正史の悪魔
「乱歩のまなざし」に続く二作目なので、時系列・登場人物的にはこちらを後に読むのがおすすめです。ただ人物相関は複雑ではないので、先に読んでも問題はなさそう。 「乱歩のまなざし」は文学物に見えて心理学重視のように感じたのですが、今作は心理学に見えて文学的です。 心理学の実験風景を、「僕」と共に体感する感じなのですが、どんどん闇が深まって、狂喜乱舞する悪魔が見える、ゾッとする光景が文章により表現されており、とんでもないです。 「乱歩のまなざし」の方は、”乱歩っぽい”、どことなく気味が悪いような?という感じの雰囲気が漂っていましたが、こちらは”正史っぽい”、人間が一番怖い、という雰囲気が漂っており。 横溝正史の”悪魔が来りて笛を吹く”から「僕」は実験内容の着想を得るという話ですが、そちらの作品を読んでなくてもわかる内容です。 悪魔を作る事は出来るか?という実験に、興味本位に付き合っている気分で読んでいたので、最後の数話は悶絶しました。 名木橋、ありがとう!もうこの感想しかない。 最悪になりかけた読後感から私を救ってくれてありがとう・・・! ほんと救世主。
- 作品更新日:2021/2/9
- 投稿日:2021/8/4
第四龍礁テイマーズテイル
全体構成は映画っぽい雰囲気。まずは突き詰められた世界設定が衝撃のシーンと共に描かれる。細やかな人物相関があり。かなり作者は設定に凝るタイプ!という印象を受ける作品。 いわゆる、サバンナの野生動物の保護と管理をしているレンジャーの、ファンタジー版と言うところ。保護管理されるのは龍である。 よくいるドラゴンとしての龍ではなく、特殊能力を持つ爬虫類といった感じであろうか。 人に危害を加えたり、作物に被害を与える龍を追い払ったり、素材目当ての密猟者に目を光らせる。そんな存在が楊空艇【マリウレーダ】の面々だ。 主人公ティムズが、そこに配属されてから物語は大きな一歩を進める。 主人公に感情移入して読み進めるタイプの人も読める内容だけど、全体のイメージとしては群像劇と言ってよく、それぞれのキャラに魅力があり、彼ら一人一人にバックグラウンドの物語が存在するという感じなので、誰を主人公と決めつけにくい。誰が主人公であってもおかしくない程の存在感がある。 ティムズの視点でこの舞台で繰り広げられる出来事と、ここで戦う人々を知っていく感じで、彼が成長していくにしたがって出会う人や行く場所が多くなっていき、どんどん世界が広がっていく。 戦闘シーンは、カッコイイBGMが聞こえて来るほどの躍動感あり。複数登場人物とのコンビネーションが熱くて面白い!バディ感ある戦闘は秀逸。 緊張シーン、重いシーン、息をつく日常パートが絶妙に割り振られ、緩急があるため、一気読みをしても疲れにくいが、文章量が多く、すでに連載が長くなっている作品なので、これから追いかける人は腰を据えて読むのがおすすめ。
- 作品更新日:2023/9/27
- 投稿日:2021/7/20
あんなペンネームを付けてしまったのに、
現役女子高生でありながら、天使の微笑みで人々を魅了する、最上まこ。 そしてコミュ障気味で平凡な男子高校生、立石隆斗。秘密にまみれた二人! アイドルでありながら、趣味はBL小説を書く事!な彼女と、最上まこの大ファンであることを隠し、イラストを描く事も秘密な彼。 ある日、運命は二人を出会わせる。―ネットで。 お互い、自分のイメージからかけ離れたペンネームと設定を持ち、本来の自分を想起させることのない存在とし、小説書きとイラスト描きとして出会うのですが。 ある日、運命は二人を出会わせる。―リアルで。 しかしその出会いは、彼にも彼女にもとてつもない衝撃を伴い…。 交錯するネットとリアル。二人は本当の意味で出会えるのか!?といった感じのドタバタラブコメです。 小説書きならわかる!と思う事もたくさんあるし、絵描きとしてわかる!という部分もあって、今の時代だからこその出会い。男女の恋愛というより、クリエイターの出会いと進展という目線で見ても楽しいかも? 一人称の、彼と彼女のパートが交互という構成も読みやすいですよ!
