日本神話、古代日本を舞台に、混ざり合う人間模様と美しい情景を見事に書き出したファンタジー。第一部は故郷を追われた姫君と、彼女を守る姿なき護衛を。第二部は孤独を恐れ、居場所を求める青年を主役に据えて、物語が進んでいきます。
第一部では、故郷を失いながらも屹然と立つ姫君・夕星と、彼女の護衛である姿なき寡黙な青年・葉隠が、新天地で国同士の争いに巻き込まれていきます。この二人の関係性とすれ違いが、とにかく切ない。兄の許婚だった夕星に惹かれながらも想いを秘する葉隠と、許婚を忘れないでいつつも葉隠に惹かれていく夕星。戦乱の中でも凛々しく、健気に咲く花のような二人の結末は、しかし夕星の儚く悲しい散り様にて幕を閉じてしまいます。
第二部では、夕星を喪った葉隠こと鷹彦と、拠り所だった家族を喪い、孤独を恐れる不器用な青年・騒速が主役。尊敬する鷹彦について行きながら、自分の居場所を求め、徐々に孤独を溶かしていく騒速の若々しさにニヤける反面、癒えようのない孤独を独り抱える鷹彦の淋しさに、胸を締め付けられます。暗い思惑も蠢く中、孤独を抱える者同士はどんな結末にたどり着くのか、必見です。
夕星、葉隠/鷹彦、騒速と三者の名前を挙げてきましたが、彼女たち以外の登場人物もとにかく魅力的です。男性にも女性にも、惚れてしまうようなカッコよさを持つキャラ(もちろん、たおやかだったり可愛らしかったりするキャラや、油断ならないキャラもいます)が多く、一人一人紹介すると長くなるので、控えなければならないのが残念なくらいです。
古代日本の風や匂いを感じる、美しい情景描写もさることながら、濃淡も色合いも様々に渦巻く心理描写も見所の、上質な大河ファンタジー。読んでいる最中は没頭状態、読了後は放心状態になりかねませんので、そこだけ気をつけてお読みください!
登録:2021/8/14 10:21
更新:2021/9/8 22:49