、丁寧な表現でどっぷりと世界に入り込める文章です。物騒な展開でも会話のテンポの良さなのか暗くなりすぎず、ぐいぐいと読み進められます。 登場人物たちもみんな魅力的!主役の二人もさることながら、脇役のオジサマたちがみんな良い味を出していてお気に入りです。 1章あたりがじっくりと描かれているため腰を据えて読める方向けかも。でもその分読み応えはたっぷり。 絶妙に謎を残しながら進む物語。その塩梅が見事で続きが気になって仕方がないですが、序盤の謎は明らかになったところです。読むなら今がおすすめ!
- 作品更新日:2024/4/20
- 投稿日:2021/7/10
眩惑の瞳 〜美味しいごはんと彼女の好意の因果関係〜
あ ま ー い ! ! ! この作品を一言で言い表すとすればこれに尽きます。 相手を魅了し操ることのできる瞳をもつ男性が、その瞳に惑わされない少女に一目惚れ。美味しいものを食べさせながら溺愛するという、異世界恋愛ファンタジー&飯テロ小説となっております。 これでもかというくらいの彼女へのべた惚れっぷりのドキドキ感も然ることながら、毎話登場するごはんやおやつがすっごく美味しそうで! 異世界ですが登場するのは実在する食べ物ばかり。思い出してお腹が空いちゃったり、知らないものなら今すぐ味わってみたくなっちゃう。 前半は文句なしの溺愛ターン、後半は少女の生い立ちが絡み少しだけ不穏な展開も。 とはいえ大きな事件が起きたりするわけではないので、激甘な日常系飯テロファンタジー(?)をお好みの方も安心してご一読くださいませ!
- 作品更新日:2024/1/1
- 投稿日:2024/1/3
世界の線引き
対称的な性格のふたりの人間の、相手への関わり方の物語。 「自分はどちらかというとこっち寄り」という目線に立ちつつ、そのうえで相手の考え方にも寄り添って読めるのではないかと思います。 『雨』や『仔猫』など、さまざまなキーワードが効果的に使われていて、ラストまで読み切ったときにピタッとはまった心地よさもありました。 誰もが考えることがあるであろう他者との『線引き』 濃くて長い線を引きがちで、だけどそんな自分にもやもやを感じてもいる人は、少しだけすっきりできるかも?
- 作品更新日:2021/7/26
- 投稿日:2022/2/27
奥多摩の森にはエルフが生息している
生きることに疲れ、衝動的に、とりあえず向かった奥多摩。 その森の中で出会ったエルフっぽい存在たちとの不思議な交流?と、ある理由で彼らと一緒にいた一人の日本人青年とのお話です。 冒頭の、疲れきった状態でふらふらと迷う姿と、美しい森の中でまだ生きたいんだと感じてしまうアンバランスな状態が印象的。 英語はわからないけれど日本語は通じていて、でも少し微妙なニュアンスで使われる言葉に日本語のおもしろさも感じます。 絶望から始まり、少しだけ光を見出していく物語。所々、考えさせられる内容でもあり。おすすめです。
- 作品更新日:2021/12/1
- 投稿日:2022/2/27
宙の花標
資産家の祖母は孫の紫陽(しはる)に、「小さな惑星を譲る」旨の遺言を遺し亡くなった。星の相続から始まった騒動と、様々な人たちと繋がり成長していく女性の物語です。 ジャンルがSFという通り、惑星間を行き来できるというくらいの近未来を感じる設定。でもゴリゴリのSFというわけではなく、どなたも気軽に読めるテイストとなっています。恋愛、家族愛がお好きな方もぜひ。 紫陽ちゃんはお金持ちだけど一見普通のお嬢さん。ですが要所で意志の強さや賢さを感じ、安定感抜群です。様々な事件を通して資産家一族としての自覚や強かさも身につけていきますが、その描き方に嫌味がなく自然で好印象。思わず応援したくなっちゃいます。 男性陣もみんな魅力的!そういえばみんなタイプ違いますね。改めて思い返してみるとすごい。お好みの彼が見つかりますよ、たぶん。 ちなみに私は3章で登場する従兄の冨士くんにノックアウトでした。ネタバレ良くないのでこれ以上は何も言えませんが、でもでも同士が欲しいんですよ〜。一緒に沼りましょう。ぜひ!
