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他者の期待を背負う存在がヒーローであるのなら

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 肌の色を自由自在に変えることのできる男と、彼を取材しにきた人のお話。

 硬質な鋭さを感じるシリアスな物語です。設定的な面ではSFや現代ファンタジーのような味わいも楽しめますが、なるほどジャンルの通りの『現代ドラマ』といった趣の作品。

 舞台はとある国の小さな村、〝カメムシ男〟と呼ばれる不思議な擬態能力を持った男と、彼にインタビューする主人公。もちろん彼の能力について取材しているのですが、でも重要なのは(少なくともその光景を通じて読み手が見ているものは)この村とそこに伝わる伝承です。

 カメムシ男とは彼自身のことであると同時に彼の先祖のことでもあり、故に村の英雄として語り継がれているものの、でもその実態は——という、この堅牢な設定とその語られ方、読み手の興味をグイグイ引っ張ってくれる情報の出し引きが、実に秀逸というかもう普通にのめり込んでしまいました。

 これ以上はネタバレになりそうなので内容については語りませんが、結末までたどり着いたときのカタルシスが最高でした。細やかな伏線がひとつひとつ回収されて、その心地よさが主人公の心情への共感を強める、という、この巧みな物語設計と語りの手際。すんごいです。

 個人的には作品を通じて語られる主題というか、「ヒーローというもの(またはヒーローでないもの)」の描かれ方が好きです。登場人物個人を描写する中で、でももっとも強く描き出されるのはその属している集団。群の中にこそ英雄が生まれうるのだと、それを踏まえた上での結びの独白。ヒーローとは。作品そのものが投げかけてくる問いが、読後にしっかり余韻となって響く、堅牢で誠実な物語でした。

和田島イサキ

登録:2021/11/4 17:34

更新:2021/11/4 17:34

こちらは和田島イサキさんが読んだ当時の個人の感想です。詳細な事実については対象作品をご確認ください。

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610 light-years Love

来世における巡り合いのお話(※語弊のある表現)

 約九十年の人生の締めくくり、間抜けな人生だと自嘲しながらも、でも満ち足りて往生するひとりの男性のお話。  しっとりと落ち着いた描写が胸に沁みる、切なくも優しい手触りの人間ドラマ、のようなSFです。ドSF。どうやってもネタバレになるというか、いやそもそもタグの時点で明かされてるも同然な部分なので〝そこ〟についてはもう気にせず触れてしまうのですが(困る人はいますぐ本編へ!)、シミュレーション仮説をモチーフにしたお話です。その辺りを端的かつ印象深く象徴しているのが、本作のキャッチである『あなたの愛する人は本当に実在するのでしょうか?』の一文。これ好きです。本編の内容を読み終えてからだと、より強く意味合いが強調されるような感覚(後述します)。  導入であるところの「九十年の人生」、それはすべて仮想現実だった、というところから始まる物語。宇宙船での星間航行中、どうしても持て余すことになる長い時間を潰すための、娯楽としての人生のシミュレーション。要は長い夢から覚めたようなもので、さっきまでの人生はすべて作り物でしかなかった、というのがこのお話の肝というか前提になるわけですけれど。  ここで面白いのがこの主人公、というか作中の人類全般のことなのですけれど、寿命が半永久的に続くんです。現生人類の人生一回分の時間くらいは、ほとんどあっという間の出来事。さすがに未来(千年後)の世界だけあって全然違うと、それ自体は特段なんてことはないのですけれど。  宇宙船のコンピュータによってシミュレートされた方の人生、それが千年前(作品外における現代)の世界であるということと、そして『シミュレーション仮説』というタグ。これらの意味するところというかなんというか、まあ要するにメタ的に見ることで作品の主軸とはまた別の妙味を上乗せしてくるという、この構造とそのさりげなさにニヤリとしました。あくまでも副次的に書かれている、そのお洒落というか上品な感じ。  さて、その上でその主軸、物語のメインとなるドラマなのですが。まんまとやられたというか綺麗に決まったというか、きっちり組まれた構造の綺麗さにうっとりします。単純にロマンティックないい話でもあるのですけれど、これ構造だけ見てちょっと見方を変えるなら、ある意味転生ものみたいなところもあるんですよね。いわゆる前世からの生まれ変わり、離れ離れになった運命の相手に再び巡り合うお話のような。王道であり古典でもあるその類型を、でもただSF的な設定の上に持ってきただけでなく、まったく違う手触りに変えてみせる。物語を自分の(作者自身の)ものにする、というのは、たぶんこういうことなのかなと思いました。  あと大好きなところ、というか絶対触れずにはいられないのは、やっぱり結びのあの一文。このサゲの爽快感がもう最高に好きです。伏線等も綺麗に回収しつつ、すべてがこの瞬間のために描かれた物語。とても綺麗で、しっかり壮大なSFでありながらも、その向こうから人の生を伝えてくれる素敵な作品でした。

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和田島イサキ