淡々と紡がれる、成長するまでの目を背けたくなるような日々。一人称で語られているはずなのに、まるで激しい感情など閉じ込めてしまったかのような、どこか他人事のような日々。
そう、チェントにとってそれは目をつぶってやり過ごすだけの日々。
閉じ込められて、一歩も抜け出すことのできない生活は、きっと禁止されていたからという理由だけでなく、彼女自身が、突然奪われた平穏な毎日を受け入れられず、自閉していたからかもしれません。
王族の血筋であることなどは中盤で語られますが、それは救いになるものではなかった。
単純な貴種流離譚にすることなく、テーマをまっすぐに描き切っている。
チェントが魔王城に流れ着いたあたりでしょうか、何故か脳裏には昔の洋画のような風景がバックグラウンドのように映り始めました。
中世の、戦争物、たとえばジャンヌ・ダルクのような。
埃と茶色い血と、武器や鎧の金属音に彩られた世界。
神が物語に介入しないだけ、よほど純粋かもしれません。
設定は魔王や、魔道術など、ファンタジーですが、それなくしても充分だったかもしれない、と私は感じました。
結末は少し意外でした。
ダーク・ファンタジーという言葉と、プロローグで、すっかりバッドエンドを思い描いていました。
これは良い裏切り、とても面白かった。
ありがとうございます。
登録:2021/7/10 02:40
更新:2021/7/23 17:15