- 作品更新日:2021/7/5
- 投稿日:2021/7/23
「ノヱル、神を否定しろ」—Noel, Nie Dieu.—
コミカライズして欲しい、アニメ化して欲しいという作品は多いですが、こちらの作品に関しては、ゲーム化して欲しいと思ったのが最初の印象です。 神を殺すべく作られた人型戦略支援躯体であるヒトガタの主人公が、神の軍勢による蹂躙の果て、朽ちて行く世界になおも現れる異形の天使たちと戦うダークファンタジー。 Ⅰ;Gun Parts Childrenの前半は、主人公ノヱルと山犬両名の能力を紹介するかのようにバトルシーンが続きますが、このノヱルが銃を次々と入れ替えます。本人も自分の性能を理解していないので試行錯誤が続き、状況に応じて使用する銃をどんどん変更。 遠くから狙撃する鳥銃、速射性の双銃、猟銃、騎銃……。その入れ替えがとにかくかっこいい!ダークファンタジーは中二心をくすぐられてナンボ、みたいなところがあるのですが、これはもうワクワクしますね。 山犬についても、やっている事は残虐なのだけど、彼女の明るい性格と、食いしん坊でいつもハラペコ感があるのも可愛い。 チート級に強くなる片鱗を見せながらも今は進化前と言う感じなので、今後の彼らの成長も楽しみであり、先行していた一基目とどう関わって行くのか、彼らに神殺しを命じた男は何処に?神とは?天使とは?等と、ストーリー自体も目が離せません。 状況描写が上手い筆力の高さから、残虐シーンはヘヴィですが、キャラの個性のおかげで一歩引いて読めるので、グロめの描写が苦手な人も読みやすいかと。 ルビがハイセンスで、言葉遊び的でもあり、それもこの作品の見どころの一つです。
- 作品更新日:2022/10/31
- 投稿日:2021/7/21
『エージェントは異世界で躍動する!』
エージェント。それは仲介業者の方ではない。所謂、間諜の方だ。 主人公タイガは殺伐とした世界で、組織に縛られていた存在。なまじスキルが優秀なものだから重宝されていたとも言えるけど、危険と隣合わせで常に任務の成功のためだけに生きて来た。 任務の達成のためには、切り捨てなければならないものがある。目の前に救える対象があっても、任務のためには目を逸らさなければならない事が。それが出来るからこその、一流エージェント。 そんな彼が突然、異世界転移。 普通の世界でもそれなりの実力者だったので、そのままの彼でも十分異世界で生き残れる強さがあったのだけど、この世界で彼は更に半端ない力を持つ。 常に冷静に物事を分析し、最適解を見つけ対応していく彼は、天性のタラシでもあって……。元の世界ではできなかった人助け、自分がやれることをやって、無自覚に行動しているだけなのに、それがあまりにもスマートなものだから周囲の女の子は彼に夢中。そして男からは畏怖される。 彼が異世界に来る事になった理由、本当の敵はいったい何なのか。謎をはらみつつも、ライトなコメディの雰囲気で軽快に物語は進む。 でもやはり魅力の本質は、彼の圧倒的強さと頭脳を駆使したバトル。 強い主人公好きの人におすすめ!
- 作品更新日:2023/7/19
- 投稿日:2021/7/21
安楽庵探偵事務所 〜尋ね人は異世界です。〜
ミステリアスな探偵事務所。 そこを目指す一人の男の登場から物語ははじまるのだけど、しょぱなの事務所の紹介の文章からしてリズミカルで、不思議な雰囲気を醸し出しています。 物語は短話的にまとめられており、客が来る、説明する、調査開始、結果のお知らせ、ジャガイモ料理に至るという流れで構成が統一され、一種のテンプレート状態。リピートされるような感覚に支配されつつも、各話違うモチーフが出て来て、パターンに慣れて来る辺りで、アレンジが入って来るので飽きる事はなし。 異世界での人探しシーンはほぼなく、基本的に現代パートのみでの構成です。依頼人の心情を解き明かす事がメインと言う感じですね。〆はジャガイモ料理が据えられます。 登場人物がすさまじい個性を放っており、名前も独創的なので一度見たら忘れられないのもこの作品の特徴かもしれません。 ジャンル的にもミステリーなのか、コメディなのか、ヒューマンドラマなのか、現代ファンタジーなのか、迷う内容ですね。一ジャンルに括れない。 用語的には東洋系の占いに詳しい人ならなお理解が深まるのかも?と言う部分があるかも。
- 作品更新日:2021/4/22
- 投稿日:2021/7/27
【短編】追放令嬢は日本に降り立つ!
