花と頭蓋
最終更新:2019/11/29
作品紹介
職を失った僕は平日昼間の住宅街で、かつて憧れた先輩の姿を見る。彼女、坂島栞は“物語を書き続けなければ頭蓋骨のなかを花に支配されて死ぬ”病を抱えているという。 生きているうちに彼女の作品を世に出したい。僕の提案は受け入れられて、彼女と物語、それから彼女の頭の中に巣食う花との暮らしが始まった。
評価・レビュー
5.0
wakagi
その花は、悲しく、美しい
偶然再開した憧れの先輩に不意に聞かされる思いがけない言葉、自らのこめかみを指差し、冗談めかして儚い笑みを浮かべ、ここに花の形をした爆弾が埋まっている。と。 その花は開花とともに死をもたらす未知の病、その養分は消化されずに滞留する思考。 未だ蕾のその花の開花を抑える術は、頭蓋の中に渦巻く想いを言葉に綴り続けること。 その開花を拒むため、二人は共に生き、想いを言葉に綴る生業に希望を託す…… 別れのときが迫る中で穏やかな生活を営む二人だけの世界は、手を取り合い懸命に生きる姿を描きながらもどこか退廃的で、迎える結末も甘美で儚い、まさに桜の花のように美しい物語です。
5.0
藤屋順一