- 作品更新日:2023/11/12
- 投稿日:2024/1/3
天空の標——シレア国史 天の章
表敬訪問した隣国でとある事件に巻き込まれ、奮闘する王子様の物語です。詳しい内容は作品ページのあらすじ、及び他の方の素晴らしいレビューをご覧ください。今すぐに読んでみたくなること間違いなしですから。 「奮闘」と表現しましたが、この言葉を使うのは正しいのか?そう考え込むくらい、王子カエルムは終始落ち着き払った、冷静沈着な人物です。八方塞がりとも言える状況の中、着実に小さな何かを掴んでいく安心感がとても心地よく、いつのまにかどっぷりと物語に潜り込んでしまっていました。 中盤までは比較的淡々と語られるのですが、ある時点からガラリと雰囲気の変わるスピード感のある展開。映像で見ているかのように入り込んでくる文章に、前作でも感じた作者さんの手腕をまたも見せつけられた思いです。 この作品で完結しているものの、残された謎もあるのは事実。読み終えたころには、続けて姉妹編へ手を伸ばしたくなるはず。 ただその理由は謎解きのためだけではなく、この世界にもっと浸りたい、彼らの物語をもっと知りたいと湧き上がる気持ちを抑えられなくなってしまうせいなのです。
- 作品更新日:2020/6/12
- 投稿日:2024/1/3
春の夜、耳を濡らす
主人公が毎週楽しみに聴いている朗読チャンネル。冒頭から一緒に聴いて、その世界に酔いしれているような感覚に陥ります。 泉鏡花の美しい一文と合わせながら、「声」に全身が絡め取られていくさまが艶っぽく描かれ、こちらまでぞくりとして心臓をバクバクとさせながら読み進める快感を何度読んでも味わわされます。(泉鏡花を知らなくてもまったく問題はありません。私も未読です) 短編小説にこんなにのめり込んでしまったのは初めてかもしれません。特に声フェチの方には最高にたまらない作品となっておりますので、ぜひ読んでみて頂きたい一作です。
- 作品更新日:2021/5/15
- 投稿日:2022/2/27
祥吾さん、あのね。
……という作者さんの声を聞いた方が、「10分読んでないけど惹き込まれた」と言っていたのを見て読んでみた作品(ややこしい) いやぁ、読んで良かったです。むしろなんでこんなに読まれてないのか?勿体ないですね、本当に。 内容はあらすじを読んでいただくとして。冒頭から祥吾さんの余命について触れられていることもあり、重い雰囲気になるかと思いきや。祥吾さんの明るい語り口と布美ちゃんの軽妙にも感じる返答のおかげで、ピクニックにでも向かうように楽しげで、でもやっぱりどこか仄暗さの残る物語となっています。 (おまけ)がおまけじゃないんだよなぁ。ここの布美ちゃんの「どうして」に本気で泣けてきてしまいました。 たくさんの方に読まれてほしい素晴らしい物語でした。ぜひ!
- 作品更新日:2022/6/19
- 投稿日:2022/10/9
灼熱の炎に蕩けるほどのくちづけを
炎の国の王子アルベルトの元へ嫁いだ、雪の国の忌み子として幽閉されてきた王女セシルとの愛の物語。詳細はあらすじ参照。……なんですが。 もし。万が一。あらすじと第1話を読んで「ちょっと読みたいのとは違うな?」と思って回れ右しそうな方、いらっしゃったらちょっとだけ待ってほしい。騙されたと思ってまず3話まで読んでみてください。たぶん印象変わるから! セシルの物語でもありますが、どちらかというとアルベルトの心情を深く掘り下げた物語となっています。アルベルトがセシルに向ける喜びの感情や苦しみの感情。どちらもが鮮明に表現されていて、読んでいて胸が締め付けられ続けました。といってもセシルの感情が軽んじられるわけでは全くなく、二人の心情が自然に交差して物語に入り込むことができます。 彼らの苦しみはセシルの想像を絶する過去からの悲劇によるものですが、その詳細は後半まで明かされません。焦れったくはあるかもしれませんが、無駄のない話の展開と、なによりこの世界に入り込んだかのように描かれる鮮やかな情景描写に目が離せなくなり、あっという間に読み進めてしまえます。魔法も描かれる世界ですが、それぞれの属性が効果的に使われ大切な要素ともなっています。 タグ閲覧必須ではありますが、あえてそこを無視してぜひ読んでみてほしい作品です。満足度の高い読書を楽しめるはず!
- 作品更新日:2022/2/1
- 投稿日:2022/10/9
東の果てで、夏を知る
大好きな兄を訪ね、夏休みを利用して遠い北国から日本にやってきた双子のひと夏の思い出の物語。 金髪と菫色の瞳をもつ美しい双子の兄妹は、普通の人には視えない「何か」が視えてしまう。いつもはそれらと目を合わせずやり過ごす彼らですが、この国で出会った魔性たちは今まで通りとはいかないようで……? 前半は双子の兄レオが救けた金魚の魔性とのお話と、ちょっと不思議な友人たちとの交流とが綴られています。 後半は双子の妹リナが見つけてしまった、優しくて素敵なイケメン幽霊鷹生との物語がメインに。死んでいるはずなのに生きているのとまるで変わらない、どこかが可怪しい鷹生を救うために彼らは動き出していきます。 レオと金魚のあやかし、リナと鷹生。それぞれが繋いでいく絆に終始にやにやしっぱなし!(私は特にレオと金魚がお気に入りです。うふふ) お題に沿って毎話描かれているので、どこに紛れているか注目して読むのも楽しいです。戦争の残す爪痕もちらりと。8月に読むのもおすすめ。 もともと大好きな作者さんなのですが、より大好きなお気に入り作品が誕生して嬉しい!スピンオフではありますが、これだけ読んでも全く問題ないと思います。ぜひ読んでみてほしい作品です!
- 作品更新日:2022/8/4
- 投稿日:2022/10/9