前世も今世も恋をする
【物語は】 クライマックスから始まっていく。 主人公視点で語られていく物語であり、短編ではあるが伏線があちこちに張られている印象。前世を覚えている彼女と前世でその彼女を愛した主人公の物語。 タグにはどんなラストなのかを想像させるものはないので、この時点ではどんなラストになるのか分からない。ただ、不穏な空気を漂わせており、ここに至るまで何があったのだろうかと興味をそそる。 【主人公と彼女】 主人公は何かと不審な言動があるように感じる。 それは愛した女性に嫌われるのが怖いかならなのだろうか? と初めは思う。とても巧いエピソードの作り方であり、展開となっている。 主人公の性格よりも、彼女の性格の方が分かりやすい。主人公は本来どんな性格だったのか分からないが、そこまで執着するほどに愛していたのだと思われる。 【ターニングポイント】 主人公に有利であると思われた、もしくは幸せなまま終わるのではないかという想いは一瞬冒頭のクライマックスを忘れさせてしまうものである。 ここも凄く巧い展開だなと感じた。 主人公にとってのターニングポイントは、恐怖への入り口。 彼が何を恐れているのか? 明確であるものの真実はここでは明かされていない。匂わせでその可能性を想像させるものはあるが。 乗り越えられるのではないだろうか? とも思わせる。 彼女の真意はラストに分かるが、態度から何を考えていたのか後に分かることとなる。(それは想像ではあるが) 【物語の見どころ】 自分がこの作品に出逢ったきっかけは、短編の難しさ、そしてその書き方のコツを知りたいということが発端で縁となった。 物語としても非常に面白いし、どのように匂わせをするのか? 伏線をどのように回収するのか、とても勉強になる物語だと思う。 確かに恋愛ものではあるが、ミステリー要素、ホラー要素も含んでおり、ゾッとしたりハラハラドキドキしたりする物語である。 そして幕引きもとても巧い。 あなたも読まれてみてはいかがでしょうか? 主人公の思惑と真実。そして彼の恋は叶ったのか? その目でぜひ確かめてみてくださいね。お奨めです。
- 作品更新日:2022/7/3
- 投稿日:2022/7/10
対価
【読む前印象など】 感想欄にも記載させていただきましたが、タグの”悪魔に売ったもの”とあらすじの”鈍い主人公”というキーワードがとても気になりました。 そしてタイトルから、重い話なのだろうか? という印象を受けました。 短編は色々と読んだことがありますが、この作品で凄いなと思うのは、たった2000字の世界の中でスッと主人公の気持ちに寄り添えること。 感情移入出来るからこそロマンチックだなと思える物語。 【物語や登場人物について】 鈍いということが活かされた物語だと思う。鈍いからこそ成り立ち、相手の人物の性格も伝わってくる。 タイトルからは到底想像のつかない物語でもあると思う。 相手が悪魔なので、対価と言えばあれだろうと思ってしまう。確かに関係はしているとは思うが、ここからが意外な展開である。 ただ、主人公が鈍いだけで大切にされていることも伝わってくるし、相手の気持ちも伝わってくる物語である。 【物語の見どころ】 どんな物語なのか想像してから読むと、より一層楽しめる作品だと思う。 そして、意外性のある物語であり、恋愛ものが好きな人にはぜひお奨めしたい作品。余韻も素晴らしく、その先を想像するのも凄く楽しいと思う。 対価を必要とする悪魔とはあなたにとってどんなイメージを沸かせる存在だろうか? そして家族を想う彼女にどんな想いを抱くだろうか? 果たしてこの物語の結末とは? あなたも読まれてみてくださいね。 読んで良かったと思える秀逸な作品だと思いました。 お奨めです。
- 作品更新日:2022/7/6
- 投稿日:2022/7/10
【完結】千世子
【物語は】 主人公が経営する居酒屋にある少女が飛び込んでくるところから始まる。 それは髪に特徴のある、不思議な少女であった。どこかから逃げてきたようで、放っても置けずしばらく家に置くことにしたのだが。 【この物語から感じたこと】 まず1万文字に満たない短編であるにも関わらず、読み応えを感じる物語である。そこが非常に凄いと思った。 登場人物は少ないが、そこに工夫も凝らされている。 出逢った少女もミステリアスだが、主人公も何か秘密があるように感じた。 物語の中では、少女言動から主人公が何かを感じ取っているようにも思えるが、それが明かされるのはクライマックスの辺り。