設定、その導入から印象的。1話ごとの文章量が少なめでサクサク読み進める事が出来ます。 異世界から追放された女の子との出会い方が、日常の一場面で、これはほんわかラブコメなのかなと思わせておいてからの、事件の香り。 主人公に度胸があって、主にハッタリだけで乗り切っていくのが、痛快です。 あっという間に読めてしまったのに、内容は濃厚で緩急があったため、読後に残る記憶は、長編を読んだ後、のよう。 この設定で長編も読んでみたい、と思わせる作品です。
- 作品更新日:2020/12/27
- 投稿日:2021/7/27
小説の作り方を憲法にしてみたよ
学生時代に習った文章の書き方だけを頼りに、見様見真似で小説を書き出した者というのは、いつも自分の書き方に不安を感じているかと思います。 なんとなくのキャラ作り、なんとなくのストーリー作り。でもなんだかのっぺりしていてメリハリがない……?でも何処が間違っているのかわからない。 そんな時に、チェックしておきたい項目がずらり。 憲法風の固めの条文になっているのですが、それが簡潔でとても覚えやすい。なおかつそれぞれにきちんと解説もついていて、それが小気味よくて面白いのです。 100%確実にこれさえ意識すれば、完璧で面白い小説が書けるというわけではありませんが、ここは気を付けておきたいと思うポイントが明確になり、自分が出来ていない部分にも気づけたりも。 文字数も少なく読みやすい構成なので、気軽にパラパラと眺める感じで読み切れます。自分のお話作りに不安がある独学の方、さあ今から書く方にチャレンジするぞ!という方にお勧めします。
- 作品更新日:2020/2/26
- 投稿日:2021/7/22
ハンドメイダー異世界紀行(第一部完)
ハンドメイド好き……。 アクセサリを手作りしたり、マスコットを縫ってみたり、木工をやってみたり。小説を書く人は世界を作るのが好きという事もあって、同じ”作る”に通じるハンドメイドに造詣が深い人も多いので、こちらの作品に「お?」と思う方も多いかもしれないです。 ハンドメイドでアクセサリ作りを堪能する藍華。ある日、道具類の買い出しに出て、うっかりマンホールに落っこちるという不思議の国のアリスもかくやというイベント発生。そしてアリスよろしく、たどり着いたそこは不思議の国……もとい異世界(?)だった。 異世界といってもお約束の西洋ヨーロッパ風ではなく、日本の雰囲気。しかしものすごく荒廃していて……。 なんとそこは、発掘されたハンドメイド品が魔法のアイテムとして活躍する世界だった! ハンドメイド品は「アーティファクト」と呼ばれ不思議な力を持っていて、使われているモチーフ等で性能が異なるという。 藍華はこの世界で出会った大吉と共に、新たなハンドメイド品作りや修理、そして謎の解明をしていく物語。 かつてこの世界に来たという、藍華もファンであるクゥの存在。 アーティファクトを狙う謎の存在。 ほんわか雰囲気の中でも気になるストーリーも内在されるこの作品。 レジンに入った気泡や、歪んでしまった失敗作も、この世界では能力の一つになるという、失敗品を連続して作って凹むハンドメイダーの心の救いにもなりそうな要素も。 自分の作ったハンドメイド品が、異世界で思わぬ活躍を見せるかもしれない。 今作っているものが、こんな能力を秘めているかもしれないと、想像すると更にハンドメイドが楽しくなりそう。 ハンドメイド好きの人は間違いなく楽しめる一作です。
- 作品更新日:2023/3/2
- 投稿日:2021/7/22
魔王様は技が欲しい!
さくっと読めるショートストーリー。ほんと1分。わざわざそれを読むための時間を作る必要もなく、メールを読む感覚のレベルであっという間に読めてしまうのだけど…。短いのに起承転結があって、ちゃんと1つの読み切り物語になっているという。更にこの文章量なのに、魔王様の人柄(魔王柄?)、コマの個性がバシバシ伝わって来るという。 基本ルーチンは(例外パターンもあり)、「魔王様と必殺技」+勇者倒す=オチ ですが、このオチが読めない。全然予想外のラストを迎えるのです。 タイトルを見て、これは絶対あの剣だな!と思っても、全く予測の斜め上に吹っ飛んだラストが待っていて。ふっ、こんなネタではきっと三話も続かないわ…!と思ったら、連戦連敗中です、悔しい! 次こそは、絶対に当てて見せると息巻いて、更新の日を心待ちにするようになったのですが、「今日こそは勝たせてもらうぜ?」と挑んだのに今回も負けました。 と、こんな感じに、作者との頭脳(?)バトルを堪能する、という方向性でも楽しめます。 オーソドックスに、クスっと笑える物語を純粋に楽しむのもまた良し。各県のマメ知識も身に付きお得。 ほんとあっという間に読めちゃうので、軽い気分でまず1話どうぞ!
- 作品更新日:2022/4/3
- 投稿日:2021/8/5