初恋が唇に触れる時季
最終更新:2016/12/25
作品紹介
ごくり、と飲み込む三ツ矢サイダーの味は、ほろ苦い。…どうしてだろう…。 初恋を経験した私が飲んでいたのは…『アクエリアス』だったはずだ。 …そう…だったよね? 車窓から、あの懐かしい風景が、近づいてくる。 エメラルドグリーンの海が陽光にきらめいていて、空を見上げれば尾道大橋が視界に入る。 海が見える、海が見えた。 何年かぶりに見る尾道の海は懐かしい……っていうのは、林芙美子だったっけ。 私は今日、お嫁に行く。 …ああ!私の大好きな、あのまばゆいばかりに輝く海、光の洪水へと、私の麦わら帽子が吸い込まれて行く。 風に…ひるがえり…そう、私自身の屈託のない笑い声とともに…ひるがえりながら…、 その帽子を、前を歩いていた少年の手が、しっかりとつかむ。 笑いながら振り返る少年の顔は、いつしか私とともに大人へと成長し、そして…。 私は今日、お嫁に行く。 いくつものあの人との想い出を、心という名前の宝石箱にちりばめながら。
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