いろんなことが繋がり、驚く部分ももちろんある。 謎めいた部分をうまく使い、伏線を張り、真相でアッと言わせる作品だと感じた。 【こだわりや、凄いなと感じた部分】 見せているが分からない部分というのが凄いなと思った。 計算し、こういう形にしたのだと思うが”謎”に感じるところが多く、想像力を掻き立てる。 初めは名前を見て、大正から昭和初期くらいを舞台にした物語なのだろうか? と思った。しかし主人公である店主がスマートフォンを使っていることから、ああ現代だなと改めて思う。つまり、タグに現代と書いてあっても時代を感じてしまう名であり、タイムスリップでもしてきたのだろうか? と余計に謎が深まるのである。 彼女の謎については後に明かされる。 【物語の見どころ】 少女の言動から、どんな風に恋愛に発展するのか想像し辛い。 なので、とても先の気になる物語である。 少女は多くは語ることはないが、主人公が彼女の言動から何かを感じ取っているように感じる。しかしそれを明確に言葉にすることはないため、ホラーに感じる部分もあり。 彼女の生い立ちや背景については想像しながら、予想を立てながら読むとより楽しめると思う。 そしてクライマックスから結末にかけては予想外の展開が待ち受ける。 そこにたどり着くまでに少女の気持ちの変化なども伺え、二人の恋の行方がどうなるのか非常に気になる流れ、展開となっている。 あなたもお手に取られてみてはいかがでしょうか? 物語のその先も想像して楽しめる作品です。 お奨めですよ。
- 作品更新日:2023/9/26
- 投稿日:2022/7/11
音無し少女は普通でありたい
【物語は】 ある注意文ともいえる一節から入るのだが、タイトルと一体どんな関係があるのだろうか? そして何故ダメなのだろうか? と純粋に疑問に思った。 だがすぐにその理由が分かり、納得するのである。 タグを見ると恋愛ものでハッピーエンド。 後悔から始まる主人公が、この約5500文字の物語の中でどんな風に想いを寄せる相手とハッピーエンドを迎えるのか非常に気になるところである。 【主人公と少女】 少女の本心は後に明かされるが、主人公の想いは一貫したものであり気まずいながらも思いやりに溢れている。 一方的に決めつけることなく、相手の気持ちを尊重する姿は非常に好感を持つ。主人公はとても素敵な人物であると言える。 それに対し少女の方は以前通りの距離感を保っているのだろうか? 次第に、彼女の抱えているものが明かされていく。それでも変わらない主人公の気持ちに何とも切ない気持ちになった。 【主人公の考え方】 この物語の主人公は高校生であるが、とても大人びた性格であると感じる。 考え方が自分本位ではなく、冷静に自分自身を捉えている印象。そんな人物だからこそ、彼女も心が許せる相手なのではないだろうか? 気まずさを乗り越えたものの、好きな人の気持ちが自分に向いていないとなれば、人は相手に冷たくしがちだと思う。それは意識、無意識にかかわらず。 だが彼は、想いを告げる前も後も恐らく変わっていないのだと思う。 【物語の見どころ】 耳の聞こえない少女に恋した主人公は、想いを告げた相手と高校で再会する。告白の返事が良い返事ではなかった為、気まずい想いをするのだが、あることをきっかけに以前の仲に戻り、次第に心の距離が縮まっていく。 世の中にはいろんなハンデを持った人がいる。それは目に見えるもの、見えないもの様々。しかしそれを自分から話せる人というのは勇気のある人。 トラウマがあり、一見ハンデがあると分からなければ偏見やいじめなどを恐れて言いづらいこともあるだろう。話した方が理解される可能性があるとしても。 ”普通”が何か考えないということは、何の不安もハンデも抱えていないということだと思う。しかしなんらかのハンデを抱えた者は、それを普通でないと思われたくないものだと思う。人はそれほどに、偏見の目を向けられることを恐れる弱い生き物だと思うのである。例え周りに偏見を持つものがいなくとも。 そんな彼女を見守っていた主人公は、ある分岐点を迎える。 その時、彼女が選んだ選択とは? 優しい愛に溢れた二人の恋の行方をぜひ、その目で確かめてみてくださいね。 おススメです。
- 作品更新日:2022/6/21
- 投稿日:2022/7/11
国を憂える者のつぶやき
