洞窟の奥で作業に明け暮れる男と、その日常に突如訪れた変化のお話。
ジャンルとしては「異世界ファンタジー」なのですが、いわゆる剣と魔法のそれとは違う、幻想的で寓話的な雰囲気の物語です。
圧倒的な絵面の美しさ。〝たまぬき〟と呼ばれる作業の、現実のそれとは異なる独特の物理法則。そしてひとりその責務を負わされた、主人公イルマの存在そのもの。
世界観というのか感性というのか、なにか心のセンサーみたいな部分に、ビリビリ響いてくるものを感じました。
終盤、結びの手前付近の描写が最高に好きです。ここまでただの作業者であり、ただひとり〝死〟とは切り離されて見えたイルマの最大の転機。彼の存在の内側まで描写のカメラが入り込み、それによって描き出されたものの生々しさ。熱と匂いを伴った、まるで浮き立つみたいな〝生〟の感覚。
急に安全地帯を脅かされたような、物語世界のルールが予告なくひと回り広がったかのような。そういう嬉しい裏切りの快感がありました。
登録:2021/10/5 23:18
更新:2021/10/5 23:17