【物語は】 なんだろう? と思う始まりから入っていく。 これから何が伝えられるのか、タイトルにヒントがあるにも関わらず不思議とそのことを忘れてしまう。文学的な作品であり、不思議な感覚を齎す。 【感想】 エッセイのような流れなのかな? と思っていたらなるほど文(ふみ)かと納得しました。 これは純文学ですね。近現代文学のようなお洒落さもあって好きです。 そして初めは何かこう、人に煙たがられる話なのかと思っていたら、その共通点から更に話が展開されていき、落ちがある。 ショートショートってきっちりとしたメッセージがないと終着点が難しいなと感じていたので、こちらの作品は凄いなと思いました。 しっかりとしたテーマとメッセージがあり、構成が巧く、”なんだろう?”と興味を引く展開でもある。 文体も美しく、大人向けの物語だなと思いました。 もちろんメッセージを向けている層は大人(成人)ではあるとは思いますが、まだ未成年の相手にもこれからそうなった時、思い出して欲しいメッセージであるとも思いました。 あなたもお手に取られてみてくださいね。 おススメです。
- 作品更新日:2021/10/19
- 投稿日:2022/7/11
あと五分が四時間になる理由 決して私のせいではない
読む前に感じたこと。 あらすじの”もっともっと大きな力が作用しているかもしれません……。”という部分を見て、ホラーなのだろうか? と思った。 しかしながら、タグにはホラーの文字はなく、何やら怪しげな文字が。 ”重力”?! 一体何が起きるのか楽しみな作品だと感じました。 そして始まった本編。やっぱりホラーじゃないか! と思わず絶叫。 だがラストまで読むといろいろ見えてくるものがある。 上手いなと思ったのは、主人公と相手との関係。あえてこの表現をするのが伏線であるということ。 読む人によって捉え方は違うのかもしれない。 何を感じるかも、経験によるものだとも思った。 このタイトルと相対性理論については理解したが、主人公とその関係はちょっと自分には理解が難しかった。ただ、主人公がこうなってしまった理由については想像が出来たし、また相手との関係がこうなってしまったことも想像がつく。 そしてここからが再スタートなのだということも。 まだやり直しはきくのだろうか? このままでは報われないが、相手は見放してはいない気がしている。気づくことを待っているような気がするのである。 完結作品なので、その先は読者がどう想像するかで決まるのだと思った。 あなたもお手に取られてみてくださいね。 おススメです。
- 作品更新日:2022/3/5
- 投稿日:2022/7/11
あの日々を永遠に
こちらは短編作品。 【物語について】 さてどんなお話だろう? と冒頭の説明書きを見ていきなり吹きました。 明るい話で闇が溜まる?! しかしながら、あらすじなどを見ると、とてもシリアスな物語。 主人公の少女は特別な能力を持ち、それゆえに”普通”に暮らすことが出来なかったのだと想像する。そして、こういった能力を持つものが産まれるのは稀なのだろうか? と、もう一度情報ページを確認したところ、舞台はどうやら異世界、架空の場所らしい。ゆえに、彼女のような境遇の人物は他にも存在するのかもしれない。 親に畏怖され必要とされなかった彼女にも、幸せな時間はあった。 それが一般的な幸せでなくとも。 【物語の見どころ】 この物語は1000文字に満たない短編であり、必要な部分しか描かれてはいないが、彼女の気持ちが痛いほど伝わってくる。 仮に一人が好きで一人でなんでも出来たとしても、どこかで何らかの形で他人と繋がっている。自覚がなくても助け合って生きているのだ。 だが、どんなに辛い想いをしていても”必要とされることが幸せ”と感じていたならば? そこに縋っていたとしたなら。 失ってしまったら、いくら自由を手に入れたとしてもあるのは絶望だけなのかもしれない。 この物語は、まったく内容は違うが人魚姫を思わせる作品だと感じた。 切なくも美しい物語だと思う。 あなたもお手に取られてみてはいかがでしょうか? もしあなたが彼女の立場なら、どんな選択をするだろうか? 何気ない日常が幸せに感じる作品です。 お奨めです。
- 作品更新日:2022/1/9
- 投稿日:2022/7/12
六月の雨
【物語は】 主人公がある女生徒に声をかけられるところから展開していく。 あらすじと物語の関係がとても巧く、こんな展開になるとは思わなかった。 物語は主人公の抱える苦悩や想いについて描かれており、爽やかなラストへと繋がっていく。始終ハラハラしてしまい、とても巧い構成だなと感じた。 あなたならどんな展開になると予想しながら読むのだろうか? 【主人公と二人の女性】 人生とは不思議なもので、縁は奇跡であり必然なのだと思った。 この物語では主に二人の女性が出てくるが、両方とも主人公に影響を与えている。 恋は一人でも出来るが、恋愛は一人ではすることが出来ない。 主人公は教師であり生徒からは恋愛経験を含む、性的な体験をしたことのない人物だというイメージを持たれているようだ。 純情に見えるのか、お堅く見えるのかそこまでは分からない。 しかし彼が理性的であるのは、自身の体験によるところが大きいようである。 【主人公の恋愛】 人は自分の体験でしかものを語ることはできない。なので、一般的なイメージでしか書くことはできないが、主人公のようにちゃんと物事を受け止めることが出来る男性はそう多くはないのではないだろうか? 例え手遅れでも、何を求められていたのか? 何が間違っていたのか気づけるというのは、相手をそれだけ想っているからに他ならない。 その反省が活かせるなら、きっと素敵な恋が出来るに違いない。 目を背けることなく自分自身と向き合うことが出来たのは、性格などもあるだろうし、焦っていたのはそれだけ好きだったからだともいえる。 ただ、その想いに自分が鈍感だったのだろう。 冷静になれていたならもっと多くのことに気づけたのかも知れないし、こんなことにはならなかったかもしれない。 【女性の持つ悩みや不安】 この物語を読むと、男女のすれ違いの理由が一目瞭然である。 日本は特にありがちなことであるとも思う。 自分の思っていることは言葉にしなければ伝わらない。 手遅れになってしまってはもう、二度とやり直すことはできない。 やり直すことが出来るのは、それだけ相手の中で存在が大きな時だけなのだ。 そんなことも改めて考えさせる物語である。 【物語の見どころ】 ラストに意外性のある物語。 あらすじを読んで想像する物語とは全く異なり、そこが一番の見どころでもあると思う。良い意味で騙される。作者のテクニックが凄い作品である。 恋愛とは身勝手では成り立たない。 もちろん気づいて欲しいと願っても相手には伝わらない。 大切な相手だからこそ伝える必要があり、漫画などでよくみられる普通の恋愛とは意外と現実にはないのだろうと思う。 何故なら、彼らは相手をよく観察し相手のして欲しいことを見抜いているからである。現実にそんなことが出来る人は多くはない。 笑顔=楽しいとは限らない。相手が女性ならなおさら。 互いに伝える努力をすることがどれだけ大切なことなのか、改めて考えさせられる物語である。読んでいる間は苦しい気持ちになったり、いろいろと考えさせられることが多く、読了後には優しい、幸せな気持ちになれる物語だと感じました。 あなたもお手に取られてみませんか? お奨めです。
- 作品更新日:2023/7/10
- 投稿日:2022/7/16
夢屋
【物語は】 いつもの街でいつもと同じような日々を過ごす少女のモノローグから始まっていく。彼女は”変らない毎日”を好んでおり、この日もきっと同じ日常を送るはずだったのだろう。そんな彼女の目に留まったのは”夢屋”の文字だった。 好奇心の赴くまま男に近づいていくのだが……。 【主人公と街並み】 ノスタルジックな街並みを思い浮かべてしまう。 しかし”いつもの”に違和感を覚え始める。 ジャンルはファンタジーであり、タグには現代ファンタジーとある。現代が舞台であるのだろうと想像するが、読み進めていくと”おや?”と思う会話に遭遇する。 ”夢”の部分がファンタジーだと思っていたが、もしかしたら違うのかもしれないと。 主人公の言葉に、夢屋の男は”そうかい”としか言わないので、その違和感は解消されぬまま展開されていく。恐らくどこかでその謎は明かされるのだろうが、とてもミステリアスだ。 【夢屋と真実】 この不思議な男がどこからやってきて、何処へ向かうのか明らかにはされていない。しかし男の言うことを信じるならば、主人公次第なのだろう。 文中には、どちらにも取れる言い回しがあるため別の可能性も考えられる。 夢屋に出逢うまでにも伏線と感じる部分は多いが、あることをきっかけにして、何故主人公がこの街にいるのか? この街はなんなのか? 明かされていく。 徐々に雰囲気が変わっていく作品である。 【物語の見どころ】 冒頭の方から、恐らく伏線がちりばめられている。 ラストはタグにもある通りハッピーエンドとはなるが、彼女の心の変化に焦点があてられた物語だと思う。 この状況になるまでに何があったのかは後半の方で分かるが、 彼女が望んだことはなんだったのか? どうすれば良かったのか? そんなことも考えさせられる。 この物語を読んで、”自分自身と向き合い、他人と本音で話せば未来が変わっていく”というメッセージを感じた。 思っていることは伝えて初めて意味がある。自分一人で他人の気持ちを決めつけても、何も伝わらないということ。 主人公は既にそのことに気づき、このままではいけないと思っていたに違いない。 自分が変わらなければ、何も変わることはないということに改めて気づかされる物語です。あなたもお手に取られてみてはいかがでしょうか? 純文学が好きな方にもおすすめしたい物語です。 あなたならこの物語の先をどう想像するだろうか? お奨めです。
- 作品更新日:2022/5/6
- 投稿日:2022/7/12
殺人餓鬼教室 - リトルマーダークラスルーム -
【物語は】 一般人であり、裕福とは言えない教師の主人公が新学期直前に、ある高校の新入生対象の実力テストの監督を任されることにより始まっていく。 本来なら別の人物が監督をするはずだったが、都合がつかず主人公にお鉢が回って生きたのである。 教育の機会に恵まれなかった孤児を対象とした新クラスを設立するという名目ではあったが、その試験の対象は普通の子供たちではなく、『リトルマーダー』と呼ばれる暗殺・諜報を専門とした少年少女であった。 その夜主人公は、一人残って採点をしていたところ命を狙われ究極の選択を求められる。彼が選ばれたのは、偶然かそれとも必然だったのだろうか? 【物語の魅力】 初めのうちは、主人公が何故命を狙われたのか? そして彼が何故、この暗殺・諜報を専門とした孤児たちの教師に選ばれたのかとても謎であった。それほどまでに彼は”普通”だったからだ。 特に目立った能力を持っているわけではなく、能力に長けた彼らに勉強を教えるという意味では、役不足なのではないかと感じたからである。 しかし物語を読み進めているうちに、彼が”適役”であることが分かってくる。 あなたにとって教師とはどんな人物であり、理想とどれくらい一致するだろうか? 人の好さは、能力ではないということを改めて感じさせる、考えさせられる物語である。 そして何故彼だったのか? それは物語の中で主人公がオーブという人物から、彼の願いや想いを明かされることで見えてくる。 【主人公の魅力】 彼の魅力というのは、正義や正しさを押し付けないことにあると思う。 そのことにより、他者を尊重しありのままを受け止めることが出来る。 彼は教師らしい教師であり、理想的な教師だと思った。 これは簡単そうで、難しいことなのだ。 倫理道徳に基づき、人を殺してはいけないということは簡単だ。 だがそれを望まずして行い、生きる彼らにとって否定されることは、存在そのものを否定されることに等しい。 孤児として、生きることそのものに不安しかなかった彼らに、酷なことを強いる大人がいたとしても、食べることができ、命を繋ぐことが出来る生活そのものが救いだったならば? ダメだというだけのことが、どれだけ愚かな行為なのか分かるだろう。 否定するだけではだめなのだ。そうせざるを得ない環境を作っているのは、同じ人間なのだから。本当の救いとは、自分で未来を選ぶことのできる環境を作ることなのではないだろうか? 主人公は彼らに、”自分で未来を選んでも良いのだ”と思わせる力を持っていると思う。彼らの生き方を否定することなく、ありのままを受け止め、無理に変えようとはしない。自分の考えを押し付けることもなく、彼らに”自ら選び取る”ということを教えているに過ぎない。彼らに必要なのは自主性なのかもしれない。 【物語の見どころ】 この物語を読み始めた時、恐らくいくつかの疑問を感じるだろう。 例えば主人公は何故命を狙われたのか? など。 その疑問は読み進めていくうちに明かされる。そして、人が人を殺す理由は些細なことがきっかけなのだということにも気づかされるのだ。 人は死んでしまったら終わり。だから簡単に殺せないものだと感じているのは、日本が戦争をしない国であり、武器を所持しないからである。 自分たちの知らないところで、日々人は”そんな理由で?”という理不尽な理由で殺されているのだ。自分たちが平和な国にいることについても深く考えさせられる。 疑問に対しての謎は、自然に物語の中で明かされ、その度に考えさせられる。 あなたならこの物語を読んで、どんなことを思案するだろうか? あなたもお手に取られてみてくださいね。 この物語の結末をその目でぜひ、確かめてみてください。 お奨めです。
- 作品更新日:2022/6/27
- 投稿日:2022/7/17